「稲川さんの恋と怪談」

kenkyukan2018-04-17

 少し前の話ですが、2月にコミックス1巻が発売された「稲川さんの恋と怪談」(ヨゲンメ)を紹介したいと思います。電撃マオウで先日より始まった新連載ですが、始まった当初から目立つ迫力ある作画で注目していました。コミックスでまとめて読んで、改めてその面白さを実感した次第です。

 「稲川さんの恋と怪談」は、ホラーマンガ家として活動する稲川さん(稲川マツ)と、彼女の元でアシスタントをすることになったマンガ家志望の高校生・内未(うつみ)くんの日々の創作活動を描いたホラー&コメディ作品。マンガ家をテーマにした作品は、ずっと以前から枚挙に暇がありませんが、このマンガの場合、実際のホラー体験(怪奇現象への遭遇)が、そのままマンガの執筆に繋がっているところが面白いと感じました。

 高校生にして初めて編集部にマンガの持ち込みに来た内未くんは、初めての完成原稿を編集者に徹底的にけなされ、意気消沈してしまいます。しかし、その直後に別の雑誌の編集者に声をかけられ、ホラー誌で連載するマンガ家・稲川さんのアシスタントをやってみないかと勧められます。そのマンガを目にして圧倒的な完成度に驚く内未くんですが、実際に作者である稲川さんに会ってからの活動は、さらに意外な驚きに満ちたものだったのです。

 具体的には、「実際に怪奇現象が起こるとされる場所に2人で取材に行く」→「怪異に遭遇、もしくは怪異に苦しむ依頼人の頼みを解決」→「その体験をヒントに稲川さんがマンガを執筆する」というストーリーになっています。登場する怪奇現象は、不気味な歌が流れるというトンネル・一軒屋の仏間で起こる恐怖現象・「神隠しの森」と呼ばれる山中で起こるとされる失踪事件など、ホラーのシチュエーションとして本格的なもの。しかもそれが単なる噂話ではなく、毎回実際に怪奇現象に遭遇し、人並みに霊感のある内未くんだけがそれを直に体験、まったく霊感がない稲川さんにその様子を伝え、それからインスピレーションを得た彼女が新しい話のアイデアを思いつくといった構成が面白い。

 1巻の範囲では、マンガ家のアシスタントの仮眠室に現れ、原稿の執筆を要求する霊の話が特に面白いと思いました。実際に霊が現れるという部屋に待機して、現れた怪異に向けて「あなたが描いてください」と繰り返し呼びかけた結果、朝起きると本当に原稿が完成していた。マンガの執筆というテーマとホラー要素が直接結び付いたこの話が、現時点で一番の印象に残っています。この時の内未くんと稲川さんの会話が、さらに彼がこの世界へと足を踏み入れるきっかけになるくだりもいいですね。

 作画に迫力があり、とりわけ要所要所で使われた黒の表現が、ホラーの暗い雰囲気を醸し出しているのもいいですね。マンガ家マンガとしてだけでなく、ホラーマンガとしてもかなり面白いものがあると思います。電撃の次の有力候補として期待したいですね。