ヨシノサツキ新連載も面白い。

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 先日「ばらかもん」の連載が終了したヨシノサツキさんの新連載「ヨシノズイカラ」が、少年ガンガンで始まっています。「ばからもん」作者の次回作ということで、開始前から編集部はかなり推しているようですが、期待に違わず面白い興味深い作品になっているようです。

 

 連載第1話は、田舎の小さな学校に通う男子中学生4人と個性的な女性教諭が織り成すコメディとなっていて、これはこれで非常に尖った個性の片鱗を見せる面白い作品だと思っていました。しかし、実はそれはある男性マンガ家が描く新作マンガのストーリーで、実は作中作だったという驚きの展開を見せます。

 

 本当の主人公は、ド田舎と言ってもいい離島の僻地に住む男性マンガ家・遠野なるひこ(32歳)。すでに10年もの間マンガ家生活を続けてきましたが、何本かやってきた連載はすべて打ち切りとなり、担当編集者から新しいジャンルにチャレンジしてみないかと提案されます。それは、これまで描いてきたファンタジーとは真逆の現実日常系でした。なるひこは、本当に自分の描きたいものとの葛藤を抱えつつ、新しい日常系マンガの連載を始めるのだが・・・という筋立てとなっています。

 

 マンガ家を題材にしたマンガは枚挙に暇が無いですが、この「ヨシノズイカラ」ならではのポイントは、主人公が本当に僻地の田舎に住んでいるということでしょう。マンガを描く道具を手に入れることすら難しいような、そんな店すらないような場所。担当編集者とは日々電話でやり取りしつつ、ずっと長い間マンガの連載を続けてきました。

 

 マンガ家を描くマンガの設定としては、やはり中央の都市やそこから比較的近い近郊に住んで活動する設定が多いような気がします。これは、作家にとってなくてはならない担当編集者とのつながりを描いたり、あるいはアシスタントや同業のマンガ家との交流を描いたりするのに都合が良かったり、あるいは現実においてそうした生活を送っている作家が多いという理由もあると思います。そんな中で、あえてこのマンガはそうした交流が薄い離島の田舎を舞台にして、そんな場所ならではのマンガ家生活を描く。このあたり、「ばらかもん」の設定と多分に共通するところもあり、まさにこのヨシノサツキらしいマンガになっていると思います。

 

 ちなみに、こんな田舎でも彼のマンガを慕ってアシスタントになった青年(とし坊)がおり、お世辞にも明るい性格とは言えないオタク気質のマンガ家と、気さくで明るい性格の好青年といえるアシスタントという、まさに対照的な陰キャ陽キャのコンビがマンガをつながりとして意外に馬が合うという、非常に面白い関係が見られます。

 

 もうひとつ、興味深いシーンとして、かつて主人公がマンガ家になるまでの道筋、子供時代からの成長の過程を追っていくエピソードがあります。元々小学生の時からマンガが好きで、自作のマンガを教室で友達に見せて喜ばれていた日々。その頃は周囲の同級生みんなマンガを読んでいましたが、いつか彼らのほとんどが「卒業」していく中、自分だけは相変わらずマンガを読み、そういう趣味に没頭し続けていた。そう、気が付けば自然と「オタク」になっていたのです。

 

 彼が住む田舎でも、同じ学校に同好のオタクたちは存在し、自然と集まってサークルを作って放課後に活動を行うようになった。テレビでアニメはろくに放送されず、雑誌やコミックスの発売は何日も遅れる。そんな場所でも、彼らは彼らなりに趣味を楽しんで過ごしていた。そんな学生時代の幸せな日々が丹念に描かれており、これは作者の実体験もあるのかなと思いました。「オタクは女の子と付きあいたいんじゃなくて女の子になりたいんだよな」というオタク仲間のセリフにも共感するところがあり、実際の今のオタクの姿をよく捉えていると思います。

 

 そんな楽しいマンガを趣味にした生活の延長として、半ば必然的にマンガ家となり、しかしうだつがあがらないまま10年が過ぎていたなるひこ。そんな彼がこれから先どんなマンガを描いていくのか。そんな現代ならではのマンガ家の姿を描く、新感覚のマンガ家マンガとして、これからの展開も非常に楽しみなところです。