20年目の「終わらない放課後」

kenkyukan2018-05-25


 現在アニメ2期放送中の「あまんちゅ!」の最新エピソードで、文化祭前夜の話が出てきていつも以上に注目して観てしまいました。文化祭前夜の学校にたくさんの生徒たちが残って、普段は見られない明るい校舎でみんなが活動するという活気と楽しさに溢れるシーン。これは、原作者の天野さんの以前の作品でも見られたコンセプトで、とりわけ最初の連載である「浪漫倶楽部」から一貫して提示してきたテーマでもあります。
 その「浪漫倶楽部」には、作者がコミックスのあとがきなどで明言しているテーマとして「終わらない放課後」というものがありました。学校の授業が終わった後の放課後。その自由で解放的な時間に生徒ひとりひとりが思い思いに活動する。その楽しさが存分に描かれているのです。
 とりわけ象徴的だったのが、主人公たち「浪漫倶楽部」のメンバーが、部室に集まってお菓子を食べながらのんびりゲームを楽しんでいるシーンです。真面目に(?)浪漫倶楽部としての活動を行うシーンもありますが、普段はそんな風にのんびり楽しく過ごしている様子も感じられ、これは本当に自分も過ごしてみたい魅力的な時間、活動だなと思ってしまいました。

 こうした日常的な放課後の活動に加えて、季節ごとの学校行事、イベントが積極的に描かれるのも「浪漫倶楽部」の特徴で、体育祭や文化祭はもちろん、時には七夕祭りやハロウィンなど、現実の学校ではあまり見られないだろう行事まで登場したのが印象的でした。そして、そんなイベントの中でも、とりわけ「終わらない放課後」の楽しさを描いているのが、この文化祭の前夜だと思うのです。

 そしてこの天野さんの最新作である「あまんちゅ!」でも、かつての「浪漫倶楽部」を彷彿とさせるイベントが次々と登場。ひとつ前の話で描かれたハロウィンに続いて、この文化祭の前夜祭を描くエピソードは、かつての「浪漫倶楽部」のコンセプトをそのまま受け継いでいるのではないかと思われるのです。
 もともと、天野さんは、自分の作品から取った要素を後発の作品に取り入れることはよくありました。あの「ARIA」でも、「浪漫倶楽部」の部長の子孫?と思われるキャラクターが登場したり、あるいは主人公とヒロインだった火鳥くんと月夜ちゃんもゲスト出演しています。しかし、この「あまんちゅ!」のそれは、単に以前から引き継いだキャラクターを登場させるだけでなく、かつてのエピソードそのものを引き継いでリメイクしたと思われるのです。

 文化祭の前夜。それは、普段誰もいない夜の学校に明かりがついて、当たり前のように生徒がいてみなが準備に勤しんでいる光景です。学校という日常の空間ながらそこに非日常の光景が広がっている。日常の中の非日常。それを象徴するのがまさに文化祭前夜だと思うのです。
 文化祭本番も楽しいですが、それを控える前夜のわくわく感、高揚感にはえも言われぬものがあり、ひょっとするとこちらの方が楽しいかもしれない。むしろこの瞬間がずっと終わらなければいい。「文化祭なんて始まらなければいいのに。このまま楽しい時間が終わらなければいいのに」というセリフが、まさにそれを象徴する名エピソードとなっていたと思います。

 「浪漫倶楽部」で主人公の姉だった火鳥くんの姉(真斗)が先生として登場したり、舞台となる学校が夢ヶ丘高校だったり(「浪漫倶楽部」の舞台は夢ヶ丘中学校)、夢のような不思議なファンタジー要素が織り込まれたりと、直接的に「浪漫倶楽部」から受け継いだ要素も多く、かつての連載のその後を描いたアフターストーリーとすら思われるこのエピソード。まさにかつての連載から約20年後に再現された「終わらない放課後」を象徴するエピソード。昔からの読者としては思わず感涙してしまいました。