minoriのゲームと新海誠のOPムービーを振り返る。

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 かつて一世を風靡した美少女ゲームメーカー・minoriの解散からすでに5カ月。もともと、その時にminoriのゲームを振り返る記事を書こうと思っていたのですが、書きそびれて随分と日延べになっていました。しかし、かつてそのminoriで何度もOPムービーを手掛けた新海誠の最新作「天気の子」が先日より公開され、さらにはその内容がいかにもエロゲー的であると一部マニアの間で話題となっているようで、今こそminoriのゲームと新海誠のOPムービーを振り返る絶好の機会だと思いました。今こそ「天気の子」に便乗して(笑)、新海誠美少女ゲームエロゲー)での仕事ぶりをつぶさに振り返ってみようと思います。

 

 minoriという会社は、かつて存在したコミックス・ウェーブというコンテンツ会社の一部門で(現在はコミックス・ウェーブ・フィルムとしてアニメ映画の制作を担当)、その中で美少女ゲームを担当する会社だったようです。新海さんは、当時からこのコミックス・ウェーブに在籍してアニメ制作を手掛けており、その時の仕事のひとつとしてminoriのゲームのムービー制作にも携わっていた。この当時minoriのゲームOPを何度も担当していたのは、そういう事情があったようです。

 

 最初に彼がOPを担当したのは、BITTERSWEET FOOLS」(2001)美少女ゲームにしては珍しくイタリアが舞台で、原画を担当したのはあの相田裕。OPも彼によるマンガ的な作画と表現が目立ち、美少女ゲーム的な雰囲気は薄いかもしれません。しかし、この当時から空、街並み、自然の光景を描く新海誠テイストは端々で感じられます。個人的には南欧的な真っ白い壁の街並みから天上へと階段が伸びる幻想的な1カットがお気に入りです。

 また、原画を担当した相田裕は、のちに電撃で「GUNSLINGER GIRL」の連載を始めることになり、これはその制作のきっかけとなった原点的な作品となっています。こちらの方でも重要な作品と言えるかもしれません。

 

 さらにその1年後にOPを手掛けた作品が、Wind -a breath of heart-」(2002)。夕暮れの教室、屋上、街並み、草原、電車、そして空、空、青空! 2作目のここに来て完全に新海誠全開。「ほしのこえ」の制作と同時期の制作だったようで、この頃から今に続く彼の作品性を存分に感じることが出来るでしょう。
 ゲーム本編もかなりの人気を博し、テレビアニメ化までされるminori初期のヒット作となりました。ヒロインであるみなもの「問い詰め」シーンがネタ的に話題となったことも思い出されますが、今となっては知っている人、覚えている人も少なくなってしまったかもしれません。

 

 次いではるのあしおと」(2004)。このゲームのOPも新海テイスト全開。電車が走る街並みと広大な草原、空が大写しになる自然描写、その双方の空気感が相変わらず素晴らしい。また、これまでのエモーショナルな雰囲気から一転して、曲調も作画も明るい雰囲気で満たされているのが特徴的です。「天気の子」がエロゲーだという評判は先に話したとおりですが、個人的には最も新海的な雰囲気を感じるエロゲーとなると、この「はるのあしおと」が挙げられるかもしれません。

 

 そして、最後にたどり着いたのが、minoriにとって最大のヒット作となったef - a fairy tale of the two.」(2006~2008)。ゲームも大変なヒット作ですが、新海によるOPムービーもこれがひとつの終着点と言えるような特筆の出来栄えとなっています。夕暮れの屋上と空というもはや王道パターンとも言えるビジュアルが、進化した演出で大幅に強化され、劇的な曲とあいまって恐ろしくエモーショナルな一作に仕上がっている。なんでも「秒速5センチメートル」と完全に同時期で平行して制作されたようで、その意味でも初期新海作品のひとつの頂点ではないかと思います。
 ゲーム本編も大きな評価を獲得し、さらには同時期に放送されたシャフト制作のテレビアニメもヒット。一般的にはこちらのアニメの方がよく知られているかもしれません。これは単なるゲームのアニメ化ではなく、原作の展開に合わせてアニメも企画されており(原作1作目・the first tale.(2006)と2作目the latter tale.(2008)の間にアニメ(2007)が放送されている)、当時のシャフトが全力を出した傑作ではないかと思っています。

 

 そして、この「ef - a fairy tale of the two.」が、新海誠美少女ゲーム最後の仕事となり、以後はこのジャンルから手を引くことになります。しかし、あえてここでminoriのその後の作品まで目を向けると、残ったスタッフがその新海の仕事を引き継ぐかのように、そのテイストを受け継いだゲームOPを手掛けることになります。eden*」(2009)すぴぱら」(2012)がその代表ですが、最後の「すぴぱら」のOPはとりわけ傑作で、新海を受け継ぐ美しい光と街並み、自然の表現はもちろん、魔女が自在に空を飛ぶ高速感溢れる飛行シーンなどアニメーションとしても素晴らしい出来栄え。個人的にはこれこそがminoriの頂点ではないかと思います。
 しかし、「すぴぱら」のゲーム本編の売り上げは芳しくなかったようで、予定されていたシリーズ化も頓挫し1作で終了、以後の制作にも影を落とし、往時の精彩はなくなったように思われました。これがこの2019年で制作終了・解散の直接の契機となったようで、非常に残念な話となりました。

 

 一方で、親会社であるコミックス・ウェーブ・フィルムは、ここ最近は「君の名は。」に「天気の子」と大ヒットを連発するヒットメーカーとなっており、まさに最近のアニメの盛り上がりと、一方で美少女ゲームエロゲー)の人気の低下を象徴するような結果になっていると思います。しかし、それでかつてのminoriの作品が忘れ去られるのはあまりに惜しい。新海監督のかつてのもうひとつの傑作OPとしても、いつまでも心に留めておきたいと思います。

「私以外人類全員百合」

 

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 先月のKADOKAWA新刊から「私以外人類全員百合」(晴瀬ひろき)を取り上げたいと思います。作者の晴瀬さんは、少し前まできららMAXで「魔法少女のカレイなる余生」を連載していましたが、コミックス3巻で終了となっていました。こちらも面白い連載だと思っていただけに残念でしたが、次回作となったこのComicWalkerの連載も非常に切れた面白さを持っていたので、是非ともおすすめしておきたいです。

 

 主人公の潤野茉莉花は、ふつうを愛しふつうの人生を望んで生きている女子高生。しかし、ある朝の登校中に周囲の様子がおかしいことに気付きます。同級生の女友達2人は目の前でキスを始め、登校する女子生徒たちもみんなそんな雰囲気。それどころか共学だったはずの学校にはもう女の子しかいない。さらには自分の知っていた男性は誰一人いなくなり、「元から存在しないか、あるいはよく似た女の人に取って代わられている」。気がつけば世界には女性しかいなくなっており、ふつうだったはずの自分の方がひとり異質な存在となっていたのです。

 

 学校の授業によると歴史も変わっているらしく、「未曾有のウイルスにより男性は1920年代に絶滅。人類はかつてない危機に至ったが、必死の研究により単性生殖の方法が確立され絶滅回避に至った」。そんな中で元の世界そのままなのは、その日の朝家から持ってきた自分の教科書のみ。周囲の人に自分の知っている常識を問いかけても誰も相手にしてくれない。

 

 いや、そんな中で、ひとりだけ彼女の話を聞いてくれる者がいたのです。それは学園で秀才と一目置かれる香散見(かざみ)りりでした。主人公と偶然会話することになった彼女は、最初は茉莉花の言うことを信じようとしなかったものの、もともと興味のあった量子力学多世界解釈に対する知識が幸いし、彼女の話にも興味を持って2人でこの世界の謎を追っていくことになるのです。

 

 そして、このあとの世界の謎に迫っていくSF的展開が非常に面白いのです。主人公は別の世界から来たはずなのに、それ以前から彼女はこの世界に連続して存在していたこと。すなわちこの世界にはもうひとりの自分が存在しており、しかもここ数日何か様子がおかしかったこと。歴史は1920年頃の未曾有の災害から改変されているが、それ以前の歴史は元の世界と同じであること。さらには、今現在よりもその1920年に近付くほど歴史の食い違いが増しており、逆に今に近付くにつれてなぜか元の世界に近付いていること。
 こうした数々の事実からひとつひとつ推論し、ついにはもうひとりの自分がごく最近訪れたという、山奥の廃村の神社の存在を突き止める。そこには隠し通路の先に思わぬ施設があり・・・とコミックス1巻の範囲だけで非常に面白い展開となっています。個人的には、シュタインズゲートYU-NOのような世界改変型SFと同等の面白さがあり、それと百合設定を組み合わせた異色作にして非常な意欲作だと思います。

 

 それに加えて、主人公を中心とした百合関係を描く作品としても非常に面白い。茉莉花とふたりで行動することになった香散見(かざみ)りりは、この世界で怪しまれないための偽装だとして、学校での交流やデートを重ねますが、実際には彼女のことが気になって仕方がない姿を見えないところでさらしていて、そのギャップに満ちた様子が非常にかわいい。元の世界では弟だったはずの妹が主人公に見せるストーカー的な執着も見逃せません(笑)。

 

 こうしてSF作品としても百合作品としても、あるいは見方によってはホラーやギャグとしても楽しめると思われる本作。もともとはタイトルから先に思い付いて内容が自然に決まった作品のようですが、これが今存在する百合作品、あるいは一部の日常もの作品にまつわる疑問への解答のように思えるのも面白い。きららや百合姫のマンガやアニメで、作中に女性しか出てこないのは、男性が1920年代に絶滅したからである(笑)。そう考えても面白いのではないでしょうか。

少年シリウス発萌え4コマ─その最終結果報告。

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 アニメ化を達成して話題沸騰している4コマもあれば、あまり注目されずにひっそりを終わっていく4コマもある・・・ということで、今回はかつて講談社月刊少年シリウス、その誌面で始まったいわゆる萌え4コマ3作品、いずれもすでにかなり前に終わっていますが、最後にその連載経緯と結果報告をまとめて書き記しておきたいと思います。

 少年シリウス─現在では「はたらく細胞」とそのスピンオフ、あるいは「転スラ」のコミカライズとそのスピンオフ─あたりが看板になっているようですが、古くは2005年に創刊された雑誌で、ややファンタジーやマニアックな作品寄りの少年誌という位置付けで続いてきたと思います。そんな雑誌で「シリウス乙女部」と称して、きららやぱれっとに掲載されているような4コマ、いわゆる萌え4コマを打ち出してきたのが2017年の初頭。当時はあの講談社シリウス萌え4コマを?とかなり驚いて記事にした記憶があります。

 

 この時始まったのは、高校の日本舞踊部の活動を描いた「にちぶっ!」(石川沙絵)、吸血鬼と高校生の女の子がゴスロリショップを経営する「水曜日の夜には吸血鬼とお店を」(羽戸らみ)、4人の女子高生漫画家の活動を描いた「漫画家ちゃんは眠れない」(ゆあみ)の3本。いずれもスタンダードな(萌え)4コマ的な設定を持っていて、ここまで本格的な4コマ作品を打ち出してくるとは・・・と驚きました。そして、いずれの作品も確かな面白さを持っていて、1年後にコミックス1巻が揃って発売された時にはかなり話題にもなったと思います。

 

 しかし、その後の経緯は芳しくありませんでした。3作品とも2018年5月をもってウェブでの姉妹誌と言える『水曜日のシリウス』へと移籍。最近ではウェブ雑誌はひとつの中心になっているとはいえ、しかしこの移籍に関しては、本誌では人気が伸び悩んだ上でのウェブ雑誌移籍という結果ではなかったかと思います。さらには、その後「水曜日の夜には吸血鬼とお店を」と「漫画家ちゃんは眠れない」は連載終了を迎え、コミックスは2巻で完結となりましたが、その2巻は電子版のみでの刊行となり、紙のコミックスは発売されずに終わっています。これも非常に残念なところで、やはり期待されるだけの売り上げは見込めなかったのかなと思います。

 

 もうひとつ気になるのは「にちぶっ!」のその後の経緯です。他の2作品と同じく「水曜日のシリウス」に移籍したのですが、移籍直後に掲載が突然途絶え、以後完全に立ち消えになってしまいました。コミックスも1巻止まりで2巻の発売はなし。おそらくは作者になんらかのトラブルがあったのではないかと推測しているのですが、実際には不明のままで非常に心配されました。かつて同人でイラストの活動をしていた頃から注目していた人で、個人的には3作品の中でも最も期待していただけに、この結果は非常に残念なところでした。

 

 結果として、3作品ともいまいち振るわないままで早期の終了となり、後継となる新しい4コマ連載が立ち上がることもなく、シリウス萌え4コマ企画はここで終了となりました。4コマ誌でもこれはという連載が打ち切り終了となることが珍しくない今、シリウスという雑誌でまったく新しい4コマ企画を打ち出すのは、いまだに少々ハードルが高かったのかもしれない。きらら4コマのフォロワーとしても期待される、非常に意欲的な試みだっただけに、こういう最終結果になってしまって残念です。

「まちカドまぞく」放送直前! ついに時は来た!

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 アニメ化発表から半年近く。ついに待望のきららアニメ新作「まちカドまぞく」の放送が迫ってまいりました。放送前から原作の評判の高さ、きららや日常系ファンの期待の高さから一部でえらい盛り上がってるようですが、わたしも楽しみで仕方ありません(笑)。

 

 原作の面白さについては、その詰め込まれた4コマの密度の濃さ、キャラクターの関係性などの魅力を、すでに散々書いてきたので、放送直前の今回は、アニメ関連の周辺情報からその期待の高さを語っていこうと思います。

 

 まず、アニメの制作会社にはJ.C.STAFFの名が挙がっています。以前から数々の作品を手掛けてきた有名どころですが、きらら4コマが原作のアニメを手掛けることはあまりなく、発表された時はちょっと意外に思いました。最近では「とある魔術の禁書目録」やそのスピンオフの「超電磁砲」、今季から始まる「一方通行」、あるいは「ダンまち」こと「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」などの制作の方が、よく知られていると思います。


 しかし、最近になってひとつだけきららアニメを手掛けたことがありました。2017年冬の放送だった「うらら迷路帖」です。この時は同時期の放送で「けものフレンズ」や「ガヴリールドロップアウト」「小林さんちのメイドラゴン」と非常にライバルが多く、相対的にやや目立たなかったのが残念なところでしたが、しかし原作のかわいさを完璧に再現した作画と、キャラクターの出自と迷路帖の謎を絡めたストーリーは秀逸だったと思います。今回の「まちカドまぞく」のアニメは、制作スタッフや作画的にもこれに近い雰囲気を感じますし、今回も期待できると思います。

 

 さらには、スタッフの中でキャラクターデザインに大塚舞さんが起用されているのもポイントが高いですね。その「うらら迷路帖」のキャラクターデザインからの続投で、さらに以前の作品まで遡ると「のんのんびより」に「放課後のプレアデス」、「この美術部には問題がある!」と素晴らしい名作揃い。これはもう勝ったも同然でしょう!(笑)

 

 キャストに目を向けると、シャミ子と桃、このふたりのメインキャラクターに小原好美鬼頭明里という今話題の声優が共に抜擢されているのも注目です。小原好美さんは、最初に「魔法陣グルグル」の新作アニメでククリを担当したことで注目したのですが、ここ最近は「かぐや様は告らせたい」の藤原千花、「ひとりぼっちの○○生活」の八原かいとこれはというキャラクターが多い。特に尖ったキャラクターの性格と尖った演技で一躍人気となった藤原書記のインパクトは、いまだに記憶に新しいところです。
 一方で鬼頭明里さんも最近になって活躍がとみに目立つ新鋭で、きらら系なら「ブレンド・S」の日向夏帆、ここ最近は「私に天使が舞い降りた!」の姫坂乃愛、ぼっち生活の本庄アル、「鬼滅の刃」の禰豆子と話題作揃い。特にわたてんの乃愛(ノア)ちゃんの人気ぶりはいまだに印象深いところで、同じ日常系つながりで今回さらなる人気が期待できると思います。

 

 そして最後にもうひとつ。こうしたスタッフやキャスト以前の事実として、実に半年ぶりの久しぶりのきらら原作アニメというだけでもポイントが高いですね。昨年の2018年は「ゆるキャン△」に「スロウスタート」「こみっくがーるず」「はるかなレシーブ」と毎クールきららアニメが続いていましたが、最後に来た「アニマエール!」以降、2019年に入って2クール連続できらら原作アニメがないという由々しき事態。この間「私に天使が舞い降りた!」や「えんどろ~!」、「世話やきキツネの仙狐さん」と、同じ日常系のアニメで良作が続いたのは何よりでしたが、しかしなおきらら4コマ原作のアニメは待望のものがありました。平成最後のきららアニメとなった「アニマエール!」から半年。奇しくも令和最初のきららアニメとなった「まちカドまぞく」には、最大の期待をせずにはいられないところです。

「球詠」テレビアニメ化決定!

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 先日発売のきららフォワード最新号で、あの「球詠」(マウンテンプクイチ)のアニメ化が発表されました。かつては「あまゆる。」のような百合日常コメディをよく描いていたマウンテンプクイチさんの野球マンガ。もともと作者が野球が趣味ということは、当時のTwitterの書き込みなどから知ってはいましたが、しかしこうしたマンガまで描くとはと驚いた記憶があります。女子野球が広く全国の高校に浸透しているという設定で、それが最初から当たり前になっている世界での物語。このあたり非常にきらら連載らしい設定とも言えますが、野球の描写は極めて詳細で本格的なものとなっています。

 

 かつて幼い頃に共に野球を楽しんでいた武田詠深(ヨミ)と山崎珠姫(たまき)のふたりが高校で再会したことをきっかけに、今ではほぼ活動停止中だった高校野球部をほぼ一から再始動させ、全国を目指すことになるストーリー。中学からの経験者で部に入ってきた1年、部に残っていた先輩、そして完全な初心者だが大きな才能を秘めた者など、様々なメンバーが集まって練習を開始することになります。

 

 特筆すべきは、こうしたひとりひとりのキャラクターの野球に対する個性がしっかり描かれていること。展開自体はスピーディーで、1巻後半では最初の練習試合に入るほどで、ひとりの掘り下げに時間をかけているわけではないですが、しかしそれぞれのキャラクターの得意分野と苦手分野、プレイスタイルの好みがしっかりと設定され試合に反映されている。これはライバルとなる他校の生徒もそうで、中には驚くような個性的なスタイルを持つ選手やチームも登場し、その野球に対する掘り下げの深さに感心することもしばしば。

 

 そして、肝心要の野球の試合の描写も濃い。投球フォームや打撃シーンの張り詰めた瞬間を切り取った描写も魅力ですが、試合におけるひとつひとつのプレーをごく詳細に描く緻密な構成にも惹かれます。中盤からはほぼずっと試合のシーンが続いているような感じで、毎イニングひとつひとつのプレーが、その戦略上の意味まで含めて詳細に描かれる。最初に読み始めた頃は、ここまで詳しい野球描写が来るとは思わなかったので、非常に驚いた記憶があります。

 

 作者のマウンテンプクイチさんは、前述のとおりかつてはきららキャラット連載だった「あまゆる。」や、あるいは当時積極的に活動していた同人での創作において、百合要素の強いコメディや恋愛ものを手掛けていました。この「球詠」でもその要素は健在で、女の子同士の交流やその関係性が強く描かれるのも魅力ですが、それと同時に野球を描くことにも全力で取り組んでいることに驚きました。女子野球が広く浸透し、女の子が野球をプレーするのが日常の世界であり、男子野球との関係性や女子が野球を始める理由やきっかけが描かれるわけではない。そうしたバックグラウンドなしで「純粋に野球そのものと、その野球に取り組むキャラクターの関係性を描くことに集中している」点が、他の同系の作品とは違った大きな魅力ではないかと思っています。

今こそ社畜アニメを振り返る。

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 先日より好評のうちにアニメが終了した「世話やきキツネの仙狐さん」。仙狐さんのかわいさやコメディの面白さでも好評でしたが、同時に主人公の会社員・中野の勤める会社のブラック会社ぶりと、彼のいわゆる社畜ぶりにも注目が集まりました。ここ最近は、こうしたブラック企業が話題になる世相を反映してか、マンガやアニメでもいわゆる「社畜」とされるキャラクターが注目される作品が増えてきたように思われます。その中でも決定版がこの「仙狐さん」だった感もありますが、これをいい機会に改めてこうした作品のいくつかを取り上げてみました。

 

 より本格的かつリアルにこうした会社や仕事のあり方を描いた作品は、マンガ作品においてはいくつも見られるようですが、アニメではそうした作品よりも、むしろ単に会社や仕事を舞台にした作品、社会人を主役にした作品でも「社畜(アニメ)」と言われることが多いようです。これも視聴者にそうした社会人が多い現状を反映してのことでしょうか。

 

・「NEW GAME!
 原作・アニメ共に、別にブラックや社畜要素を強調するようなコンセプトは何もないにもかかわらず、最初からその長時間にわたる仕事ぶりが取りざたされ、真っ先に社畜アニメだブラックだと言われ続ける不運な作品。最大のきっかけとなったのは、アニメ1話で朝から夜までずっと働いている勤務時間の長さが、海外の視聴者に取り上げられたツイートへの反応が集まったことでしょうか。


 本来はゲーム制作の楽しさや奥深さを描くコンセプトでもあったはずですが、実際には会社や社員のあり方の方ばかり注目されるあたり、今の日本のブラックな労働環境を感じずにはいられないのですが、最もブラックだと思われるのは、アニメ化に合わせて毎月2話掲載や描き下ろしの新コミックス、無数のカラーイラストなど大量の仕事をやらされた原作者の待遇かもしれません。

 

・「小林さんちのメイドラゴン
 IT企業に勤める会社員・小林さんと彼女の家に集うドラゴン・トールたちの生活を描いたコメディですが、小林さんの会社での待遇の描写には見るべきものがあり、とりわけ理不尽な所長のパワハラに悩まされるオフィスでの描写は必見。そもそも小林さんがトールと出会ったきっかけも、仕事の憂さで飲んで酔っ払っていたことが理由になっています。その上司を痛快に懲らしめるドラゴン・トールの活躍ぶりと、最終的にはその悪行が報告されて解雇されるくだりは、多くの社会人が溜飲を下げたと思われます。今思えば、全体的に「仙狐さん」の設定と様々な点で近いものがあり、どちらも社会人要素をうまく取り入れた名作であると思います。

 

・「いきのこれ! 社畜ちゃん」
 アニメ化こそされてないものの、社畜を描いたマンガと聞いて真っ先に思いつくのはこれでしょう。IT企業に勤める作者の実体験がストレートに反映されており、Twitterで連載されて読めるという気軽さも手伝って、ネットで一大人気を博しました。かわいい女の子(いわゆる萌えキャラクター)とコミカルな4コマが基本ではありますが、一方で実体験を基にしたブラックなプロジェクトの経緯が語られるシリアスなエピソードもあり、そうしたリアルなIT会社の現実を描いている点でも評価は高い。正直アニメ化してもいいくらいの面白さはあったと思いますが、時期を逸した感はありますね。

 

・「ハッカドール THE あにめ~しょん」7話。
 「社畜 アニメ」で検索すると、真っ先に「NEW GAME!」、次に「SHIROBAKO」、さらに「社畜ちゃん」「仙狐さん」と多い順にヒットするのですが、この2位に入った「SHIROBAKO」以上に、そのパロディである「ハッカドール」アニメの7話「KUROBAKO」もまた、よりストレートにアニメ業界そのままの描写で注目に値すると思います。
 最近では「ガーリッシュナンバー」あたりでも描かれた「万策尽きた」アニメ制作の悲惨な動向がひたすら詰め込まれ、ショートアニメならではの密度の濃さで爆笑を誘うに十分でした。悲惨な現場の手伝いに駆り出され、ついには逃げ出したハッカドール1号の「やっぱりアニメは家で見るのが一番」というセリフは、アニメ業界のブラックぶりを象徴する名言として、放送直後は大いに話題にもなりました。

 

・「アキバズトリップ」7話。
 秋葉原を舞台に謎の侵略者と戦うバトル&ギャグコメディの良作ですが、この7話は異色でした。主人公がメイド喫茶の仕事をする話なのですが、その業務内容のブラックぶりが徹底的に風刺して描かれており、それもあのブラックぶりで大きな批判を浴びたワタミの異常な体制を徹底的に描いていたことで注目に値します。過重な勤務態勢をむしろいいものとして扱い、よく働いたものにまったく意味のない報酬を与えるワタミの異様さが、ほぼそのまま描かれていて苦笑を禁じえない。最終的に主人公は17連勤までさせられたところで救われる形となりましたが、秋葉原の様々な文化を取り上げたこのアニメにおいて、唯一アキバとは直接関係のないワタミのブラックぶりを風刺したこの回は、異色中の異色にして屈指の名作回だと思われます。

 

・「魔法少女なんてもういいですから」2期9話。
 魔法少女もののパロディとして屈指の面白さを誇る通称「まほいい」ですが、このアニメの2期9話が最高でした。それまでも、たびたび主人公(ゆずか)の父親が、始発から終電まで働く社畜的なキャラクターとして登場していたのですが、この9話でついに爆発。社畜として働き続けるために労働基準監督署が派遣した「悪のロボット」を魔法少女と共に倒すというぶっ飛んだ展開で、あまりの面白さに卒倒しました。本来ならロボットは労働基準法を守らせる正義の存在のはずですが、それを魔法少女たちが倒すという善悪反転した設定が面白すぎました。
 なお、この主人公の父親(ヨシヒロという名前らしい)は、仙狐さんの中野といろいろかぶるところがあり(中の人も同じ諏訪部順一だし)、ある意味中野のプロトタイプではないかと思っています。その意味で今に続く社畜アニメの原点的な描写ではないかとも思いますね。

「蜂の巣」に見る日本の未来予想図。

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 先日、一迅社ゼロサムで久しぶりに「最遊記」の連載が再開され、作者の峰倉かずやさんの健在ぶりを確認することになりました。随分とブランクは空いてしまったけれども、絵的にも内容的にもその面白さは往時そのまま。作者の深刻な体調不良がなければ、もうずっと以前に完結まで辿り着いてたのではと思われる作品だけに、ここから先は無事に連載が続いてほしいものです。

 

 しかし、個人的には、峰倉さんのかつての作品で、もうひとつなんらかの続編を描いてほしいと思っているものがあります。「蜂の巣」というタイトルの短編連作のような作品で、最初は2002年に刊行されたGファンタジーの増刊号「Gファンタジー++」に読み切りとして掲載。以後お家騒動を経て一迅社へと移籍後、そちらの雑誌で何度か1話完結の連作のような形で掲載され、最終的に1冊のコミックスにまとまっています。

 この「蜂の巣」、少し先の近未来の日本を舞台にしたSF的な設定を持っており、度重なる災害と人口減少で荒廃し、葬式の習慣すら廃れた日本社会で、亡くなった人の遺体を回収して回る「葬迎員」として働く2人の公務員の活動を描くストーリーとなっています。そして、この作品で描かれた未来日本の予想図に非常に興味深いものがありました。なお、タイトルの「蜂の巣」とは、亡くなった人の遺体を狙った臓器売買が横行するすさんだ社会で、「なら自分は死ぬなら蜂の巣がいいなあ」という主人公のセリフに由来しています。

 

 まず、基本的な設定である「葬式の習慣すら廃れた未来の日本」という設定。葬式という人生で最も重要とも思われるイベントが廃れるとか、家族を重視する日本社会でそんなことがあり得るのか。最初にこの「蜂の巣」を読んだ時、いくらなんでも非現実的じゃないかと思ってしまいました。しかし、今となってこれが現実化しつつあるのです。
 最近のニュースによると、葬式を行わずに火葬場に直行する「直葬」と呼ばれる形式が増えており、今の時点ですでに25%(4分の1)を超えるというデータまであります。さらには、自分の葬儀も直葬でいいと答える人も増えており、世代別では50%を超えるところもあると報じられています。
(参考)【式行わず火葬のみ 増える直葬https://news.yahoo.co.jp/feature/1358
 今の時点でこの数字ならば、これから先大きく人口が減少し、孤独死が増える未来社会ならば、もはや葬式が行われない人が多数を占めてもまったくおかしくはない。むしろ現実的と言える設定ではなかったかと、今になって思ってしまいました。

 

 さらには、この「蜂の巣」、未来の東京が舞台なのですが、この地は「『グランドシンカー』と呼ばれる2度に渡る巨大地震」によって荒廃し、廃墟化・スラム化が進んでいるという設定でもあります。「2度の巨大地震」というだけで、ひとつは東日本大震災、もうひとつはやがて来る東海地震が想起されるのですが、実際にこの作品が描かれたのは2000年代初頭。つまり、偶然にものちの時代と一致したかのような設定になっています。

 さらには、荒廃が進む東京を見捨てるように政府は西方の都市に首都を移転(名古屋のあたりという設定)。今では主人公達が活動する旧新宿地区をはじめ、多くの地域がスラム化して犯罪が横行する状態となっています。
 現実の世界では、東京への人口集中がいまだ止まらない状態で、首都移転まではそうそう起こらないと思いますが、しかし一部ではすでに人口の減少による空洞化が始まっており、入居率が下がっているマンションも珍しくない。こうして管理が行き届かない地域において荒廃が進むことは十分あり得ると思っています。

 

 そしてもうひとつ、「蜂の巣」というタイトルは、この未来日本が蜂の巣状の無数のブロックに区分けされ、新しい行政単位となっているという設定にも由来しています。元々は先ほど述べたように主人公のセリフに由来するはずですが、のちに設定が加わってこのような意味も追加されました。
 作中の描写によると、どうもすでに都道府県という行政単位は完全に崩壊しているらしく、すべての国民がこの新しいブロック状の行政区域に所属しているようです。主人公のうちひとりの出身地が「関東圏7区」。もう1人は「東北圏36区」。ふたりが働いている場所が「東京第13地区」となっています。

 現実の世界では、都道府県や市区町村に対する国民の愛着は相当強いものがあるので、簡単にこれが無くなることはなさそうです。しかし、これから先本格的に人口が減少し、ほとんどの地方が限界を迎え維持不可能に陥った時、最終的にこうなる可能性がまったくないとは言い切れない。少なくとも、ひとつの未来予想図として説得力のある設定ではないかと思っています。