上田信舟先生の歩みを振り返る。

kenkyukan2017-08-02

先日、90年代のGファンタジーを振り返る記事を書いたところ、上田信舟先生の「魔神転生」や「女神異聞録ペルソナ」に結構な反応があり、いまだにあの頃の人気を再確認しました。やはりあの当時の女神転生メガテン)を原作にしたコミックは、今でも強く支持されているのだなとうれしく思いました。一方で、それ以後今現在まで息の長い活動をしている作家でもあり、ここでは今一度その歩みを振り返ってみるべきかなと思います。
 上田先生の商業デビューは、おそらくは92年頃で、この頃にゲームアンソロジーで活動を始めたようです。特にファイアーエムブレムの読み切りがデビュー作だったようです。その時の読み切りは、のちにエニックスから「ファイアーエムブレム 風の魔導士」として一冊にまとまっています。

 その後、94年から、エニックスGファンタジーで初連載となる「魔神転生」の連載を開始。96年に終了し、同年末から今度は「女神異聞録ペルソナ」の連載を開始。これが2000年まで続く長期連載となります。この2作が、今でも根強い支持を得る最大の人気作となりました。
 このふたつの作品の特徴は、原作ゲームの持つシナリオに積極的に様々な要素を加味し、あるいはキャラクターにも独自の解釈を加え、より深く魅力的なストーリーに仕上げていること。1作目の「魔神転生」などは、主人公にデフォルトネームはなく、会話シーンも少なく非常にシンプルなゲームだったのですが、コミックでは主人公たちに「都心の廃墟で生きる少年たち」という設定を加え、序盤から読ませるエピソードをいきなり見せてくれました。原作の重要キャラクター、エティアンヌと南一佐の出番も大幅に増え、パーティーに同行する形となり、さらにはゲームでは完全に戦闘ユニットに過ぎなかった仲魔たちにも、固有のキャラクター性を追加、魅力あるキャラクターに仕上げています。このマンガで初めてオルトロスのかっこよさに惹かれた読者も少なからずいるはずです。
 「女神異聞録ペルソナ」でも、各キャラクターのエピソードをより深く掘り下げ、主人公にも「藤堂尚也」という固有の名前を追加、双子の兄がいるという設定でそこで非常に深いオリジナルエピソードを見せてくれました。さらには、原作では隠しエピソードに当たる「雪の女王篇」も、本編のストーリーに挿入される形となっており、これはゲームのプレイヤーにも喜ばれました。

 この「ペルソナ」の連載終了後は、あの異様な世界観で話題となったローグライクゲーム「BAROQUE」のコミカライズ「BAROQUE 〜欠落のパラダイム〜」の連載を開始。お家騒動直後の2002年までの比較的短い期間での連載となりましたが、こちらもやはりシンプルなシナリオを巧みに脚色して読ませるコミックに仕上げています。

 そのお家騒動後は、主に一迅社ゼロサムへと活動の舞台を移し、ここからはオリジナルの作品を中心に手掛けるようになります。まず2002年から「DAWN 〜冷たい手」の連載を開始。これは、化け物と化すウイルスに感染した少年が、同じく化け物と闘わされるという、ゾンビものの設定をリメイクしたような現代ものとなっており、やはり暗い世界観が印象的でした。同時に、大きな悩みを抱えることになった少年少女たちの心理描写にも長けていて、これは上田先生の作品の一貫した持ち味になっていると改めて思いました。
 また、同時期にはGファンタジーにも復帰し、「真・女神転生外典 鳩の戦記」という、女神転生のオリジナルコミックの連載も始めます。ロウとカオスの対立という真1に立ち返ったような設定でのストーリーは興味深いと思いましたが、どういうわけか連載途中で休止状態となり、ほぼ未完結で残念ながら終わっています。

 一方で、一迅社ゼロサムでの活動は堅調に続き、2007年に「DAWN 〜冷たい手」の連載終了後も、「彩の神」「華園ファンタジカ」「幕末Rock-howling soul-」「魔術師と私」とコンスタントに連載を続けており、90年代エニックスの作家の中でも息の長い活動を続ける作家のひとりとなっています。

 最近では、白泉社ヤングアニマル嵐で「えびがわ町の妖怪カフェ」という連載を開始。妖怪もの+グルメマンガという最近の流行を取り入れた作風に驚くと同時に、これまでとは違う男性向け雑誌での連載となったのも意外に思いました。しかし、その持ち味は相変わらず健在で、幼い少女と心優しい叔父のふたりが、妖怪たちと打ち解けて料理でもてなすというハートフルストーリーで読ませる1作となっています。新境地でのこの連載にも注目ですね。