90年代Gファンタジーを振り返る(2)

 こうして93年の創刊直後から良作に恵まれ、順調に推移してきたGファンタジーですが、96年以降さらにまとまって多数の良作が登場し、さらに誌面は充実することになります。ここがGファンタジーの全盛期であると同時に、エニックス・ガンガン系の全盛期でもありました。
 その中でも真っ先に取り上げるべきは、やはり「最遊記」(峰倉かずや)でしょうか。96年に掲載された読み切りが好評を博し、翌97年初からほぼそのままの形で連載開始。当初から人気でしたが、2000年のテレビアニメ化でさらに爆発的なヒットとなります。内容はもう説明不要かもしれませんが、西遊記に現代的な設定を加えたSFファンタジーで、バトルアクションであり人間ドラマでありまたロードムービーでもある。峰倉さんならではの重厚な作画が、最初の時点でいきなり完成していたのも大きな魅力でした。

 もうひとつ、Gファンタジーの当時の看板作品となったのが、遅れて97年に始まった「E'S」(結賀さとる)でしょう。サイバーパンク的な設定のSFアクションですが、圧倒的な画力と緻密なストーリー構成で高く評価されました。とりわけ作画に関しては、当時のエニックスの作家の中でもトップクラスで、この「E'S」が、長い間Gファンタジーという雑誌のイメージにもなっていたと思います。休載が多く連載ペースが遅いのが難点でしたが、お家騒動後も長く続き完結まで漕ぎ付けたのは幸いでした。

 「クレセントノイズ」(天野こずえ)も絶対外せないところです。のちにARIAが大人気となる天野こずえさんのかつての連載で、一足先にガンガンで始まっていた「浪漫倶楽部」のコンセプトを引き継ぐ学園もの+サイキックアクション。連載途中で「第一部完」として一時中断し、実際に再開する予定だったようですが、そこであのエニックスお家騒動が勃発、天野さんがエニックスを離れたことで再開されなくなってしまいました。おそらくは今後も再開の可能性はほとんどないと思われる上に、コミックスの新装版すら出ていない悲運の作品です。

 もうひとつ、「東京鬼攻兵団TOGS」(斎藤カズサ)も見逃せません。未来のドーム都市を舞台に人間を脅かす化け物と戦うSFアクションですが、こちらも大きな反響がありました。美少女+バトルアクションという設定で男性読者にも人気が高かったのが印象的でした。また、作者の斎藤カズサさんは、天野さんとも親交があったようで、作画にも近いものを感じるところがあるかもしれません(天野さんの作品でメカデザインを担当したこともあります)。
 しかし、この斎藤さんも、お家騒動でエニックスを離れ、しかも移籍先のコミックブレイドで一時期新作を始めたもののすぐに休載となり、以後まったく消息がなくなってしまいました。エニックス時代にあれだけの良作を手掛けた作家のその後としてはあまりに寂しい。

 「女神異聞録ペルソナ」(上田信舟)も雑誌を支えた名作のひとつ。同名ゲームのコミカライズですが、原作ゲームの人気に加えて、上田さんならではの親しみやすいキャラクターと練られたストーリーで、ゲームのプレイヤーにも非常に高く支持されました。今でもペルソナと言えばこの上田信舟のコミックを思い出す人は多いと思います。

 もうひとつ「破天荒遊戯」(遠藤海成)も挙げておきましょう。少女と青年の面白楽しくも時に厳しい旅道中を描くファンタジー。ずっとのちにコミックアライブの「まりあほりっく」の方が人気を得て有名になってしまいましたが、これが遠藤さんの初連載でした。毒舌と皮肉の効いたキャラクターと会話劇はこの頃から健在でしたね。

 これ以外にも、「神さまのつくりかた。」(高田慎一郎)、レガリア「中村幸子・川添真理子」、「魔女っ子戦隊パステリオン」「華の神剣組」(松沢夏樹)、「フランケンシュタインズ・プリンセス」(たつねこ)、「わくわくぷよぷよダンジョン」(魔神ぐり子)、乱世の薬売りシン(佩月なおこ)など、この90年代後半の全盛期を支えた連載は数多い。最後にあの「ぱにぽに」(氷川へきる)が加わってラインナップが完成した感がありますが、まもなくあのお家騒動が起こり、この楽しかった全盛期は終わりを告げることになるのです。