「籠の少女は恋をする」

kenkyukan2018-01-31

 1月の電撃コミックスの新刊から、「籠の少女は恋をする」(川浪いずみ)が先日発売されました。このところ、電撃大王では、「やがて君になる」や「新米姉妹のふたりごはん」、アンソロジー「エクレア」などで百合作品を強く推すようになっていますが、この「籠の少女は恋をする」もまた非常に印象的な作品となっています。雑誌で追いかけていた時から、その内容にえらく衝撃を受けていましたが、コミックスでまとめて読んで改めて大変な問題作だと思いました。
 コミックナタリーの記事では、「美しい少女ばかりが集められる全寮制の奇妙な学園が舞台」などと書かれていますが、その実ここは男に買われるための少女を育てるための学園であり、屈辱的なカリキュラムの数々と厳しい選抜制度からくる生徒間の軋轢、そして卒業後に待ち構える運命と、ひどく衝撃的な設定になっています。作者の対談でも「悪趣味なものを書きたかった」とありますが、それにしてもひとつひとつの設定がえぐるように執拗に描かれていて、いくらなんでも悪趣味がすぎると思いました(笑)。

 学園の制度だけではありません。主人公たちを初めとするこの学校の女生徒たちの多くは、過去に様々なひどい経験をしていて、行き場を失ってここへと来たものばかり。主人公の千鶴はかつて同居した親戚の男たちに性的行為を受けているようですし、主人公と親しくなる双子姉妹の冬子と美緒も家庭でひどい目にあっている。外ではひどい目に遭い学園の待遇もひどく卒業後の運命もひどい。まったく救いのない設定と言ってもいい。わたしは、こうした重い状況でのシリアスな関係を描く百合作品を、「しんどい百合」などと表現していますが、しかしこれほど読んでいてしんどい作品も中々ないと思いました。

 ただ、そんな中で僅かな救いとなっているのが、学園の生徒同士の繋がりであり、カリキュラムの一環で性的関係を持っていることもあって、卒業までのひと時の間極めて強い絆を持つことになる。作者の川浪さんは、「今だけの関係」と表現していますが、そんなわずかな短い時間しか構築されない、やがて別れが見えている状況での絆の強さを描くというコンセプトは、確かにとても魅力的に感じられました。

 そして、このようなシビアな百合作品が、電撃大王で連載されているというのも驚きです。百合姫なら他にも重い設定の作品は多いと思いますが、電撃でこれが掲載されるとは思わなかった。作者の川浪さんは、かつて同人では東方や艦これで活動していて、やはり重い雰囲気の作品をよく手掛けていたのですが、しかしまさか初の商業連載でこんな作品を出してくるとは。百合に本格的に力を入れるようになった電撃大王ですが、これはまた楽しみな作品が出てきましたよ。