そろそろ(出版社の事情を越えて)南国アイスもアニメ化するべき。

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 先日、久米田康治の「かくしごと」が原作アニメ同時に終了し、その感動的なラストで大いに反響を巻き起こしました。歴代久米田康治の作品の中でもとりわけ感動作だと思われる名作でしたが、これが終了した今、そろそろ「いつもの久米田」の代表作にして往年の名作・南国アイスもアニメ化してほしいと思うのです。

 

 「かくしごと」は、自分の娘に下品な下ネタマンガ(「きんたましまし」というタイトル)を描いていたことを知られたくないゆえに、マンガ家であることを隠し通そうとするマンガ家の話。しかし、これは多分に久米田自身の自伝的、あるいは自虐的な要素を含んでいるようで、その場合この下ネタマンガに当たるのが、久米田康治の最初の連載である「南国アイス」こと「行け!!南国アイスホッケー部」ではないかと思われます。

 

 「行け!!南国アイスホッケー部」は、1991年より少年サンデーで始まった連載で、タイトルからも類推されるとおり、当初はアイスホッケーを扱うスポーツマンガとして始まりました。南国鹿児島の弱小ホッケー部に、カナダからの助っ人選手としてやってきた蘭堂月斗という男が主人公。当初は彼を中心に比較的真面目にアイスホッケーをやっていたはずでした。

 

 しかし、連載がしばらく経った頃から突然作風が急変。アイスホッケーをほとんどやらなくなり、代わりに一発ギャグと一発キャラ、とりわけ露骨な下ネタを連発する強烈なギャグコメディへと変貌してしまうのです。「南国アイス」といえば、ほとんどの人はこの作風が変わったあとの下ネタギャグマンガを指すと思います。

 

 あくまで少年誌での掲載ではあるものの、その下ネタはかなり過激なもので、主人公の月斗などは毎回のようにオナニーにふけり、ついにはこすればこするほど強くなる「ずり拳」を取得、ある回などは山頂でオナニーしては投げ捨てていたティッシュのゴミがふもとの村を壊滅するなどひどいギャグが毎回のように見られました。周囲を固めるキャラクターも多くが下品な趣味を持つ者で固まり、有名人を下ネタでパロディにした一発キャラも多数登場。さらには「亀頭四兄弟」という強烈なライバルキャラクターも何度も登場して読者の失笑を誘うに十分でした。

 

 下ネタだけでなく、ダジャレや言葉遊びに類するギャグも非常に多かった。共通する単語を延々と小さくコマ割を続けて並び立てる作風もこの時からで、こうした一定のテーマにこだわるスタイルのギャグは、のちの久米田作品にも継承されることになりました。

 

 もうひとつ、絵柄の変遷があまりに激しかったのも、当時の読者からよく話題にされる特徴のひとつ。当初はスポーツものの少年マンガの雰囲気がよく出た、ある種サンデーライクな絵柄のマンガだったのですが、しかし作風が下ネタギャグに転向したあたりから急速に変わり始め、やがて線がひどく細くなりキャラクターのデフォルメも極端な独特の絵柄となり、これもそのままのちの久米田作品に継承されることになりました。もう最初の作品の段階で、すでにその作風はほぼ確立していたと言えます。
 (ちなみにこの時期の絵柄を見ると、のちの萌え絵の特徴をも備えているようで、今思えばその先駆けのひとつでもあったのかなと思っています。とりわけヒロインのそあらはかわいい。まじで。絵柄の変遷期でバランスの取れていた10巻表紙が絶品。)

 

 原色を多用した鮮烈なカラーイラストも特徴的でしたが、これはのちの作品ではやや落ち着いた色使いへと変わっています。しかし、これが最新作の「かくしごと」では、かつての南国アイスにほど近いと思えるパステルでビビッドな色使いが再来。これはかつての熱心な読者であった自分にとってもうれしくもありました。同作中でネタにされたこともあり、今の時代こそかつての名作・南国アイスをアニメ化してもいいのではないかと思い立ったのです。諸事情で出版社を移ったという事情もあって、かつての作品のアニメ化を実現するのは難しいかもしれませんが、閉塞的な今の時代にこそかつてのあのはじけとんだ作品のアニメとその反響を是非とも見てみたいと思うのです。