今こそ社畜アニメを振り返る。

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 先日より好評のうちにアニメが終了した「世話やきキツネの仙狐さん」。仙狐さんのかわいさやコメディの面白さでも好評でしたが、同時に主人公の会社員・中野の勤める会社のブラック会社ぶりと、彼のいわゆる社畜ぶりにも注目が集まりました。ここ最近は、こうしたブラック企業が話題になる世相を反映してか、マンガやアニメでもいわゆる「社畜」とされるキャラクターが注目される作品が増えてきたように思われます。その中でも決定版がこの「仙狐さん」だった感もありますが、これをいい機会に改めてこうした作品のいくつかを取り上げてみました。

 

 より本格的かつリアルにこうした会社や仕事のあり方を描いた作品は、マンガ作品においてはいくつも見られるようですが、アニメではそうした作品よりも、むしろ単に会社や仕事を舞台にした作品、社会人を主役にした作品でも「社畜(アニメ)」と言われることが多いようです。これも視聴者にそうした社会人が多い現状を反映してのことでしょうか。

 

・「NEW GAME!
 原作・アニメ共に、別にブラックや社畜要素を強調するようなコンセプトは何もないにもかかわらず、最初からその長時間にわたる仕事ぶりが取りざたされ、真っ先に社畜アニメだブラックだと言われ続ける不運な作品。最大のきっかけとなったのは、アニメ1話で朝から夜までずっと働いている勤務時間の長さが、海外の視聴者に取り上げられたツイートへの反応が集まったことでしょうか。


 本来はゲーム制作の楽しさや奥深さを描くコンセプトでもあったはずですが、実際には会社や社員のあり方の方ばかり注目されるあたり、今の日本のブラックな労働環境を感じずにはいられないのですが、最もブラックだと思われるのは、アニメ化に合わせて毎月2話掲載や描き下ろしの新コミックス、無数のカラーイラストなど大量の仕事をやらされた原作者の待遇かもしれません。

 

・「小林さんちのメイドラゴン
 IT企業に勤める会社員・小林さんと彼女の家に集うドラゴン・トールたちの生活を描いたコメディですが、小林さんの会社での待遇の描写には見るべきものがあり、とりわけ理不尽な所長のパワハラに悩まされるオフィスでの描写は必見。そもそも小林さんがトールと出会ったきっかけも、仕事の憂さで飲んで酔っ払っていたことが理由になっています。その上司を痛快に懲らしめるドラゴン・トールの活躍ぶりと、最終的にはその悪行が報告されて解雇されるくだりは、多くの社会人が溜飲を下げたと思われます。今思えば、全体的に「仙狐さん」の設定と様々な点で近いものがあり、どちらも社会人要素をうまく取り入れた名作であると思います。

 

・「いきのこれ! 社畜ちゃん」
 アニメ化こそされてないものの、社畜を描いたマンガと聞いて真っ先に思いつくのはこれでしょう。IT企業に勤める作者の実体験がストレートに反映されており、Twitterで連載されて読めるという気軽さも手伝って、ネットで一大人気を博しました。かわいい女の子(いわゆる萌えキャラクター)とコミカルな4コマが基本ではありますが、一方で実体験を基にしたブラックなプロジェクトの経緯が語られるシリアスなエピソードもあり、そうしたリアルなIT会社の現実を描いている点でも評価は高い。正直アニメ化してもいいくらいの面白さはあったと思いますが、時期を逸した感はありますね。

 

・「ハッカドール THE あにめ~しょん」7話。
 「社畜 アニメ」で検索すると、真っ先に「NEW GAME!」、次に「SHIROBAKO」、さらに「社畜ちゃん」「仙狐さん」と多い順にヒットするのですが、この2位に入った「SHIROBAKO」以上に、そのパロディである「ハッカドール」アニメの7話「KUROBAKO」もまた、よりストレートにアニメ業界そのままの描写で注目に値すると思います。
 最近では「ガーリッシュナンバー」あたりでも描かれた「万策尽きた」アニメ制作の悲惨な動向がひたすら詰め込まれ、ショートアニメならではの密度の濃さで爆笑を誘うに十分でした。悲惨な現場の手伝いに駆り出され、ついには逃げ出したハッカドール1号の「やっぱりアニメは家で見るのが一番」というセリフは、アニメ業界のブラックぶりを象徴する名言として、放送直後は大いに話題にもなりました。

 

・「アキバズトリップ」7話。
 秋葉原を舞台に謎の侵略者と戦うバトル&ギャグコメディの良作ですが、この7話は異色でした。主人公がメイド喫茶の仕事をする話なのですが、その業務内容のブラックぶりが徹底的に風刺して描かれており、それもあのブラックぶりで大きな批判を浴びたワタミの異常な体制を徹底的に描いていたことで注目に値します。過重な勤務態勢をむしろいいものとして扱い、よく働いたものにまったく意味のない報酬を与えるワタミの異様さが、ほぼそのまま描かれていて苦笑を禁じえない。最終的に主人公は17連勤までさせられたところで救われる形となりましたが、秋葉原の様々な文化を取り上げたこのアニメにおいて、唯一アキバとは直接関係のないワタミのブラックぶりを風刺したこの回は、異色中の異色にして屈指の名作回だと思われます。

 

・「魔法少女なんてもういいですから」2期9話。
 魔法少女もののパロディとして屈指の面白さを誇る通称「まほいい」ですが、このアニメの2期9話が最高でした。それまでも、たびたび主人公(ゆずか)の父親が、始発から終電まで働く社畜的なキャラクターとして登場していたのですが、この9話でついに爆発。社畜として働き続けるために労働基準監督署が派遣した「悪のロボット」を魔法少女と共に倒すというぶっ飛んだ展開で、あまりの面白さに卒倒しました。本来ならロボットは労働基準法を守らせる正義の存在のはずですが、それを魔法少女たちが倒すという善悪反転した設定が面白すぎました。
 なお、この主人公の父親(ヨシヒロという名前らしい)は、仙狐さんの中野といろいろかぶるところがあり(中の人も同じ諏訪部順一だし)、ある意味中野のプロトタイプではないかと思っています。その意味で今に続く社畜アニメの原点的な描写ではないかとも思いますね。