「のんのんびより」というもうひとつの現実の終わり。

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 先日、「のんのんびより」のアニメ3期が盛況のうちに終了し、さらにはそれに先立つ形で原作のコミック連載も終了、コミックス最終巻もほぼアニメ最終回と同じくして発売され、名実ともにひとつの作品が終わった感がありました。コミックアライブで原作の連載が始まったのが2009年、いつの間にか10年を越える長期連載になっていたのです。

 

 しかし、このマンガに関しては、ここで終わることがまだ信じられないくらいで、その日常が続いていく作風からも、これから先もずっと続いていくとばかり思っていました。ゆえに、アニメ3期の放送に先立つ形で、原作の終了が告知された時は、あまりの衝撃にそれが信じられないくらいでした。

 

 「のんのんびより」は、いわゆる日常もの、日常系の作品として、そうしたジャンルの作品を愛するファンにとりわけ支持された作品だったことは間違いないと思います。しかし、他の同系の作品、例えばきらら4コマの作品あたりと比較すると、その作風には独特のものがあったと思います。原作者のあっとさんの描くキャラクターエピソードには、明らかに他の作品とは何か違う切り口があった。今回は、ひとつの名作の最後のそれを振り返りたいと思います。

 

 まず、真っ先に取り上げてみたいのは、やはりキャラクターでしょうか。「のんのんびより」のキャラクターには、明らかに他ではあまり見られない独特の個性がありました。


 中でも誰もが思いつくのは、やはり「れんちょん」こと宮内れんげでしょう。小学1年生にして謎の知性と感性を持ち、独特の言動を次々と繰り出すキャラクターに惹かれた人は多かったと思います。そしてこのれんげ、非常に尖った個性を持ちながら、同時に実際にいる子供のような行動を取るところに注目しました。

 

 例えば、これはアニメ1期で見られたエピソードですが、家に帰ったときに夕食がカレーだと知って、急に叫びだして家の中に駆け込むシーンがあります。この行動、非常に突飛な行動に見えるのですが、実際の子供がこうした大人にはびっくりするような行動をとることは、本当にありえることだと思います。同じようなことは、ウサギ小屋に向かって駆け出すシーンで突然地面に身を投げ出す行動にも感じられますし(原作2話、アニメ1期7話)、あるいはアニメ3期で初登場した女の子・しおりちゃんとの噛み合わない会話にも感じられます(子供同士ならではの噛み合わないリアクション)。こうした思わぬ行動は、他のマンガやアニメのキャラクターでは中々見られないのではないでしょうか。いわゆる二次元的なキャラクター造形ではあまり見られない、現実にいる人間の子供のような行動。これが、いわゆる日常系の萌え作品だと思われる「のんのんびより」で見られることが非常に興味深い。

 

 そしてもうひとり、なっつんこと越谷夏海というキャラクターにも注目したい。このキャラクターも、実は他の同系の作品からは、それらに見られる二次元的なキャラクターからは、ちょっと外れた個性を持っているのではないかと思うのです。一言で言えば、現実に見られる遊び好き、いたずら好きの悪ガキそのもの。勉強は決して好きではないが、毎日の遊びや日常の作業に関しては抜け目ない能力を披露する。この能力は、夏海と同じくいたずら好きのひかげ(ひか姉)とつるむことで最大の力を発揮し、このふたりが会うたびに懲りずに悪巧みをする話は、「のんのんびより」でも毎回屈指の爆笑回となっています。こうした「現実に実際にいてもおかしくない子供」の行動をつぶさに描くという切り口は、他の同系の作品ではあまり見られない「のんのんびより」独特の方向性になっていると思うのです。

 

 (実は、こうした「現実にいる子供、それも悪ガキの行動をリアルに描く萌え日常作品」という点では、もうひとつだけ該当する作品を知っています。「三ツ星カラーズ」です。こちらに登場する主人公の小学生3人組も、他の作品のキャラクターではあまり見ない、まさに悪ガキそのものの行動を取ることが印象的でした。なお、こちらのアニメの制作も「のんのんびより」と同じSILVER LINK.で、アニメの方向性にはいろいろ共通したところも感じられます。)

 

 そして、こうしたキャラクターたちが織り成すエピソードの現実性にも注目したい。現実性というか、実際に子供達がやるような遊びや行動がたびたび出てくるところが面白い。


 ひとつ例を挙げれば、アニメ2期で描かれた「定規飛ばし」の遊びでしょうか。机の上に定規を置いてそれを弾き合って落とすことを競う遊び、夏海のオーバーな解説がいちいち面白かったり、兄ちゃんが異様な技術性を見せたりと、見ているだけで爆笑もののシーン連発なのですが、そもそもこうした子供たちの素朴な遊びを詳細に取り上げること自体が面白いと思いました。こうした小学生や中学生が即興で遊ぶような子供の遊び、それを真正面からつぶさに描く切り口も「のんのんびより」ならではの作風だったと思います。

 

 さらには、そうしたキャラクターたちが暮らす田舎の光景。これはアニメで大きくクローズアップされた部分ですが、あえてキャラクターを小さく遠距離に置いて、それを取り巻く風景のパノラマを緻密に、しかもたっぷりと間を取って描く演出は、誰もが驚いたと思います。原作のマンガでも、あっと先生の描く背景は極めて濃いタッチで描かれる緻密なもので、これもまたある種の質感を持ったリアルさを感じさせます。これもまた、田舎という舞台を全面に打ち出した「のんのんびより」ならではの、最大の特徴と言えるかもしれません。

 

 こうした作風は、おそらくは原作者のあっとさんの経験に裏打ちされたものだと思っていますが、それが長い連載の中でまったく衰えずに、毎回新鮮な驚きと楽しさを見せてくれることが本当にうれしかった。あるいは連載を重ねるに連れて、さらにエピソードの面白さが増してくる感すらありました(アニメでも直近の3期収録のエピソードが一番面白かったと思います)。それゆえに、正直今でも連載が終わったことが信じられない。この独特の感性を持つあっと先生の次回作に期待したいところですが、この「のんのんびより」の長い長い連載の後に何が来るのか、まだ想像できないところです。