「しろいろとくろいろ」が商業コミックス化。

kenkyukan2018-06-22

 先日、6月のコミックス発売一覧で、「ハッピーシュガーライフ」の8巻と同時に「しろしろとくろいろ」のタイトルまで見つけて、非常に驚いてしまいました。かつて「ハッピーシュガーライフ」の作者・鍵空とみやきさんが同人で出していた作品ですが、まさかこれが今になって商業コミックスに収録されるとは思いませんでした。鍵空さんの同人作品は他にも多数ありますが、その中でもこれはとりわけ難解な内容で、商業で出すのは難しいと思える作品だと思います。
 「しろしろとくろいろ」は、かつて同人誌で4冊ほど出ていたシリーズ作品。今になって改めて後付けを調べてみると、最初の1冊が2008年8月。2冊目が2008年9月。そして3冊目が2009年2月。4冊目(これのみタイトルが「くろいろとしろいろ」)が2009年10月となっていました。のちにこの4冊をまとめた総集編が同年12月に出ています。あまりに昔すぎてもう覚えていませんでしたが、まさか10年近く前になるとは。
 その内容ですが、どこともつかない真っ白な世界で、どこまでも追いかけっこをする「白い子」と「黒い子」の姿を描いたファンタジー物語でしょうか。「白い子」の方は小さな子供に見えますし、「黒い子」の方は大人びた少年か青年くらいの年齢に見えますが、その本当の正体は見た目からは分からない。真っ白い空虚な世界で白い子は黒い子を追いかけます。小さく幼い白い子から逃げるのは黒い子にとって簡単なことのはずですが、なぜかその姿を放っておくことが出来ない。しかし、もし白い子に追いつかれて触れられるとその子は死んでしまうことを知っている。ゆえにいつまでも付かず離れず追いかけっこを続ける・・・といったストーリーになっています。

 ファンタジーといってもゲーム的な異世界ファンタジーではなく、童話的、あるいは寓話的なファンタジーと言える内容でしょうか。白い子と黒い子の正体は最後まで明確には語られず、本当に見た目どおりの存在なのかもしれないし、あるいは人の姿を取っている何かなのかもしれない。あるいは具体的な存在ですらなく、人間の内面か何かを描いた象徴である可能性もある。そんな読者の想像に多くを委ねるかのような内容で、初めて読んだ時には非常に戸惑いました。

 最近でこそ「ハッピーシュガーライフ」のヒットで知られている鍵空さんですが、同人誌での作品は、いわゆる創作同人的なもので、商業作品とはかなり雰囲気や方向性の異なるものが多く、これはその中でも決定的なものだと思います。ある程度以上の分かりやすい娯楽要素が求められる商業作品では、まず受けることは難しいと思っていました。
 実は、ずっと以前にも鍵空さんの同人的な作品が商業で掲載されたことがあります。「ゆめのみち」と「ユウグレ」という読み切りで、いずれも芳文社のきららフォワードで掲載されました。掲載時期は2009年とこの「しろいろとくろいろ」の執筆時期とほど近く、この作品ほど難解ではないものの、やはり創作同人的な 要素が極めて強いものでした。そして、どうも読者の反応は芳しくなかったようで、2回の読み切りだけでその後の掲載はありませんでした。

 その後、しばらくしてスクエニのJOKERの方で読み切り掲載から初連載を獲得した鍵空さんですが、以後の作品は多かれ少なかれ商業に寄った内容になっていたと思います。ゆえに、同人作品の中でもとりわけ創作的とも言える「しろいろとくろいろ」がここで商業コミックス化されることは本当に驚き。「ハッピーシュガーライフ」のアニメ化がそのきっかけだと思いますが、この機会にその独特の世界が多くの人の目に触れてほしいと思います。