ゆっくり始まるスロウスタート。

kenkyukan2018-01-12


 先週の日記では「ゆるキャン△」を取り上げたばかりですが、今季はもうひとつ重要なきららアニメがあります。「スロウスタート」です。こちらも連載開始当初から追いかけていて、アニメ化が決まった後もずっと放送を待ち侘びていました。個人的にもいろいろ思い入れが深い作品で、かつて既に何度か取り上げたことがあると思いますが、アニメ化に際してもう一度その魅力を語る必要があると思いました。
 「スロウスタート」は、2013年にまんがタイムきららで始まった4コマです。作者は篤見唯子。このところ、MAXやキャラットフォワードからいくつもアニメ化作品が出ていますが、まんがタイムきらら(無印)からは、2016年の「三者三葉」以来やや久々のアニメ化となりました。ラインナップが他より少し薄いと言われることがあるきらら本誌からの作品という点でも、今回のアニメ化に期待するところは大きいです。

 その内容ですが、春から高校へと入学することになった新入生・花名(はな)ちゃんを主役に、彼女を中心とした楽しい学校生活を描くコメディでしょうか。高校では中学時代からの知り合いもおらず、不安に駆られていた花名ですが、幸いにも気のいい生徒に声をかけられて早速友達となり、楽しいスタートを切ることが出来ました。しかし、彼女には周囲に隠している少し深刻な秘密があったのです。

 それは、とある事情から昨年高校を受験することが出来ず、1年遅れての入学になってしまったこと。これを周囲に隠していることで、楽しい日常の中でも常にうしろめたさがつきまとう。そんな彼女の闇とも言える部分を描くことで、他の学園コメディとは少し違う切なさや寂しさも同時に描かれています。原作では、1話冒頭のかなり早い箇所でこの秘密が明かされましたが、アニメでは1話を通して楽しい日常を描き、最後にその秘密を打ち明けることで、視聴者に意外な余韻と今後への興味を抱かせる構成になっていて、これは優れたアレンジだと思いました。
 さらには、そんな彼女の秘密を、必ずしも暗いものとして描くばかりでなく、むしろそうした過去を肯定しているところが、非常に大きなテーマだと思っています。タイトルの「スロウスタート」のとおり、高校に1年遅れてもいいじゃないかという周囲からの優しい配慮。そんな優しい世界が、ひいてはそうしたゆっくりした生き方をも肯定している。そんな社会的とも言えるテーマをも内包する作品になっていると思っています。

 もうひとつ、作者である篤見唯子さんの、少し特徴的な経歴についても語っておきたいところです。篤見さんの商業誌デビューは古く、なんと「まんがタイムきらら」の2002年の創刊号(増刊時代の最初の号)に「H.P.ハッピープロジェクト」という読み切りを掲載したことがあります。さらに同年より、エンターブレインの雑誌「マジキュー」で「瓶詰妖精」という読者参加企画に携わり、そのキャラクターデザイン・コミック連載を始めました。2003年にはアニメ化もされており、今でもこのアニメで覚えている人は多いかもしれません。
 しかし、「瓶詰妖精」の企画は2005年に終了し、その後もマジキューでマンガ連載や読者参加企画に携わりましたが、掲載誌の休刊で2007年にはすべて終了。その後長い間商業誌での活動は途絶えることになります。ゆえに、長い時を経て2013年に始まった「スロウスタート」は、久々の商業誌復活となり、随分と驚きつつもうれしく思うことになったのです。

 さらには、この間の期間においては、むしろ同人活動において知られる存在になっていたことも特徴的でした。とりわけ「咲-Saki-」の同人誌の執筆を精力的に行い、いわゆる部キャプ(部長×キャプテン)のカップリングの第一人者ともなりました(笑)。こちらで知っている人も多いのではないかと思います。

 こうしたずっと以前の作品である「瓶詰妖精」や、あるいは同人誌で作者の篤見さんを知っている人にとっては、今回の「スロウスタート」のアニメ化はとても感慨深いものがあると思います。「瓶詰妖精」からは15年目にしてついに篤見さんの作品が再びのアニメ化。それゆえに特別な思いで期待してしまうのです。