ゆるゆり→青春おうか部→ガヴリールドロップアウト?

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 今回は「ガヴリールドロップアウト」の作者うかみ先生の前作「青春おうか部」を取り上げてみたいと思います。もともとは電撃大王に連載されていた作品で、コミックスは1巻のみの刊行で終わっています。しかし、最近になってうかみ先生自身が同人誌として再録した本の刊行を始めていて、かなりの分量があったコミックス未収録の回まで収録されています。

 

 ガヴリールと同じ日常学園コメディと言える作品で、こちらは4コママンガでした。さらに言えば、こちらの方がより日常ものの要素が色濃く、学校で「青春謳歌部」なる部活を立ち上げ、自由きままに毎日を楽しく過ごす主人公・夕紀をはじめとする女の子たちの日常が描かれています。「青春謳歌部」なる名称からは、何か積極的な活動を志すような部活にも見えますが、実際にはそんなことはほとんどなく、毎日をゆるく楽しく過ごすことに全力を投入した、日常部活ものの明るさ・楽しさが存分に出た作品になっています。

 

 とりわけ、作者がかねてよりファンだったという「ゆるゆり」からの影響が端々で見られるようで、そもそも「青春謳歌部」の活動内容自体が、ゆるゆりの「ごらく部」のそれを彷彿とさせますし、学校の「作法室」なる和室の部屋を勝手に使っているという設定にも、ストレートな共通感があります。それでいて、このマンガならではの個性的なキャラクターやより優しい雰囲気が感じられ、スタンダードな設定ながら確かな面白さはあったと思います。

 

 もうひとつ、この後に続く「ガヴリールドロップアウト」の原点になったと思われる設定、キャラクターがいくつも見られるのも興味深い。主人公の夕紀(綾戸夕紀)は、明るく活発なガヴリールという印象で、周囲を騒がせるトラブルメーカーながら暗いところのない性格で、さしずめ「きれいなガヴ」といったところです(笑)。あえて礼儀正しい優等生な生徒を演じるエピソードなどは、ガヴリールでも見られる同じようなエピソードを彷彿とさせます。
 もうひとりの主人公と言える桜子(冬咲桜子)は、常識的かつ真面目な生徒で、夕紀に対する突っ込み役。こちらは間違いなくヴィネットでしょう。あちらのふたりと比較して、常に同じ部活で近くで活動しているあたり、より仲の良さが強く出ているような気がします。その点では「ゆるゆり」の京子と結衣の関係にも近い。

 

 逆にちょっと黒い性格をしているのが、コミックスでは未収録になってしまった連載後半で登場するクラス委員・星川伊奈。こちらはそのままラフィエルとの共通感があります。その一方で、必ずしもガヴリールとは合致しないタイプのキャラクターも幾人も見られ、謳歌部3人目の部員でまさかの男の娘であるエフィー、4人目の部員で一見してお嬢様然とした雰囲気も見せる眼鏡の秀才少女・海月(みつき)と、この作品ならではの個性的なキャラクターも多い。つくづくもコミックス1巻で終了したのは惜しかったなと思います。

 

 こうしてみると、うかみ先生のデビュー作だったこの作品、比較的短い連載期間ながら、前後の関連作との流れが顕著に見られるのが面白いと思います。すなわち、「ゆるゆり→青春おうか部→ガヴリールドロップアウト」と、明らかに創作の流れのようなものが垣間見える。アニメ化して一気に人気が爆発した「ガヴリールドロップアウト」も、いきなりそういう作品が生まれたのではなく、そこに至るまでの創作の遍歴があった上でそこに辿り着いた。こういう個人の創作の流れ、歴史が見えるのってほんとに面白くて、それを知ることでさらに個々の作品が楽しめるのではないかと思います。