萌え絵はどこから来てどこへ行くのか(1)。

kenkyukan2017-12-06

 先日、「萌え絵の絵柄は基本的に少女漫画の影響を受けて発展してきた」というツイートを見かけて、それ以来あれこれ考えていました。この発言には賛同する意見が比較的多く見られ、わたし自身も一部では確かにこれに賛同できるものの、しかし必ずしも影響を受けたものはこれだけではないと思ってしまいました。むしろ、少女マンガ以外にも、こうした絵に影響を与えたジャンルやその起源となったジャンルは複数見られ、それらが時間が下るにつれて渾然一体となり、今の「萌え絵」と呼ばれるかわいい女の子の絵柄が確立したのではないかと思うのです。
 まず、確かに少女マンガからの影響は大いにありました。昔から少女マンガと言えば、男女の恋愛要素やかっこいい男性キャラクターが出る一方で、かわいい女の子の魅力で人気を得ることはとても多かったのです。特に、少女マンガでも女の子たちのコメディやギャグを中心にした作品、あるいは女の子の主人公たちがヒーロー(ヒロイン)的な活躍をする作品はは、のちの萌え系作品に直接つながるものがありますし、その上で絵柄的にも広く親しみやすいものとなると、男性を含めて幅広い人気を集めるものは数多くありました。
 加えて、こうした作品がアニメ化された時の影響は特に絶大で、90年代の大ヒット作であるセーラームーンやあるいは「カードキャプターさくら」に代表されるCLAMP作品は、のちの萌え系作品の先駆的な存在となったことは間違いないと思います。

 しかし、萌え絵の絵柄の発展が、こうした少女マンガからの影響が中心だったかというと、必ずしもそうとは言い切れないと思います。むしろ、少女マンガと同等かそれ以上に、少年マンガにものちの萌え作品につながる作品は多かったと思うのです。

 少年マンガと一口に言っても、その絵柄の方向性は千差万別ではあるのですが、しかしその中には比較的絵のくせが少なく、かわいいタイプの絵柄は確実に存在しています。特に、女の子のかわいさをひとつの売りとするラブコメ系の少年マンガ、あるいは学園ものや日常もののコメディなどは、そもそも少女マンガ以上にのちの萌え絵に近いものは多かったと思います。あるいは、少年マンガでは王道と言えるバトルやスポーツ系のマンガでも、かわいい女の子のキャラクターが人気を得ることは珍しくない。
 この傾向は、出版社や雑誌によってはさらに顕著になり、例えば昔から学園系コメディをひとつのメインジャンルとしていた少年サンデーやその系列雑誌には、そうしたマンガに近いものはより多かったと見ています。これらの少年系マンガを無視してのちの萌え作品を語ることは出来ないでしょう。

 そしてもうひとつ、萌え絵や萌え作品に大きな影響を与えた作品ジャンルとして、ゲームやファンタジー作品からの影響も見逃せないものがあると思います。とりわけ、RPGシミュレーションRPG、特に一時期コンシューマで非常に高い人気を博した和製RPGJRPG)方面からの影響がとても大きい。

 そもそも、こうしたRPGやファンタジーは、その原点は海外から入ってきたゲームや小説だったのですが、その後日本で作られる国産のゲームや小説は、元の作品とは異なる独自の方向性へと進んだ感があります。ゲーム的にはストーリーと戦闘システム重視、そしてビジュアル的には親しみやすいキャラクターや世界観重視の方向性です。
 例えば、ゲームではドラゴンクエストあたりがそのきっかけになっていますが、もともとのファンタジーでは怖いイメージだったモンスターのスライムが、鳥山明デザインで独特のフォルムのかわいいモンスターへと大きくアレンジされたことがその象徴です。つまり、キャラクターだけでなく、世界全体のビジュアルにおいて、そうしたポップで明るくかわいいデザイン、それが国産のRPGやファンタジーでひとつの主流となり、それがのちのコアユーザー(オタク)向け作品、ひいては萌え系作品とそのビジュアル(萌え絵)にまでつながっていったのではないかと思うのです。

 これは、もとの海外のファンタジーでは中心であった、リアル志向の重厚なイメージのファンタジーとは一線を画するもので、これが今の日本独自のコンテンツ(オタク向け作品)へと分岐する大きなきっかけになったと推測しています。こうしたRPGやファンタジージャンルの作品を特に強く押し出した出版社が、ひとつはエニックススクエニ)でありひとつはKADOKAWAであり、これらの出版社が今のコアユーザー(オタク)向け作品で人気を博しているのも偶然ではないでしょう。