月刊ステンシルについて(1)。

kenkyukan2017-09-13

 先日、かつてのエニックスの雑誌・ステンシルの連載マンガについてちょっと記したのですが、この雑誌を買っていた、あるいはその詳しい内容を知る人はあまり多くないと思います。エニックススクエニ)の雑誌の中でも、とりわけマイナーで、実際に購読している読者も少なかったと思います。しかし、この雑誌の連載マンガと、ここを出身とする作家の存在は、決して侮れないものがありました。ここでは、少し本格的にこの雑誌について語ってみたいと思います。
 月刊ステンシルは、エニックスより1999年に創刊された雑誌で、エニックスの雑誌では少年ガンガンGファンタジー・ギャグ王・ガンガンWINGに次ぐ5番目の雑誌になります。しかし、これまでの雑誌と違い、「少女マンガ誌」として創刊されたことが大きな特徴でした。「あのエニックスが少女マンガ雑誌を」ということで当時のガンガン系読者の間では大きな話題になりました。また、当時ギャグ王が突然休刊したばかりの時期とも重なっていて、そのことでもいろいろと物議を招きました。

 実際に出てきた雑誌は、オーソドックスな少女マンガと呼べる作品もあったものの、やはりエニックス・ガンガン的な作風の連載も見られる雑誌で、特に女性読者の多かったGファンタジーに比較的近いカラーの雑誌になっていたと思います。しかし、やはり少女マンガであるという壁は大きかったようで、当時のガンガン系読者の間でも、他の雑誌より一段とマイナーな雑誌に留まってしまった感はありました。あの頃読まれていた雑誌は、まずやはりガンガンが抜きん出て多く、次いでGファンタジーガンガンWINGがかなり間を空けて続き、ステンシルはそれよりもさらに読者は少なかったと思います。

 しかし、それでもこの雑誌には、注目を集める人気連載がいくつもありました。中でも、最初から雑誌の看板として置かれていたのが、当時Gファンタジーの「最遊記」が人気絶頂だった峰倉かずやの新作「BUS GAMER」でしょうか。こちらは一転して現代日本を舞台にして、企業間の「ゲーム」による争いに参入した若者たちを描く物語で、「最遊記」とはまた違った面白さがあり、やはり大きな注目を集めました。しかし、このマンガ、当初から季刊と隔月連載でペースが遅かった上に、あのエニックスお家騒動による作者のエニックス離脱で中断、コミックス1巻が出ただけで終わってしまったのです。

 のちに移籍先の一迅社で、2006年より「月刊ComicREX」誌上で再び連載開始されるも、こちらも作者の峰倉さんの深刻な病状悪化により早期に連載中断 、やはりコミックス1巻が出たのみでいまだ再開されていないという不運の作品となっています。

 もうひとつ、この雑誌の最大の看板だったのが、あの天野こずえさんの「AQUA」です。雑誌創刊当初より、恋愛少女マンガの読み切りや雑誌の表紙を何度も手掛け、最初から雑誌のイメージをつかさどる作家となっていましたが、その天野さんが2001年より満を持して連載を開始したこの作品。テラフォーミングされて青い水の惑星となった火星を舞台に、主人公の灯里たちウンディーネ(ゴンドラの漕ぎ手)の成長を描く物語で、その美しい作画と世界観、ストーリーで開始当初より大きな反響がありました。

 しかし、これも連載開始1年も経たないうちにお家騒動により中断、移籍先のマッグガーデンの「コミックブレイド」で「ARIA」とタイトルを変えて連載再開されることになり、そちらでも大人気を博することになります。何度もアニメ化されるなどマッグガーデンでも最大の成功作となるなど、その後の経緯についてはもはや説明するまでもないでしょう。この作品こそが、ステンシルという雑誌が生んだ最大の功績だと思います。基本的には「AQUA」と「ARIA」はまったく同じ作品で、完全に続きの話となっていますが、個人的には最初のタイトル「AQUA」の方が、より作品のイメージをストレートに表していてよかったと思います。それが唯一の心残りですね。