minoriのゲームと新海誠のOPムービーを振り返る。

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 かつて一世を風靡した美少女ゲームメーカー・minoriの解散からすでに5カ月。もともと、その時にminoriのゲームを振り返る記事を書こうと思っていたのですが、書きそびれて随分と日延べになっていました。しかし、かつてそのminoriで何度もOPムービーを手掛けた新海誠の最新作「天気の子」が先日より公開され、さらにはその内容がいかにもエロゲー的であると一部マニアの間で話題となっているようで、今こそminoriのゲームと新海誠のOPムービーを振り返る絶好の機会だと思いました。今こそ「天気の子」に便乗して(笑)、新海誠美少女ゲームエロゲー)での仕事ぶりをつぶさに振り返ってみようと思います。

 

 minoriという会社は、かつて存在したコミックス・ウェーブというコンテンツ会社の一部門で(現在はコミックス・ウェーブ・フィルムとしてアニメ映画の制作を担当)、その中で美少女ゲームを担当する会社だったようです。新海さんは、当時からこのコミックス・ウェーブに在籍してアニメ制作を手掛けており、その時の仕事のひとつとしてminoriのゲームのムービー制作にも携わっていた。この当時minoriのゲームOPを何度も担当していたのは、そういう事情があったようです。

 

 最初に彼がOPを担当したのは、BITTERSWEET FOOLS」(2001)美少女ゲームにしては珍しくイタリアが舞台で、原画を担当したのはあの相田裕。OPも彼によるマンガ的な作画と表現が目立ち、美少女ゲーム的な雰囲気は薄いかもしれません。しかし、この当時から空、街並み、自然の光景を描く新海誠テイストは端々で感じられます。個人的には南欧的な真っ白い壁の街並みから天上へと階段が伸びる幻想的な1カットがお気に入りです。

 また、原画を担当した相田裕は、のちに電撃で「GUNSLINGER GIRL」の連載を始めることになり、これはその制作のきっかけとなった原点的な作品となっています。こちらの方でも重要な作品と言えるかもしれません。

 

 さらにその1年後にOPを手掛けた作品が、Wind -a breath of heart-」(2002)。夕暮れの教室、屋上、街並み、草原、電車、そして空、空、青空! 2作目のここに来て完全に新海誠全開。「ほしのこえ」の制作と同時期の制作だったようで、この頃から今に続く彼の作品性を存分に感じることが出来るでしょう。
 ゲーム本編もかなりの人気を博し、テレビアニメ化までされるminori初期のヒット作となりました。ヒロインであるみなもの「問い詰め」シーンがネタ的に話題となったことも思い出されますが、今となっては知っている人、覚えている人も少なくなってしまったかもしれません。

 

 次いではるのあしおと」(2004)。このゲームのOPも新海テイスト全開。電車が走る街並みと広大な草原、空が大写しになる自然描写、その双方の空気感が相変わらず素晴らしい。また、これまでのエモーショナルな雰囲気から一転して、曲調も作画も明るい雰囲気で満たされているのが特徴的です。「天気の子」がエロゲーだという評判は先に話したとおりですが、個人的には最も新海的な雰囲気を感じるエロゲーとなると、この「はるのあしおと」が挙げられるかもしれません。

 

 そして、最後にたどり着いたのが、minoriにとって最大のヒット作となったef - a fairy tale of the two.」(2006~2008)。ゲームも大変なヒット作ですが、新海によるOPムービーもこれがひとつの終着点と言えるような特筆の出来栄えとなっています。夕暮れの屋上と空というもはや王道パターンとも言えるビジュアルが、進化した演出で大幅に強化され、劇的な曲とあいまって恐ろしくエモーショナルな一作に仕上がっている。なんでも「秒速5センチメートル」と完全に同時期で平行して制作されたようで、その意味でも初期新海作品のひとつの頂点ではないかと思います。
 ゲーム本編も大きな評価を獲得し、さらには同時期に放送されたシャフト制作のテレビアニメもヒット。一般的にはこちらのアニメの方がよく知られているかもしれません。これは単なるゲームのアニメ化ではなく、原作の展開に合わせてアニメも企画されており(原作1作目・the first tale.(2006)と2作目the latter tale.(2008)の間にアニメ(2007)が放送されている)、当時のシャフトが全力を出した傑作ではないかと思っています。

 

 そして、この「ef - a fairy tale of the two.」が、新海誠美少女ゲーム最後の仕事となり、以後はこのジャンルから手を引くことになります。しかし、あえてここでminoriのその後の作品まで目を向けると、残ったスタッフがその新海の仕事を引き継ぐかのように、そのテイストを受け継いだゲームOPを手掛けることになります。eden*」(2009)すぴぱら」(2012)がその代表ですが、最後の「すぴぱら」のOPはとりわけ傑作で、新海を受け継ぐ美しい光と街並み、自然の表現はもちろん、魔女が自在に空を飛ぶ高速感溢れる飛行シーンなどアニメーションとしても素晴らしい出来栄え。個人的にはこれこそがminoriの頂点ではないかと思います。
 しかし、「すぴぱら」のゲーム本編の売り上げは芳しくなかったようで、予定されていたシリーズ化も頓挫し1作で終了、以後の制作にも影を落とし、往時の精彩はなくなったように思われました。これがこの2019年で制作終了・解散の直接の契機となったようで、非常に残念な話となりました。

 

 一方で、親会社であるコミックス・ウェーブ・フィルムは、ここ最近は「君の名は。」に「天気の子」と大ヒットを連発するヒットメーカーとなっており、まさに最近のアニメの盛り上がりと、一方で美少女ゲームエロゲー)の人気の低下を象徴するような結果になっていると思います。しかし、それでかつてのminoriの作品が忘れ去られるのはあまりに惜しい。新海監督のかつてのもうひとつの傑作OPとしても、いつまでも心に留めておきたいと思います。