「POCKET HEART」の思い出。

kenkyukan2017-09-07

 先日、妖精さんと一緒に暮らす話を取り上げたばかりですが、それをきっかけに、かつてエニックスのステンシルでほんの一時期短期連載されていた作品を思い出しました。「POCKET HEART」(吉崎あまね)です。
 こちらはファンタジー世界を舞台にした日常ファンタジーで、とある空き家に住んでいたブラウニーの兄妹・リデルとネジと、その家に引っ越してきたオルゴール職人を目指す青年・エルムの出会いと交流を描く物語となっています。この連載の少し前に、まさに「リデルとネジ」という読み切りが掲載されており、そちらを設定を少しアレンジして連載化した形となっています。

 リデルとネジの兄妹は、オルゴール職人として名高いアボットおじいさんの家に住み着き、優しいおじいさんの元で幸せに暮らしていました。しかし、やがておじいさんは亡くなってしまい、双子は誰もいない家に取り残されてしまい、そしておじいさんとの思い出を失いたくなかったふたりは、アボットさんの家にやってくる人たちを次々と追い出していました。しかし、最後にやってきた青年エルムの優しい心に触れ、頑なだった心がほどけていき、やがてはエルムを完全に受け入れ、共に暮らすことになるのです。

 ここまでが1話のストーリーですが、これも元は読み切りとして書かれていたようで、これだけできれいに完結しています。続く第2話・第3話では、人間のエルムにもストーリーの焦点が移り、そちらのエピソードもまた感動させるもので、いずれも非常によく出来ていました。また、作者の吉崎あまねさんの絵も素晴らしいものがあった。まさにエニックスならではの中性的な作風を体現したかのような、くせの少ないかわいらしい絵柄で、少女マンガ誌であるステンシルの中でも、最もエニックスらしいマンガのひとつだったと思います。しかし、そんな確かな良作でしたが、わずかにこの3話だけで連載終了してしまうのです。

 「POCKET HEART」が連載されたのは、ステンシルで2001年8月号〜10月号。当時のエニックスは、あのエニックスお家騒動真っ最中の混乱期で、多くの雑誌で一気に連載が終了、混乱は極致に達していた時代でした。しかし、そんな中でもステンシルでの終了作品はさほど多くなく、幸いにも混乱の影響は少ない状態に留まっていました。そんな比較的静かな環境の中で、この「POCKET HEART」の連載が行われたのは、数少ない幸運な出来事ではなかったかと思います。

 しかし、作者の吉崎さんの商業連載が、これだけで終わってしまったのは本当に惜しまれます。約1年後にお家騒動で離脱した側のコミックブレイドで、2本の読み切りと読者コーナーのイラストを手掛けたことがあったようですが、それも一瞬のことで、それ以後は商業誌の活動は完全に途絶えてしまいました。もしお家騒動が起きなかったら、エニックスでまた活動の機会があったのか? 今となってはそれは知るよしもありません。
 ただ、吉崎さんもこの連載には特に思い入れがあったようで、のちに同人誌で少しずつその続きとなるエピソードを執筆していました。2004年頃から本が出始めたようで、2010年には総集編が出ています。しかし、その後2011年頃になってその活動も途絶えたようで、今となっては懐かしく思い出されるばかりです。