90年代ガンガンWINGを振り返る。

 ここまで90年代のGファンタジーを2回に分けて振り返ったので、今度はもうひとつ、ガンガンWINGについても語るべきでしょう。実質的に雑誌として始まったのが98年と遅かったので、お家騒動までほんのわずかの間だったのですが、しかしその間の充実度は計り知れないものがありました。これこそかつてのガンガン系の全盛期を代表する雑誌ではなかったかと思っています。
 もともと、この雑誌は、「フレッシュガンガン」という新人読み切り掲載雑誌として、92年というかなり早い時期に刊行が始まっています。のちに96年になってこのガンガンWINGという誌名に変わりますが、まだ中身は読み切り中心のままでした。
 それが、98年になって、大きく誌面をリニューアルし、通常の連載を掲載する雑誌となりました。連載陣は、この時からの新人の他、当時のガンガンやGファンタジーの人気作家の新作を多数立ち上げ、そのため多くの作家がこれらの姉妹誌と共通していました。ゆえに、この当時のガンガンWINGには、これらの人気作家の別の側面を見られるという魅力もあったのです。

 そんな連載の中でも、まず筆頭は「パンゲア」(浅野りん)でしょうか。「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」の浅野りんさんのWINGでの連載は、一転してファンタジーストーリー。親しみやすいキャラクターとコミカルな掛け合いは健在ながら、秘められた謎を追い求めて旅を続けるロードファンタジーの面白さも持ち合わせた、浅野さんらしいバランスの取れた作風だったと思います。学園コメディだけでない浅野さんのもうひとつの側面を見られただけでも、このWINGの価値はあったと言えるでしょう。

 もうひとつ、「常習盗賊改め方 ひなぎく見参!」(桜野みねね)も挙げるべきでしょう。「まもって守護月天!」の桜野さんのもうひとつの連載は和風な世界観を舞台にした時代物でした。端整なキャラクターと作画、繊細な心理描写はこちらも健在でしたが、エニックス時代末期の作者の不調に伴って、こちらも不振に陥ったのが残念なところです。

 さらに見逃せないのが、「ワールドエンド・フェアリーテイル」(箱田真紀)です。Gファンタジーファイアーエムブレムを長く続けた作者のオリジナル連載は、妖精伝説をベースに学園を舞台にしたファンタジーでした。箱田さんらしい端整な作画と作品に漂う静謐な雰囲気が魅力で、たびたび表紙になり、当時のWINGのイメージを代表していたと思います。今でもこの作品が好きだという人は数多い。

 新人作家の作品としては、「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」(藤野もやむ)は絶対に外せないところです。かわいいキャラクターと透明感溢れるイラストと、一転してシリアスで切ないストーリー。個人的には、この当時全盛だったガンガン系の中性的な雰囲気を最もよく表した作家だったと思います。お家騒動で移籍後も長く活動を続けますが、このエニックス時代の作品が一番好きという人はいまだ多い。

 最後に「ジンキ」(綱島志朗)も名作中の名作でした。エニックスでは珍しいロボットものでしたが、ジャングルの山奥で人知れず脅威と戦う組織の日常を描いた泥臭い作風が、他にない魅力だったと思います。この連載の前に描かれた読み切りで、重機のようなロボットで日々地雷の除去に取り組む者たちの姿を描いた作品があるのですが、そうした地味で危険な日常の仕事、しかし誰かがやらなければならない仕事を描くコンセプトが、この綱島作品最大の魅力だったと思うのです。

 これ以外の連載からも、Gファンタジーで長く活動を続けた作家による和風ファンタジー「陽炎ノスタルジア」(久保聡美)、独特の存在感を放ったダークファンタジー悪魔狩り 〜冠翼の聖天使篇〜」(戸土野正内郎)、ガンガン人気連載の外伝「TWINSIGNAL外伝 呪われし電脳神」(大清水さち)・、いずれも秀逸な内容のゲームコミック「ヴァンパイアセイヴァー 魂の迷い子」(東まゆみ)・「ファイアーエムブレム-光をつぐもの-」(冬季ねあ)」・「タクティクスオウガ」(松葉博)など、雑誌を支えた名作は数多い。連載の充実度では、同時期のガンガンやGファンタジーをも凌ぐものがあったと思います。

 最後にあの「まほらば」(小島あきら)が来てラインナップは完成した感がありますが、しばらくのちにあのお家騒動が起きてしまい、ほとんどの作家が移籍して抜け、全連載の実に8割が中断されるという事態に陥り、この全盛期のガンガンWINGは完全に崩壊することになるのです。