「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。」

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 今季の冬アニメは非常に面白いものが多く、追い掛けるだけでも大変な思いをしていますが、その中でもアニメ化以前の原作からずっと期待していた「防振り」こと「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。」をピックアップしてみたいと思います。


 原作は夕蜜柑さんによる「小説家になろう」で掲載されたライトノベルですが、わたしが特に注目していたのはKADOKAWAコンプエースで連載が始まったコミカライズです。コミカライズの作画を以前より同人での活動で知っていたおいもとさんが担当したことで、それをきっかけにコミック版から読み始めました。その後、ほどなくしてアニメ化企画の発表があり、発表からしばし待たされましたがこの2020年冬よりついにアニメ放送開始。こちらも期待通り、いや期待以上の作品となっていたので、今こそその魅力を存分に伝えてみたい。

 

 物語の舞台となるのは、『NewWorld Online』というタイトルのMMORPGの世界。主人公の本条楓は、メイプルという名前でこのゲームを始めるのですが、ゲーム初心者ならではの極端な手探りプレイの結果、「大盾」という防御力特化のクラスを極めてしまい、ほぼダメージを受けない無敵の力を手に入れることになります。やがて、このゲームを彼女に勧めた友人・理沙(サリー)とも合流し、このふたりの元にやがて集う仲間たちと共に、楽しくゲームを続けていくことになります。

 

 最初にこの作品を面白いと思ったのは、メイプルとその友人サリーのプレイスタイルの違いです。サリーは、メイプルとは異なりゲームに慣れたプレイヤーで、こちらは回避能力に特化したキャラクターを作成、持ち前のゲームテクニックで巧みにゲームを進めていく。初心者らしいたどたどしいプレイのメイプルとの対照性が面白く、そのかっこよさとかわいさに惹かれてしまいました。アニメでは、その回避に特化したスピード感溢れるバトルを抜群の作画であますことなく再現。これはこのアニメの大きな見所のひとつになっています。

 

 そしてもうひとつ、この作品ならではのコンセプトとして、あくまでゲームの世界での楽しい冒険や生活を描いていることがあります。こうしたMMORPGの世界を舞台にしたライトノベルやアニメは枚挙に暇がありませんが、そうした作品の多くは、ゲームの世界から戻れなくなったり、あるいは突然異世界に飛ばされたり、あるいはゲームにおいてもシビアで厳しい世界観やストーリーが描かれたり、そうしたタイトルが目立つような気がするのです。

 

 そうした作品が多い理由としては、こうした小説やアニメが、かつての本格ファンタジーの延長として描かれている理由が大きいと思いますが、逆にあくまで遊びとしてのゲームの楽しさ、それだけに100%極振りしたようなタイトルは、逆に少数派で珍しいような気もするのです。この「防振り」は、その楽しいゲームのプレイをただひたすらに描いているところがあまりに愛おしい。ゲームの戦闘やダンジョンにおいて、仮に死んだとしてもスタート地点に戻るだけで、本当に死んだり世界が危機に陥るようなことはない。目の前のイベントにチャレンジし、スキルやアイテムを手に入れて強くなる楽しさが存分に描かれている。メイプルとサリーふたりがオンオフ問わず仲良く一緒に会話してるシーンがそれを象徴しています。やがて2人の下には仲間が集まりギルドを結成することにもなりますが、広々した拠点で気の合う仲間たちと過ごすシーンも、楽しさと優しさに満ちています。

 

 主人公たちがいわゆるチート的な能力を手に入れて、それで余裕をもってゲーム世界や異世界で活動をする話は多数ありますが、この「防振り」も、確かにメイプルやサリーはとんでもない強さを手に入れています。しかし、「防振り」がそれらの作品と異なるのは、彼女たちを取り巻く世界そのものが優しいこと。凶悪な魔物が跋扈していたり、住人たちが虐げられていたり、殺伐とした争いが起こっていたりするようなことは一切ない。そういう世界を描いていること自体が本当に素晴らしいと思いますね。

 

 アニメの制作はSILVER LINK.ですが、今回は作画に圧倒的に全振りしていて、スピード感溢れるアクションはもとより美しいゲーム世界を描いた背景美も素晴らしいの一言。ここ最近は個人的にちょっと好みからは外れる作品が多かったのですが、この防振りはもう完全に自分のツボでした。のんのんびよりあんハピ♪を手掛けたシルリンが帰ってきた。もはや動画工房SILVER LINK.なしでは生きていけない身体になってしまいましたね(笑)。