「ネコぱら」という美少女ゲームの遺産。

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 今季のアニメの中でも一部でえらい熱心な支持を集めている「ネコぱら」。原作はエロゲーのヒット作として知られていて、そのアニメ化となるとそれほど珍しいケースではないかもしれませんが、しかしこれは予想以上の良作でした。2020年の今になってアニメ化されたこの作品は、今風のバランスの取れた日常ものとなっていて、かつ毎回のエピソードも存分に楽しめるものとなっていたのです。

 

 もともと、この「ネコぱら」は、中国出身のイラストレーター「さより」さんが、かねてより描いていたオリジナルキャラクター「ショコラ」と「バニラ」が原点の原点となっています。このふたりは、当時活動していた同人サークルの看板娘的なキャラクターで、当時pixivや同人誌で何回も見た記憶がありました。これが2010年前後の話になります。

 

 その後、さよりさんが商業の仕事を始めたことで、こうしたイラストや本で見かけることは少なくなっていたのですが、しかしのちにこのキャラクターを使ったゲーム化の企画が立ち上がったようで、2014年の末になってPCのダウンロード販売という形でリリース。そして、これが海外を中心に思わぬ評判を呼ぶことになりました。

 

 エロゲー美少女ゲーム)というと、国内でのコアユーザー向けという印象が強いですが、海外でもこうした作品に対する潜在的な需要はあったようで、発売直後から海外での反響が一気に上昇。特に北米と中国での売り上げが非常に大きく、この記事によると170万本の売り上げに達したとあります。これは、PCでのダウンロード販売でかつソフトの価格が廉価であることが非常に大きかったようで、こうした海外からの求めやすさが潜在的な需要を呼び起こしたのではないかと思います。「エロゲー」といっても、あの大きなパッケージで毎週金曜日に秋葉原で行列ができるようなタイトルとはまったく異なる販売形式で、PCで気軽にダウンロードできるいわば廉価版のノベルゲームに近いもので、これが海外でもヒットしたというのはかなり大きな出来事ではないかと思います。

 

 さらには、この時のユーザーからアニメ化まで望む声が高まり、いわゆるクラウドファンディングで実現を達成したOVA(2017年)を経て、テレビアニメの制作も2019年に発表。この2020年初頭からついに放送が始まったという流れになっています。

 

 こうした流れを踏まえると、この作品は、かれこれ10年に及ぶ長い時を経てアニメ化という形で具現化した、今は衰退したかつての美少女ゲームの遺産的な存在ではないかと思えるようになりました。PCの美少女ゲームが衰退したと言われて久しいですが、2010年頃はまだ今よりは栄えていたと思います。しかし、そこからさらに衰退は続き、かつては盛んに行われたゲームのアニメ化もめっきり少なくなりました。そんな中で、2020年になって唐突に登場したかのようなこの「ネコぱら」のテレビアニメ。それは、長い時間を経て今の時代に浮上した、かつて栄えた美少女ゲームの遺産のように思えてしまったのです。

 

 テレビアニメとなった「ネコぱら」は、18禁の要素は完全になくなり、作風も最近の日常もの作品にほど近いものになった気がします。原作ゲームの続編で追加されたキャラクターたちも全員登場し、とりわけVol.3で登場した「シナモン」と「メイプル」は、アニメでもその存在感が際立つ人気キャラクターになりました。さらにはアニメオリジナルのキャラクター「カカオ」も登場し、彼女を中心にした優れたエピソードも多数見られることになりました。個人的には、この「ネコぱら」は、アニメになることでひとつの「完全版」として完成したのではないかとすら思っています。今の時代にこうしたアニメが見られたことに心の底から感謝したいと思ってます。