「トリコロ」だけは外せなかった。

kenkyukan2018-09-19

 前回の日記で取り上げたきらら展の展示作品。創刊初期の作品から満遍なく取り上げていて非常に好感が持てるのですが、ただ唯一、これだけはさらに入れてほしかった作品があります。「トリコロ」(海藍)です。
 まんがタイムきらら創刊号(2002年5月発売)からの連載で、ほどなくして圧倒的な人気を得て、ほぼ毎号表紙と巻頭カラーを飾るようになります。まさに初期きららの看板作品にして雑誌のイメージそのもの。また、当時ようやくジャンルとして知られるようになった「萌え4コマ」を代表する作品ともなり、萌え4コマといえば「あずまんが大王かこれ(トリコロ)」が真っ先に名前が挙がるような作品だったのです。

 その内容は、女子高生(高校2年)の主人公・七瀬八重を中心に、その同居人やクラスメイトたちとの日々のにぎやかで楽しい生活を描く日常もので、のちに続く萌え日常系作品の要素をほぼすべて満たすような作品でした。すなわち、
•女の子とその同居人やクラスメイトたちが主役。
•主役が4人(3人・5人)の女の子というテンプレート。
•普段の学校生活や家での日常が描かれる。
•激しいギャグよりもほのぼの和むようなエピソードが中心。
•男性キャラクターはあまり登場しない。
•いわゆる百合的なキャラクター、関係性の描写。
など、のちの萌え4コマのテンプレートと言える条件はほぼ満たしていました。「あずまんが大王」と並んで、このジャンルの定着に大きな役割を果たしたことは間違いない。とりわけ創刊間もないきららにおいて、その雑誌への貢献度は計り知れないものがありました。
 また、作者である「海藍」さんは、きらら創刊以前から芳文社の4コマ誌で活動しており、この「トリコロ」以外にも「ママはトラブル標準装備!」や「特ダネ3面キャプターズ」という連載を行っていて、一時は3作品同時連載のような状態でした。「トリコロ」自身も、一時期は「まんがタイムナチュラル」という姉妹誌で平行連載していました。

 しかし、こうした連載の最盛期でも「休載が多い」という不安定さを抱えていて、やがて「ママはトラブル標準装備!」は(おそらく)打ち切りでの終了、「特ダネ3面キャプターズ」は、ある月の休載を最後に掲載されなくなり、その後何度か散発的に掲載されるも、結局最後は二度と掲載されることはなくなってしまいました。
 「トリコロ」も、きらら2005年5月号を最後に掲載が途絶え、事実上の休載。しかし、その後しばらくして、作者のサイトで掲載誌変更を発表され、なんとメディアワークスの「電撃大王」に移籍することが発表されます。看板中の看板作品の他社移籍は、当時の読者を非常に驚かせる出来事となり、芳文社との間で何かあったのか様々な憶測が飛ぶ事態となりました。そして、電撃大王2006年6月号より連載再開。しかし、当初から休載が目立つなどやはり連載は不安定で、2009年7月号を最後に掲載は途絶え、以後今に至るまで掲載されていません。この時、作者のもうひとつの連載だった「特ダネ3面キャプターズ」が、代わりに連載再開されるという話になり、これも読者の間で物議を醸しましたが、こちらも約2年の連載期間で終了。これが作者の海藍さんの現時点最後の商業活動となっています。

 そして2018年。今回のきらら展への展示作品に「トリコロ」が入らなかったのも、こうした他社移籍などのかつての出来事が理由なのかなと推測はできます。しかし、きらら創刊初期の看板作品にして、かつての萌え4コマの象徴ですらあった「トリコロ」が、きららの歴史を辿る展示作品に入らないというのはありえない。これなしできららの歴史を語ることは出来ないと思いますし、なんとしてもラインナップの先頭に入れてほしかったと思っています。