「蜂の巣」に見る日本の未来予想図。

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 先日、一迅社ゼロサムで久しぶりに「最遊記」の連載が再開され、作者の峰倉かずやさんの健在ぶりを確認することになりました。随分とブランクは空いてしまったけれども、絵的にも内容的にもその面白さは往時そのまま。作者の深刻な体調不良がなければ、もうずっと以前に完結まで辿り着いてたのではと思われる作品だけに、ここから先は無事に連載が続いてほしいものです。

 

 しかし、個人的には、峰倉さんのかつての作品で、もうひとつなんらかの続編を描いてほしいと思っているものがあります。「蜂の巣」というタイトルの短編連作のような作品で、最初は2002年に刊行されたGファンタジーの増刊号「Gファンタジー++」に読み切りとして掲載。以後お家騒動を経て一迅社へと移籍後、そちらの雑誌で何度か1話完結の連作のような形で掲載され、最終的に1冊のコミックスにまとまっています。

 この「蜂の巣」、少し先の近未来の日本を舞台にしたSF的な設定を持っており、度重なる災害と人口減少で荒廃し、葬式の習慣すら廃れた日本社会で、亡くなった人の遺体を回収して回る「葬迎員」として働く2人の公務員の活動を描くストーリーとなっています。そして、この作品で描かれた未来日本の予想図に非常に興味深いものがありました。なお、タイトルの「蜂の巣」とは、亡くなった人の遺体を狙った臓器売買が横行するすさんだ社会で、「なら自分は死ぬなら蜂の巣がいいなあ」という主人公のセリフに由来しています。

 

 まず、基本的な設定である「葬式の習慣すら廃れた未来の日本」という設定。葬式という人生で最も重要とも思われるイベントが廃れるとか、家族を重視する日本社会でそんなことがあり得るのか。最初にこの「蜂の巣」を読んだ時、いくらなんでも非現実的じゃないかと思ってしまいました。しかし、今となってこれが現実化しつつあるのです。
 最近のニュースによると、葬式を行わずに火葬場に直行する「直葬」と呼ばれる形式が増えており、今の時点ですでに25%(4分の1)を超えるというデータまであります。さらには、自分の葬儀も直葬でいいと答える人も増えており、世代別では50%を超えるところもあると報じられています。
(参考)【式行わず火葬のみ 増える直葬https://news.yahoo.co.jp/feature/1358
 今の時点でこの数字ならば、これから先大きく人口が減少し、孤独死が増える未来社会ならば、もはや葬式が行われない人が多数を占めてもまったくおかしくはない。むしろ現実的と言える設定ではなかったかと、今になって思ってしまいました。

 

 さらには、この「蜂の巣」、未来の東京が舞台なのですが、この地は「『グランドシンカー』と呼ばれる2度に渡る巨大地震」によって荒廃し、廃墟化・スラム化が進んでいるという設定でもあります。「2度の巨大地震」というだけで、ひとつは東日本大震災、もうひとつはやがて来る東海地震が想起されるのですが、実際にこの作品が描かれたのは2000年代初頭。つまり、偶然にものちの時代と一致したかのような設定になっています。

 さらには、荒廃が進む東京を見捨てるように政府は西方の都市に首都を移転(名古屋のあたりという設定)。今では主人公達が活動する旧新宿地区をはじめ、多くの地域がスラム化して犯罪が横行する状態となっています。
 現実の世界では、東京への人口集中がいまだ止まらない状態で、首都移転まではそうそう起こらないと思いますが、しかし一部ではすでに人口の減少による空洞化が始まっており、入居率が下がっているマンションも珍しくない。こうして管理が行き届かない地域において荒廃が進むことは十分あり得ると思っています。

 

 そしてもうひとつ、「蜂の巣」というタイトルは、この未来日本が蜂の巣状の無数のブロックに区分けされ、新しい行政単位となっているという設定にも由来しています。元々は先ほど述べたように主人公のセリフに由来するはずですが、のちに設定が加わってこのような意味も追加されました。
 作中の描写によると、どうもすでに都道府県という行政単位は完全に崩壊しているらしく、すべての国民がこの新しいブロック状の行政区域に所属しているようです。主人公のうちひとりの出身地が「関東圏7区」。もう1人は「東北圏36区」。ふたりが働いている場所が「東京第13地区」となっています。

 現実の世界では、都道府県や市区町村に対する国民の愛着は相当強いものがあるので、簡単にこれが無くなることはなさそうです。しかし、これから先本格的に人口が減少し、ほとんどの地方が限界を迎え維持不可能に陥った時、最終的にこうなる可能性がまったくないとは言い切れない。少なくとも、ひとつの未来予想図として説得力のある設定ではないかと思っています。