今こそ「ゴッホちゃん」を語る絶好の機会かもしれない。

kenkyukan2018-09-24

 夏アニメもそろそろ終わりですが、その中でもひときわ怪作として注目を集めたギャグ作品「あそびあそばせ」。その原作者である涼川りんさんが、かつてスクエニヤングガンガンで、まったくの別名義で連載していた作品があるのです。かつて連載中に大いに評価して取り上げたことがあるのですが、今こそそれを再度取り上げるべき時かもしれない。

 そのマンガとは、「ゴッホちゃん」(マブレックス)。この当時から独特の濃い絵柄と壊れ系のギャグは健在で、そこは「あそびあそばせ」とも非常な共通感があります。しかし扱うテーマやコンセプトが大きく異なるため、今見るとやはり相当意外にも感じます。

 「ゴッホちゃん」は、タイトルどおり19世紀フランスの画家・ゴッホを主人公にした4コママンガ。しかし、ゴッホがやたら頭身の低いデフォルメキャラでしかも社会不適合な変人として描かれ、さらには彼と一時期同居していたゴーギャンはなぜか獣人の姿で登場し、ゴッホの奇矯ぶりに困らされる苦労人として描かれ、さらには時折2人の下に顔を出すロートレックの変態ぶりがまたやばい。マニアックすぎる性癖の春画を所持していたり、自分が脱糞する姿をわざわざ絵に残したり、人気歌手のイヴェット・ギルベールを異様にひんまがった顔で描いたり(すべて史実)、もう最高に笑えます。

 ゴッホの弟のテオが、お人よしで兄の無茶ぶりを必死に叶えようとするかわいそうなキャラクターになっていたり、逆に妹の方は辛辣な性格で描かれていたり、実在の人物がひとりひとり最高に面白く描かれていて、思わず笑ってしまうこと必至。

 そして、これだけのぶっ飛んだ解釈に飛んだ壊れキャラクターによるギャグ4コマでありながら、意外なほど実際の史実に沿った形で描かれているのが、非常に興味深いところです。確かに誇張してギャグ化されてはいるものの、それらはすべて芸術家たちの実際の姿に根拠がある。かつて懸命に生きた芸術家たちに対する作者の愛と思い入れに満ちた作品になっているのです。

 さらには、この作者の絵がまたうまい。普段はデフォルメ調で描かれながら、コマによって突然写実的なリアルな姿で描かれ、その描き込まれた濃いタッチには思わず眼を引かれるところがあります。とりわけ面白いのは、作者自身が実際の名画を模写してマンガに登場させているところで、各回の最後はその名画の大写しで締めるちょっといい話になっています。また、この絵の中に画家たちがそっと描かれているのも楽しい遊び心に満ちています。

 また、この作品と同系のコンセプトの作品として、この前作でフェルメールを面白おかしく描いた「ウルトラマリン・ブルーマン」(「ゴッホちゃん」コミックスに同時収録)、電撃のウェブサイトで連載されている「お気楽シェイクスピアの二日酔い劇場」があります。まったく同じ面白さを楽しめるので、興味が出てきたらこちらも合わせて読むことをおすすめしたいですね。