夏コミ同人誌ちょっと紹介。

kenkyukan2017-08-23

・「観葉植物になって百合カップルのイチャラブ生活を見守る話」(みかみてれん/てれたにあ)
 創作小説ですが、もう本当に完全にタイトル通りの内容で驚きますよ。死んで妹の部屋の観葉植物となった高校生の姉が、小学生の妹とその友達ふたりの百合関係的な生活を長年にわたって見守っていく話。目の前で紡がれる百合描写が萌えあり感動ありでとにかく面白い。小学生から中学生、高校生と大きく成長していく妹たちとその関係性の変化を描くコンセプトも素晴らしい。あと、観葉植物になるというぶっとんだ設定、その日々の生活のおかしさを描くくだりもいいギャグ(ある意味ホラー)になっていて、随所で笑って読めるのもいいですね。
 作者のみかみてれん先生は、小説家でなろうで活動しつつ商業のライトノベルでもデビューしており、コミックキューンでもマンガ原作を担当するなど(「JK小説家っぽい!」)、多方面での活躍にさらに期待される作家だと思いますよ。


・「MEMOIRES OF EVER17」(滝川悠/Lovepockets)
 今回これを選んだのは完全に自分の趣味ですね。15年前に発売された「Ever17」でキャラクターデザインを担当した滝川悠さんによるかつてを振り返るイラスト集。あの当時から、こうしたジャンルのゲーム(ギャルゲー)で見られるオーソドックスな絵柄からは少しはずれた、線の細いスタイリッシュな絵柄に目を引かれていたのですが、それが15年経った今でもほとんど変わっていないことに安心しました。
 内容について何を言ってもネタバレになってしまうのがもどかしいのですが、ゲームを実際にプレイして進めないとに見られないキャラクター関係性、それを直接描いたイラストが見られたのはうれしかったですね。これを作中の舞台である2017年に見られたことに感動しました。
 そして、この本が見られた今、作品のもうひとつの舞台である17年後、2034年にはどうなっているのか気になります。作中で描かれた未来世界の技術が少しでも実現しているのか。そもそも自分は生きているのか、今と同じ生活をしているのか、まだイベントに通って本を買っているのか。また17年後にもこの本が出て、自分がそれを読んでいることに期待したいと思いますね・・・。


・「TARI TARI 鎌倉・江の島聖地巡礼ガイド」(サークルEMA)
 ここ数年、いわゆる舞台探訪(聖地巡礼)系の同人誌の質の向上がめざましいと思っているのですが、中でもこの江の島・鎌倉を中心に活動するサークル・EMAの出す本のクオリティには驚かされます。今回の新刊は、もう5年前の放送になったアニメ「TARI TARI」の聖地巡礼本。
 基本は1ページで舞台となった場所の写真+テキストとミニマップでの紹介というスタイルで、特に重要な場所では特集ページもあるという構成。しかし、その舞台の位置と周辺情報の記述が非常に詳しく、極めて正確性が高く情報量も多い申し分ない観光ガイドとなっていて驚き。作中で商店街のイベントから泥棒を追いかけるシーンなどは、その詳細な逃走ルートと個々の舞台の場所が逐一紹介される徹底ぶり。これは本当に驚いてしまいました。
もうひとつ、アニメファンの巡礼地となっている店舗に掲示される黒板イラスト、数カ月に1回のペースで更新されるそのイラストの写真を5年分ずっと掲載しているのもすごい。中には1カ月経たずに切り替わったイラストもあり、これを全部収録しているのは驚きとしか言えない。
 中にはこの5年で姿が変わったところもあり、かつて作中でミュージカルが上演された会場は今では更地となっており、ヒーローショーが行われた商店街もアーケードがなくなり衰退、あの有名な鎌倉高校前駅の踏切も、2015年以降工事が始まり景観が変わってしまっているようです。奇しくも5年間の時間の経過を感じる一冊にもなってますね。


・「あいた〜ん1〜4」総集編(ナナセミオリ・コキリン/山猫BOX)
 つい先日商業コミックスを紹介したばかりだけど気にしない。こちらはオリジナルの創作本のシリーズ総集編で、田舎で暮らす素朴な女の子・ひばりと都会から越してきた垢抜けた女の子・大和(やまと)の出会いと日常を描くコメディですね。見た目も行動も純朴そのもののひばりと、垢抜けて押しの強い現代っ子大和のずれた掛け合いが楽しい。大和から見ると、なんとも田舎っぽくて垢抜けないひばりをなんとか今時の女の子に仕立てようとする形に、ひばりから見れば活発で魅力的な大和と彼女が暮らしていた都会(東京)に憧れる形になっていて、その関係性が面白いですね。

 それともうひとつ、この総集編ならではの特典として、作中の舞台となった場所の紹介が写真付きで7ページも掲載されています。これまでの単体の本では、明確な舞台モデルは出てこず(地名も変わっている)、特定の舞台があるとは思っていなかったのですが、まさか北秋田秋田内陸線沿線だったとは。特に作中で最寄り駅となっている岩野目駅近辺は、本当に田舎で道と森ばかりの場所で驚いてしまいました。バスも1日に上りと下りが1本ずつしかない・・・。これは逆に聖地巡礼に行きたくなってきましたよ。
 最近は舞台探訪の動きも速く、アニメやマンガの舞台がすぐ開拓されることも当たり前になっていますが、これは同人誌だけにさすがにまだ誰も知らないだろうということで、その舞台をいち早く知ってちょっとうれしくなりました。