「魔法使いの嫁」ついにテレビアニメスタート。

kenkyukan2017-10-12

 この10月からの秋アニメは、これまで以上に豊作でさまざまな作品が話題に上っていますが、自分としてはその中でひとつ「魔法使いの嫁」(ヤマザキコレ)は、絶対にはずせないものとして改めて紹介しておきたいと思います。自分の好みの中心のひとつとなっている創作ファンタジーの傑作として、あるいはマッグガーデンに残る数少ない期待作としても、このテレビアニメを待ち望んでいたところは大きいです。
 「魔法使いの嫁」は、2014年にコミックブレイドで始まった連載で、同年に同雑誌の休刊に伴い、今ではコミックガーデンへと移籍して連載が続いています。もともとは作者の同人での作品であったらしく、オリジナルの創作同人の色が濃い作品で、その点で最初期から注目して見ていました。

 ストーリーは、とある事情から不幸に生きてきた日本人の少女・チセ(羽鳥智世)が、人外で異形の姿をした魔法使い・エリアスにオークションで買われ、彼の住むイングランドの家で弟子として魔法の習得に励みつつ新たな日常を送るというもの。当初は精神的に追い詰められていた彼女ですが、静かな環境で魔法の知識の習得に励み、エリアスと共に周囲で起こる案件に向き合うことで自らを見直すようになる。チセの成長を描く物語でもありますが、自分としては成長というよりむしろ救済、魔法の知識と技術の習得を通じて自分で自分を助ける物語だと思っています。

 そして、待望のテレビアニメですが、1話を見たところ非常によく出来ていて、まさに期待通りでした。もともと、先駆けて出ていたOVAの出来も非常によかったので、期待するところは大きかったのですが、まさにそのままでした。物語の舞台は現代イギリスですが、その片田舎の美しい自然、とりわけ魔法と妖精が日常のすぐ近くに存在する姿を丹念に描いているところが素晴らしい。無数の光に溢れる夜の妖精の森の光景には引き込まれるの一言でした。
 冒頭からじっくりと物語を描いていく姿勢もいいですね。視聴者をつかむために1話から早いテンポで進んでいくアニメも多い中、これはチセとエリアスの出会いのエピソードを、そのひとつひとつのシーンを細部までよく描いていると思いました。

 原作コミックを刊行しているマッグガーデンは、かつてエニックスお家騒動でエニックスから離脱した編集者が創業した会社で、かつてのガンガン系の中性的な作風を最も強く受け継いだ出版社であるはずでした。しかし、初期の頃から意外なほど芳しい成果を出すことが出来ず、「ARIA」や「スケッチブック」などごくわずかの成功作を除いて、多くの作品が不振のうちに終わってしまいました。今では、かつて刊行された雑誌はほとんど休刊してウェブ掲載に移っている状態です。

 そんな中で、この「魔法使いの嫁」は、かつて目指した中性的な作風を色濃く残す作品として、最後にわずかに残った数少ない傑作だと思っています。アニメも全24話とすでに告知されており、2クールほどじっくりと味わえることになりそうです。