月刊ステンシルについて(2)。

kenkyukan2017-09-14

 前回では、雑誌の看板だった「BUS GAMER」と「AQUA」を紹介しましたが、他にもこのステンシルには目立たないながら確かな良作がいくつもありました。
 まず、どうしても取り上げておきたいのが、「南国動物楽園綺談」(斎藤カズサ)です。Gファンタジーで先にSFアクション「東京鬼攻兵団TOGS」を連載していた斎藤カズサさんの連載で、こちらは一転して九州の田舎を舞台にした動物コメディ。動物たちとの和気あいあいとしたコメディと薀蓄が楽しめる作品で、当時あの「動物のお医者さん」をよく引き合いに出されて評価されることがありました。「動物のお医者さん」は紛れもない傑作ですが、こちらも動物コメディとして非常に面白いものがあったと思います。

 しかし、その斎藤さんも、エニックスお家騒動に巻き込まれてエニックスを離脱、移籍先のコミックブレイドで新作の連載を始めますが、連載開始直後に休載となり、その後まったく消息が分からなくなってしまいました。結果として、この「南国動物楽園綺譚」が、エニックスで何作も良作を手掛けてきた作家の、実質的に最後の作品となっています。

 連載ではなく読み切り連作の形での掲載でしたが、こがわみさきさんの一連の作品も取り上げるべきでしょう。これ以前に他社で掲載された作品のコミックス「でんせつの乙女」がすでに一部の読者の間で話題になっていたのですが、このステンシルでさらに本格的に多数の読み切りを残すことになり、一気に知られる存在となりました。いずれの作品も、中性的なさらっとした心地のよい作画と楽しくもちょっと切ない数々のストーリーで、やはり多くの読者の支持を集め、このステンシルだけで3冊の読み切り短編集を残しています。休刊後はガンガンパワードへと移籍し、そちらでの連載「陽だまりのピニュ」でその独特の作風は完成した感がありました。

 これ以外にも、現代伝奇ファンタジー現神姫」(天乃咲耶)、近未来SFバトルアクション「KAMUI」(七海慎吾)、 麻薬捜査官の活躍を描く現代アクション「switch」(naked ape)、夢の世界を舞台にした大正ファンタジー浪漫「夢喰見聞」(真柴真)、爆笑動物ギャグ「パパムパ」(もち)など、これはと思える作品は意外なほど多くありました。また、これらの作品の多くは、ガンガン的なとりわけGファンタジーの作品に比較的近い雰囲気で、やはりエニックスの雑誌だったなと思わせるところがあります。事実、これらの作品は、雑誌休刊後にその多くがGファンタジーへと移籍することになりました(「KAMUI」のみガンガンWINGへの移籍、「パパムパ」のもちさんはGファンタジーで新連載掲載)。

 また、これらの作品の作者のうち、天乃咲耶さんはのちに他社に移りそちらで活躍を続け、naked ape一迅社へと移って主にそちらで活動、七海慎吾さんと真柴真さん、もちさんはそのままエニックススクエニ)に残って今でも活動中と、いずれも息の長い活動を続ける作家となっています。こうした実力のある作家を多数発掘し後世に残したことが、ステンシル最大の功績ではないかと思っています。

 しかし、この雑誌自体は、やはり最後までマイナーで目立たない存在のまま、ひっそりと休刊を迎えました。最後まで伸び切れなかった理由としては、やはり基本が少女マンガ誌ということで、ガンガン系の読者の好みからは最も外れた雑誌であったこと、そして数少ない看板作品だった「BUS GAMER」と「AQUA」の連載が、お家騒動で失われてしまったことが大きかったと思います。ゆえに、最後まで雑誌やその掲載作品があまり知られないままで終わってしまった。天野こずえさんの「AQUA」も、移籍後に「ARIA」としてリニューアルした後で急に知られるようになり、一気に人気を集めたことからも、このステンシルが非常にマイナーだったことが分かります。しかし、そうした名作を生み出す母体となったこの雑誌の功績は、意外なほど大きなものがあったと思うのです。