そろそろ「賭ケグルイ」の公共財ゲームについて語ろうか。

kenkyukan2018-04-10


 ちょっと前に発売された「賭ケグルイ」の最新9巻。先日のテレビアニメも好評で2期が決定、テレビドラマも放送された本作ですが、原作の方もいまだ面白さはまったく衰えず、9巻で行われた「公共財ゲーム」も非常に面白かったので、それを改めて紹介したいと思います。
 今回の公共財ゲームに参加したキャラクターは5名。意気消沈した豆生田の復活や彼を必死に支援する皇(すめらぎ)の奮戦など、キャラクターの活躍も大きな見所ですが、「公共財ゲーム」というギャンブルの題材自体も非常に面白いものがありました。もともと同名の社会実験のためのゲームが存在しており、以前「ライアーゲーム」でも同じようなゲームが登場したとのことですが、こちらも同じゲームを題材にしているのではないかと思います。

 その内容は、元の公共財ゲームと基本はほとんど同じで、参加者が手元に配布された資金(コイン)を、公共に税金として投資するか、それとも私財として自分の手元に置いて投資しないか、それを選べるというもの。ただし、私財とした者を推測して糾弾出来るというギャンブルゲームらしい趣向が追加されています。

 具体的に説明します。この「賭ケグルイ」の場合、参加者5名で1人に配られるコインは5枚。そして、そのコインを公共に投資した場合は2倍になって帰ってくるという仕組みです。5枚全額払えば10枚になる。税金を払うとそれ以上のサービスが見返りとして受けられるというわけです。
 しかし、投資したコインは参加者すべてに均等に還元され、「1枚も税金を払わなかったものにも支払われる」というのが、このゲームの大きなポイントです。この場合、払わなかった参加者の方が得をする可能性が出てきます。

 まず、参加者全員が5枚すべてを真面目に税金として払った場合。この場合合計25枚が2倍されて50枚。1人あたり2倍の10枚になって帰ってきます。逆に、参加者全員が税金を1枚も払わずすべて私財として残した場合。この場合は1人5枚のままです。
 次に、1人だけ税金を払わず、残り4人が5枚全額払った場合。この場合20枚が倍になって40枚。それが均等に五等分されて1人あたり帰ってくるのは8枚。ただし税金を払わなかったものだけは手元に5枚残しているので、この者だけが5+8枚=合計13枚となり1人だけ得をする形になります。
 最後に、4人が税金を払わず、1人だけが税金5枚を払った場合。この場合5枚が10枚になって1人あたり帰ってくるのは2枚。ただし私財を残した4人は手元に5枚あるので、2+5=7枚になります。この場合税金を真面目に払った1人だけが2枚しかもらえず、損をする形になります。

 つまり、税金を払うものと税金を払わないものがいた場合、税金を真面目に払った方が損をする形となり、ここに不公平感が生まれることになります。これは実際の社会生活でもそのまま当てはまることで、例えば生活保護の不正受給や年金の不正受給、あるいは社会保険や医療費に対する不公平感は、すべてこれに該当するのではないかと思われます。このマンガの中でも、一見して乱暴者に見えた尾喰という参加者が、この不公平感を前にして急に真面目になって怒り出すシーンがあり、これには思わず笑ってしまいました。

 ついにはこの後全員が言い争いをする展開にもなってしまうのですが、こうしたギャンブルにしろあるいは社会生活にしろ、本来なら冷静に合理的に考えて対処するのが最善の方法のはずです。しかし、こうした不公平感を一度目の前にしまうと、冷静ではいられなくなり、そうした人に向けていきなり攻撃的になってしまう人が多いのも事実。こうしたことまで深く考えさせるという点で、「賭ケグルイ」9巻のこのギャンブルは、今まで以上に面白いものがあると思ったのです。