「防御特化とつながる宇宙。」

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 第12話「防御特化とつながり。」
 第12話「つながる宇宙」

 

 どちらも今季アニメ最終回のタイトルなのですが、上が「防振り」こと「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います」、下が「恋アス」こと「恋する小惑星」の最終回です。特に関連性は薄いと思われるこの2作品ですが、最終回で偶然にもタイトルが重なり、さらには内容的にも漠然とつながるものがあったと感じました。

 

 「防振り」は、ライトノベル原作のオンラインゲーム(MMORPG)もので、もとは「小説家になろう」投稿小説。「なろう」「なろう系」ともよく呼ばれる、異世界VRゲーム世界を舞台にした作品が目立つジャンル。一方で、「恋アス」は、原作は「まんがタイムきらら」系列の雑誌(きららキャラット)連載の4コママンガで、こちらは「きらら4コマ」「きらら系」ともよく呼ばれるジャンル。いずれもアニメ化作品が相次ぐ人気ジャンルですが、その内容も読者層も大きく異なるものと思っていたので、今回のこの2作品も、それぞれ別タイプの作品として楽しんでいました。

 

 しかし、こうして最終回まで見るに及んで、最後の展開において一定の共通感を持ってしまったのです。それは、最後のサブタイトルが示すとおりに、キャラクター同士のつながりが大きくオーバーラップされる展開です。


 「防振り」は、最初は主人公とその友人(メイプルとサリー)、ふたりで始めたオンラインRPGですが、ゲームを進めるうちに少しずつ知り合いのプレイヤーが増え、やがて彼らと共にギルドを結成、そしてギルド同士の対抗イベントではライバルと熾烈な競争を演じますが、しかしイベント終了後は彼らとも打ち解け、全員が一同に会して大団円というエンディングを迎えています。まさにプレイヤー同士のつながりが全面に描かれた楽しさに満ちた結びだったと思います。


 一方で「恋アス」は、かつて幼い頃に出会って「小惑星を見つける」という約束を交わした主人公とヒロイン(みらとあお)が、高校の地学部で再開したことをきっかけに、地学部員たちと共に積極的な活動を始め、やがてその活動を軸にさらに多くの人とつながり、最後はやはり全員のつながりを描く結びになっていました。「ひとりひとりが世界を持っている、それらがつながって宇宙になる」というラストの独白も印象的です。

 

 加えて、この2作品に共通性を感じた部分として、最初から「楽しさ」の描写にすべてを割り振っているところがありました。「防振り」が顕著で、この作品はオンラインゲームを舞台にしながら、あくまで「楽しいゲームプレイ」のみを描くことに全振りしていて、ゲームの世界から出られなくなったり、主人公が危機に瀕したりするようなことはありません。ゲームの世界で死んだとしても、一時的なゲームオーバーになるだけで本当に死ぬことはない。そんなゆるやかな世界で、自分から積極的に目の前のイベントを攻略しに向かう、その楽しさが全編を通して描かれています。

 

 「恋アス」に関しては、「地学」という地質・天文・気象等幅広い分野にまたがる学問において、ひとりひとりのキャラクターそれぞれが好きなものへの興味を持ち、日々その活動を楽しむ姿が、全体を通して描かれています。部活動を通して厳しすぎる練習や試練を受けたり、理不尽な強敵が立ちはだかるようなことはない。これは、きらら4コマに総じて共通した作風で、これはその中でも特に「好きなものに取り組む楽しさ」が強調されているようです。

 

 面白いのは、こうした厳しい要素がない作風が、「防振り」の方にも共通していることです。「ノンストレスな大冒険」というのがこのアニメのキャッチコピーのひとつなのですが、主人公にストレスがかかるような理不尽な悪役や苦しい試練に当たるようなものは、確かにこの作品には見られません。そう、この作品には悪役と言えるようなキャラクターは存在せず、ライバルはいても純粋な敵はいないのです。

 

 主人公がチートとも言える能力で苦戦せず大活躍をするような作品は、「なろう」系ライトノベルやアニメではよく見られると言われますが、しかし主人公の能力は同じでも、悪役となる凶悪な敵がいたり、人々が虐げられるような殺伐とした世界で活躍する作品と、そもそも最初からそうした悪人や敵がいない世界で活躍する作品では、その方向性がかなり違うような気がします。「防振り」の特徴は、そうした理不尽な悪や殺伐とした環境が存在しない「優しさ」であり、これはライトノベル原作の異世界ものやゲームものにおいては、すごく貴重なものではないかと思うのです。

 

 主人公やキャラクターの前に、強大な敵や試練といった壁となる要素が立ちはだかり、それを見事打破した時に、読者にもカタルシスを与える。そうした物語作りは、これまでひとつの基本でありスタンダードであったと思います。しかし、今あえてこうしたカタルシスに頼らず「楽しさ」や「優しさ」に特化した作品が、多くの読者の間で高い支持を集めている。これは、個人的には非常にうれしい流れだと思いますね。