浅野りん久々の快作「であいもん」。

kenkyukan2016-12-15


 先日、あの浅野りんさんがヤングエースで開始した連載「であいもん」のコミックス1巻が出ました。浅野さんの連載はかなり久々で、しかも今回はマッグガーデンを離れてのKADOKAWAでの連載。これには当初かなり驚きました。かつてのエニックス時代からの読者だった自分としては、今回の新天地での活動はどうなのかなとも思っていたのですが、しかしこれが期待以上によく出来た新作になっていたのです。
 今回もまた、京都在住の浅野さんらしく、京都でそれも和菓子屋を舞台にした作品となっています。ミュージシャンを目指して家を飛び出すも挫折した主人公・和(なごむ)が、10年ぶりに実家の和菓子屋へと帰ってくると、そこには居候の小さな女の子がいた。その少女・一菓(いつか)は、1年ほど前に父親に置いていかれて家に引き取られていたのですが、今では和菓子屋の跡取り候補として日々頑張っており、帰ってきてもいまだふらふらした性格のままの和に強くライバル心を燃やして対抗する・・・といった話になっています。

 30代になってまだいいかげんさの残る言動の和と、まだ10歳の子供なのにしっかりした一菓の関係が面白いです。性格も見た目も正反対の和と一菓、その掛け合いがとてもいい。最初はまったく相手にしなかった一菓ですが、臆面もなく話しかけてくる和に少しずつではあるが心を許していく展開がほほえましい。一菓がまだ子供で街で和菓子がさばけなくて困ってたところを、和がコミックバンド譲りの弾き語りで人を集めて助ける1話は泣けました。いいかげんな性格のままで戻ってきた和だけど、役に立つ時にはちゃんと子供を助けて役に立ってくれる。わたしこういう話にはほんと弱いです(笑)。
 和菓子稼業って厳しい修業が必要な側面もあるし、一菓の境遇も深刻なんですが、しかし和のいいかげんながらもメンタルの強くて明るい性格で、暗くなりすぎずに楽しく読める話になってると思うのです。このあたりのバランス感覚は浅野さんならではというか、ほんと昔からの浅野作品になってて安心しました。

 もうひとつ、肝心のメインテーマである「和菓子」の描写もさりげなく本格的です。和は、実家を出てから10年経っても和菓子への思い入れはそのままで、いまだ子供の頃のように和菓子を見て涙を流す愛情の注ぎぶり。登場する和菓子も、冒頭の桜まんじゅうに始まって、よもぎの薯蕷(じょうよ)まんじゅう、菜の花のきんとん、そしてあの和三盆も登場。和菓子への愛もたっぷりと感じられる一作になっていると思います。

 浅野さんは、かつては90年代のエニックスドラクエ4コマの投稿に始まり、いくつかの読み切りを経た後で、少年ガンガンの「CHOKO・ビースト!」でデビュー。これとその後の「PON!とキマイラ」の連載で大人気を博しました。姉妹誌のWING連載のファンタジーマンガ「パンゲア」も好評だったのですが、2001年にあのエニックスお家騒動が起こり、浅野さんもエニックスを離脱してマッグガーデンへと移籍。そちらでは「天外レトロジカル」「京洛れぎおん」などの連載を手掛けましたが、ここ最近は連載がなく、マッグガーデンでの活動も見られなくなりつつありました。今回の「であいもん」は、マッグガーデンでの最後の連載だった「京洛れぎおん」の終了から約3年ぶりの新連載で、そこでもまったく変わらない作風が見られて安心しました。

 最後にもうひとつ、和菓子のマンガと言えば、すでに「わさんぼん」という名作4コマが存在するのですが、この「であいもん」でもコミックス1巻の後書きで、和菓子屋取材の時に「わさんぼん」作者の佐藤両々先生が同行した話が載っていて、なるほどやっぱり関係があったのかと納得しました。この「であいもん」も浅野さんらしい快作になっていると思いますし、これは楽しみな新作がもうひとつ増えましたね。