そろそろ(出版社の事情を越えて)南国アイスもアニメ化するべき。

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 先日、久米田康治の「かくしごと」が原作アニメ同時に終了し、その感動的なラストで大いに反響を巻き起こしました。歴代久米田康治の作品の中でもとりわけ感動作だと思われる名作でしたが、これが終了した今、そろそろ「いつもの久米田」の代表作にして往年の名作・南国アイスもアニメ化してほしいと思うのです。

 

 「かくしごと」は、自分の娘に下品な下ネタマンガ(「きんたましまし」というタイトル)を描いていたことを知られたくないゆえに、マンガ家であることを隠し通そうとするマンガ家の話。しかし、これは多分に久米田自身の自伝的、あるいは自虐的な要素を含んでいるようで、その場合この下ネタマンガに当たるのが、久米田康治の最初の連載である「南国アイス」こと「行け!!南国アイスホッケー部」ではないかと思われます。

 

 「行け!!南国アイスホッケー部」は、1991年より少年サンデーで始まった連載で、タイトルからも類推されるとおり、当初はアイスホッケーを扱うスポーツマンガとして始まりました。南国鹿児島の弱小ホッケー部に、カナダからの助っ人選手としてやってきた蘭堂月斗という男が主人公。当初は彼を中心に比較的真面目にアイスホッケーをやっていたはずでした。

 

 しかし、連載がしばらく経った頃から突然作風が急変。アイスホッケーをほとんどやらなくなり、代わりに一発ギャグと一発キャラ、とりわけ露骨な下ネタを連発する強烈なギャグコメディへと変貌してしまうのです。「南国アイス」といえば、ほとんどの人はこの作風が変わったあとの下ネタギャグマンガを指すと思います。

 

 あくまで少年誌での掲載ではあるものの、その下ネタはかなり過激なもので、主人公の月斗などは毎回のようにオナニーにふけり、ついにはこすればこするほど強くなる「ずり拳」を取得、ある回などは山頂でオナニーしては投げ捨てていたティッシュのゴミがふもとの村を壊滅するなどひどいギャグが毎回のように見られました。周囲を固めるキャラクターも多くが下品な趣味を持つ者で固まり、有名人を下ネタでパロディにした一発キャラも多数登場。さらには「亀頭四兄弟」という強烈なライバルキャラクターも何度も登場して読者の失笑を誘うに十分でした。

 

 下ネタだけでなく、ダジャレや言葉遊びに類するギャグも非常に多かった。共通する単語を延々と小さくコマ割を続けて並び立てる作風もこの時からで、こうした一定のテーマにこだわるスタイルのギャグは、のちの久米田作品にも継承されることになりました。

 

 もうひとつ、絵柄の変遷があまりに激しかったのも、当時の読者からよく話題にされる特徴のひとつ。当初はスポーツものの少年マンガの雰囲気がよく出た、ある種サンデーライクな絵柄のマンガだったのですが、しかし作風が下ネタギャグに転向したあたりから急速に変わり始め、やがて線がひどく細くなりキャラクターのデフォルメも極端な独特の絵柄となり、これもそのままのちの久米田作品に継承されることになりました。もう最初の作品の段階で、すでにその作風はほぼ確立していたと言えます。
 (ちなみにこの時期の絵柄を見ると、のちの萌え絵の特徴をも備えているようで、今思えばその先駆けのひとつでもあったのかなと思っています。とりわけヒロインのそあらはかわいい。まじで。絵柄の変遷期でバランスの取れていた10巻表紙が絶品。)

 

 原色を多用した鮮烈なカラーイラストも特徴的でしたが、これはのちの作品ではやや落ち着いた色使いへと変わっています。しかし、これが最新作の「かくしごと」では、かつての南国アイスにほど近いと思えるパステルでビビッドな色使いが再来。これはかつての熱心な読者であった自分にとってもうれしくもありました。同作中でネタにされたこともあり、今の時代こそかつての名作・南国アイスをアニメ化してもいいのではないかと思い立ったのです。諸事情で出版社を移ったという事情もあって、かつての作品のアニメ化を実現するのは難しいかもしれませんが、閉塞的な今の時代にこそかつてのあのはじけとんだ作品のアニメとその反響を是非とも見てみたいと思うのです。

「すいんぐ!!」コミックス1巻発売!

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 今月の19日、ジャルダンコミックスという新レーベルから「すいんぐ!!」のコミックス1巻が発売されます。作者は佐倉おりこさん。以前からイラストレーターとして活躍していて、一方で商業初コミックスだったこの作品も、スタートはかれこれ数年前に遡るのですが、ここにきて待望のコミックス発売となりました。

 

 タイトルの「すいんぐ!!」は、ここではゴルフのスイングのこと。コミックス帯に「女子高生の日常×ゴルフ」とあるとおり、高校生の女の子たちのゴルフ部での活動を描いた日常コメディな作品となっています。今は廃部となっていたゴルフ部を立て直そうとするゴルフ好きのお嬢様・冬姫(いぶき)と、彼女に引っ張られる形で活動を始めたはるか・夏陽(なつひ)、そしてかえでの4人の女の子の楽しい活動を描く作品となっています。

 

 高校生や中学生の女の子たちがなんらかの部活に取り組む日常ものは、比較的スタンダードなジャンルだと思いますが、取り組む題材がゴルフというのはちょっと珍しいかもしれません。ゴルフというちょっと敷居の高いスポーツのやり方をひとつひとつ覚え、やがては廃部状態だった部活を正式に結成してさらに本格的な活動にも取り組んでいく。ゴルフというよく知られたスポーツではありますが、いざ自分で1から取り組むとなると、道具や施設の利用方法から基本的なスイングの方法まで、未経験者では知らなかったことも多い。日常部活もののテーマとしては中々新鮮で面白いと思いました。

 

 さて、先ほども少し書きましたが、この「すいんぐ!!」、元々は数年前に配信されていたウェブ配信サービス(ウェブ雑誌)「とわコミ!」の連載として始まりました(当時のタイトルは「Swing!!」)。2016年に始まったこのサービス、いわゆる萌え4コマに近いコンセプトとなっていて、かわいい女の子のキャラクターを押し出した連載が多くを占め、うち半分程度が4コママンガという構成でした(「Swing!!」は通常のスタイルのフルカラーコミック)。

 

 こうした「萌え4コマ」に該当する作品は、芳文社のきらら系雑誌が非常に強い人気を誇っていますが、それに追随する動きが他社でないわけではなく、この「とわコミ!」もかなり意欲的にそうした作品作りに取り組んでいたように思いました。しかし、残念ながらそこまでうまくいくケースは多くなく、この「とわコミ!」も2017年に早々とサービス終了してしまったのです。サービス開始が2016年11月、終了が2017年8月だったので、実に1年ももたなかったことになります。

 

 掲載誌のサービス終了で、当時の「Swing!!」の連載も中断することになったのですが、その後形を変えて他社でなんとか作品自体は続くことになり、紆余曲折あったのちに今の配信サービス(COMICジャルダン/実業之出版社)で再連載再スタート。そしてついに今月コミックス1巻発売となったわけです。かつての「とわコミ!」でもほぼ唯一フルカラーだったり一番の人気だった連載ゆえに、長い時間を経てここまで辿り着けてうれしいの一言です。

 

 個人的には、今のきらら以外の日常系作品の中でも、最も期待している作品のひとつになっています。とにかく絵がうまくて女の子がかわいいし、ゴルフの活動を一歩一歩進めていくストーリーも面白い。女の子同士の百合作品として扱われることもあり、その点でもきらら系日常作品の雰囲気を受け継ぐ作品だと思います。まさにジェネリックきらら最有力候補(笑)。これからの展開が非常に楽しみです。

桑佳あささんの新境地「しょうあんと日々。」。

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 前回に続いてコミックキューンの最近の連載から「しょうあんと日々。」を取り上げたいと思います。作者は桑佳あさ。かつては「藤野もやむ」名義でエニックスで「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」など数々の人気作を手掛け、移籍先のマッグガーデンでも長い間活動、そこを出た後もさらに活動を続けてきました。このコミックキューンでは、以前「どくろさんが見ている。」という連載がありましたが、そちらは残念ながら中途での終了となってしまったようです。
 その後、コミックキューンの誌面の方向性が変わったことで、ここでの次回作があるか不安に思っていたのですが、幸いにもこうして新作が始まったようです。その「しょうあんと日々。」は、これまでのどの桑佳さんの過去作とも異なるコンセプトを感じました。

 

 舞台は長崎の端島軍艦島)。かつて石炭の採掘が行われ、今では巨大な廃墟となったこの島で、なぜか小さな人間(小人?)の姿となって目覚めた硝安ダイナマイトの子「しょうあん」が主人公。炭鉱爆薬として生まれたはずの彼女ですが、目覚めた直後から島に残された人間の生活に興味を持ち、それらの遺構を求めて少しずつ島の探索を進めることになります。

 

 最初に彼女が興味を持ったのは、「黒いダイヤ」とも呼ばれる島に残された石炭。その石炭を廃墟の部屋に運搬する仕事(?)をこなしつつ、部屋に残ったかつての人間の生活に思いを馳せる。そこで見つけたのは照明ロケットやラジオ。今でも光るロケットを心を寄せる相棒に、今でも時折音が聞こえるラジオの声に反応して毎日の生活を送りつつ、さらに島内の探索を続けていく。


 学校を見つけて今でも教室に残る教材から様々なことを学び、かつて屋上にあった農園を見つけて僅かに残った野菜の収穫を始め、映画のフィルムを見つけてかつて人々で賑わっていた映画館での上映に想像をめぐらせる。彼女は小さなダイナマイトであり、人間の文明を完全に復活させるようなことはできないが、僅かに残った文明の残滓を追い求めて必死にその真似をしようとする。その姿がなんとも哀しくも愛おしい。

 

 面白いのは、これが廃墟となった島が舞台ではあるものの、いわゆる「終末の世界」であるわけではなく、ちゃんと離れた場所には人間が存在しているということ。舞台はおそらくは現代の日本であり(端島から人間がいなくなって数十年後という設定)、対岸の陸地には夜になると街明かりがともり、多くの人がそこで暮らしていることを想像させます。単に遠くにいるだけでなく、その人間たちが幾人か島に上陸してくることもあり、島の片隅で釣りをする住人のほか、かつての島民達が昔を懐かしんで廃墟を訪ねてきたりする。そんな人間の姿を直に目の当たりにして、さらに人間に親近感を覚えるしょうあんですが、ただのダイナマイトゆえに完全に触れ合うことはない。人間の文明がいまだ存在するがゆえの、その片隅の廃墟で生きる寂しさも良く出ていると思います。

 

 もうひとつ、このしょうあんの元にたまにダイナマイトの仲間が登場し、彼女たちとひと時の間楽しく触れ合うシーンもあります。最初に登場したのは、ちょっと変な性格をしたさくらというダイナマイト。彼女は、最後まで炭鉱爆薬として生きることを選択し、いきなり爆発四散していなくなってしまいます。
 次に登場したのは、今でも海の底の炭鉱で発掘作業を続けていたうめというダイナマイト。ひとつのことに孤独に打ち込むやや消極的な性格でしたが、しょうあんに見せられた人間の生活には興味を持ち、ふたりで島内の探索を進めるようになります。やがてしょうあん以上に人間の文明に興味を持つようになり、そして最後には人間の船に乗り込んで島を出ることを決意し、彼女のもとからいなくなってしまうのです。そうしてしょうあんはまたひとりに戻ってしまう。こうして仲間と一時触れ合いつつも「最後には再び孤独に戻る」というのが、またなんとも切ない作品となっています。

 

 ここ最近のコミックキューンでは、前回の記事で紹介した「シメジ シミュレーション」と共に、こうした独特な雰囲気を持つ貴重な連載ではないかと思います。桑佳さんがひとつ前の連載をしていた創刊初期からは様変わりしてしまったキューンですが、こうした作品を大事にしてほしいと思いますね。

エルドレインからイコリアまで。アグロデッキ調整奮闘記(MTGスタンダード)。

前回の記事(https://kenkyukan.hatenablog.com/entry/2020/06/05/210654)で、エルドレイン以降のスタンダードの、アグロデッキにとって厳しすぎる環境について詳細に書きました。ここでは、そんな環境においてなお、ひたすらアグロデッキに半年間挑戦し続けたその記録を書いてみたいと思います。

とりわけオーコが去った後一息ついてテーロスが参入したあたりから、環境のほとんどのデッキは試してみたと思います。ここからはその詳細な記録になります。

 

まずアグロをやるに際して最初の候補として試したデッキ、それは例に漏れずこの環境で唯一戦えると評判だった赤単です。土地基盤が弱いとされていたこの環境で単色である強みと、1マナ域2マナ域のクリーチャーが比較的充実し、何よりテーロスで加わったアナックスの存在とアグロに残った最後の必殺武器・エンバレスの宝剣との相性の良さ。確かに一定の強さは感じられました。

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しかし、実際に回してみると、これが思った以上に弱かったのです。単純にデッキのポテンシャルが足りなかった。まず気付くのは、1マナ域2マナ域のクリーチャーの貧弱さ。前の環境から残る遁走する蒸気族だけは(生き残れば)かなり強いですが、それ以外がことごとく弱い。1マナ域で2点クロックを確実に取れるのは焦がし吐きのみで、しかし本体は1/1と貧弱。ドミンゲスこと熱烈な勇者は、騎士の少ないこのデッキでは2体並ばないと1/1速攻でしかありません。2マナ域の義賊やリムロックも思ったより活躍しませんでした。

そしてもうひとつ、最大の欠点は除去とサイドボードの弱さでした。赤単色であるがゆえに、相手のクリーチャーによっては対抗する手段がない。サイドボードで手札破壊や有効なユーティリティが取れないのも問題で、他の色よりも確実に劣っていると思われました。実際、BO3ではサイド後に勝てない印象がとても強かったです。

 

というわけで赤単は早い時期に諦め、次に試したのはグルール(赤緑)です。エルドレインのオーコがいた時代から、トッププレイヤーのドミンゲスが一定の成果を残していたこともあり、個人的にも好きな色であったこともあって、自分も環境初期から使っていました。

1マナ域の生皮収集家からのクリーチャーの質が良く、ザルターのゴブリン・グルールの呪文砕き・探索する獣と美しい速攻クリーチャーの流れがありました。速攻が多いゆえにテフェリーにも強いです。宝剣も使えますし、きっちりぶん回った時の圧倒感は非常に強烈な印象を残します。

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しかし、このデッキにも、例に漏れず明確な弱点がありました。それは、紛れもなく低マナ、それも1マナ域の弱さ。このデッキには、1マナ域のクリーチャーが前述の生皮収集家4枚しかありません。2マナ域も多くなく、初手が悪いと3マナが初動なんてこともしばしば。もしこのデッキで毎回必ず初手で生皮収集家を展開できるなら、その人はPT優勝できると思いますが、わたしにはそのような右手の強さはありませんでした。かつてオーコ時代にグルールが強かったのは、何より「むかしむかし」での安定感があったからですね。

赤緑であるがゆえに、赤単同様の除去とサイドボードの狭さも欠点です。一応ドムリの待ち伏せというはまればかなり強い除去はありますが、一方格闘という条件があって使い勝手の悪さは否めず。緑なのでサイドでエンチャントに触れる点は大きいですが、残念ながら今の環境でこれはというエンチャント対策カード自体に乏しく、特にメリットは感じられませんでした(最新イコリアで入ったアンギラスが多分一番の候補)。

なお、同じグルールデッキの候補として、エッジウォールの亭主と出来事クリーチャーを採用した「グルール出来事」もあり、こちらでは1マナ域の弱さはかなり解消され、ひとつの有力候補でした。しかし、この形はとにかくコントロール系に非常に弱く、1/1が除去されて5/5の野獣が殴れないこともしばしば。アグロ同士の戦いでは強いのですが、今はそういう環境ではありませんでした。

 

赤単とグルールの次は、もうひとつの有力候補だったラクドス(黒赤)騎士を試しました。黒と赤の騎士が多めに入った構成で、こちらでは熱烈な勇者と漆黒軍の騎士、嵐拳の聖戦士がかなりの強さを示します。3マナでレギサウルスが使えるのも大きく、宝剣との一撃必殺が狙えるのも大きな魅力でした。

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しかし、こちらにも欠点はあり、まず上で挙げたクリーチャー以外が中途半端で弱い。とりわけ赤黒2色では、騎士デッキなのに肝心の有用な騎士が揃わないのです。そのため1マナ域のどぶ骨や2マナ域の義賊で埋める構成になりますが、どちらも相当弱かったです。

そしてもうひとつ、最大の欠点としてマナベースがあります。黒赤2色なのに全然色マナが安定しない! これはグルールにも言えてますが、こちらはさらに深刻で、赤ダブルシンボルの宝剣がどうしても出なかったり、騎士以外のカードも入ってるのに騎士土地(試合場)を中途半端な形で採用せざるをえなかったり、とにかくどうしようもなかったです。テーロス以後は赤黒占術土地(悪意の神殿)の採用で少しは改善されましたが、こちらはグルール以上にタップインを許容しづらいデッキで、タップインを増やすことはそれだけでデッキの動きに響いてしまいました。

 

というわけで、赤黒2色の騎士デッキが無理だったということで、次に試したのは、そこに白を加えたマルドゥ(黒赤白)の騎士デッキでした。こちらは、まず何よりも、白が加わったことでより有用な騎士が揃ったことが魅力でした。

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まず1マナ域で尊い騎士。これは1マナ騎士では一番弱いですが、それでも勇者・漆黒軍と合わせて10枚とか12枚の態勢を取れることが魅力で、これで初動がとても安定します(1t尊い騎士→2t勇者&漆黒軍という動きが最強)。そして2マナ域の立派な騎士。これはおそらく現行騎士の中では最強で、出た瞬間は2/2バニラで弱く感じるものの、生き残るとトークンを増産するバリューがとても高い。トークンが増えると何より宝剣が出しやすくなるメリットがあり、横並びで勝つことも多く、全体除去に弱い以外は滅法な強さがありました。同じく2マナ域の鼓舞する古参(騎士ロード)も、全体除去には弱いものの2マナ域の底上げとしては十分でしょう。

そしてもうひとつ、マナベースの問題が大幅に改善されたことが最大のメリットでした。レギサウルス以外ほぼすべてが騎士で構成されたことで、騎士土地(試合場)を4枚投入することが可能になり、逆にマナベースが改善されたのです。マナベースが安定したことで、3マナ域で黒ダブルシンボルの誓いを立てた騎士を採用することも可能となりました。これは赤と緑には非常に強く、とりわけ轟音のクラリオンや嵐の怒りといった赤系全体除去に耐性があることが大きく、白の3マナ騎士である評判高い挑戦者より優先して入ります。

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そうして作り上げたデッキの完成形がこちら。この形だと、マナベースが黒が純粋黒土地12枚+騎士土地4枚、赤が純粋赤土地12枚+騎士土地4枚、白が純粋白土地8枚+騎士土地4枚となり、16枚・16枚・12枚で理論上必要な数は確保されています。しかもすべてアンタップインでそちらも完璧。なんと今の環境では、2色のラクドス(黒赤)より3色のマルドゥ(黒赤白)の方がマナベースが安定するのです。もうわけが分かりません。

(※注 なおこれでもややきわどい枚数なので、イコリア参入後は3色トライオームを数枚採用しています)。

なおこれはあくまで基本形であり、ここから対コントロールにドリルビット(手札破壊)が数枚、対アグロに砕骨の巨人が数枚、予想されるデッキに応じて適宜入ることになります。その場合抜ける候補は1マナ域で一番弱い尊い騎士、全体除去に弱く4枚の必要性は低いロード、巨人と入れ替わりで3マナの誓いを立てた騎士から数枚あたりになると思います。

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黒を使うことでサイドボードも非常に強くなりました。なんといっても手札破壊が使えるのは大きすぎます。ジェスカイ創案系やティムール再生、青白コントロールなどのコンボ・コントロールが中心となっている今の環境で、手札破壊がサイドイン出来るメリットはあまりに大きい。

黒ならではの確定除去が使えるのも大きいです。害悪の掌握。これでウーロ含め緑系のクリーチャー全般に対処出来るようになり、かつてはよく使われたPWニッサを倒せたのも大きかったです。シミックフラッシュやティムール再生の狼(夜群れの伏兵)に対処できる環境ほぼ唯一のカードでもありました(イコリア参入後は非情な行動でもいいです)。

 

こうして最終的に使うデッキはこちらになりましたが、これ以外にも緑単や緑白、緑黒、黒単、白単、青白飛行なども試しています。しかし、どれもはっきりとデッキパワーが弱く、使うには至りませんでした。

最大の分岐点は、エンバレスの宝剣の有無です。この環境では、トランプルを持つ宝剣がないと、やはりサクリファイスにほぼ絶対勝てないのです。そうでなくとも、強引なダメージの押し込みが狙える、今のアグロ最強カードである宝剣を採用しない手はなく、これがデッキ選択の決め手となりました。

 

そんなわけで、このデッキを数ヵ月間延々と回し続けた結果ですが、まあかなり満足行く結果を残した手応えもありましたが、しかしそれ以上にしんどい、アグロにとって厳しすぎるストレスがたまる環境でもありました。このデッキについては紛れもなく自信作で、ひとつの解答だと自信を持って言えますが、それでも禁止改定後のこれから先の環境で通用するかは、今のところ未知数です。このブロック最後でまた答え合わせの記事を書いてみようと思いますね。

エルドレインからイコリアまで。アグロプレイヤーの環境総振り返り(MTGスタンダード)。

エルドレイン以後のMTG(スタンダード)において、アグロ(ビートダウン)がまったく振るわないと聞いて久しいですが、この6/1の禁止改定を契機に、これまでのアグロデッキにとっての環境をまとめて振り返る記事を書こうと思いました。

 

わたし自身も、コンバットが楽しめるビートダウンが好きで、この半年ずっとアグロデッキをあれこれ試していましたが、やはり想像以上にとてつもなくしんどかったです。自分のデッキ調整録についてはまた別に書きたいところですが、ここはまずわたしが目の当たりにしたアグロ逆境の厳しすぎる環境の実情(恨み節とも言う)について、詳細に記述していこうと思います。

 

まずこの環境のアグロにとっての最大の難敵は、間違いなくジェスカイ創案とそこからの派生であるジェスカイルーカでした。相手の採用カードとの相性がことごとくひどすぎたのです。

まずジェスカイ創案には、ほぼ確実に砕骨の巨人が入っていました(ルーカでは赤お告げと入れ替え)。このカードの2点火力が極めて腹立たしく、アドバンテージを取られるだけでなく、その後に出る4/3ブロッカーが小さめのクリーチャーでは越えられないため、これだけでまず相性が極めて悪い。

巨人で焼かれないクリーチャーを出しても、次は3マナでテフェリーが待ち構えています。巨人で焼かれないコスト高めの中堅クリーチャーを出しても、3マナでバウンスされて時間を稼がれるだけなので、これで攻勢が止まることになります。

さらにそのテフェリーを倒すためにクリーチャーを並べると、轟音のクラリオン・空の粉砕の全体除去で一掃されることになります。そもそも3マナ全体除去のクラリオンが、アグロ戦略にとっては非常に厳しい。それでも自分のデッキには、クラリオンが効かないレギサウルスあたりがフルで入っていましたが、テーロス参入後は4マナの空の粉砕の採用がメインとなり、これでも越えられなくなりました。

つまり、砕骨の巨人・時を解すテフェリー・轟音のクラリオン(空の粉砕)の3点セットが、アグロに対してきっちり互いを補完し合う形となっており、小さいクリーチャーは巨人で焼き、巨人で焼けないファッティはテフェリーでバウンス、並べてきたら全体除去で一掃と、デッキが完璧に噛み合っています。

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こうして序盤の攻撃をさばかれると、あとは4マナで創案を置かれ、その後はもうテンポでもカードの質でも圧倒されることになります。このデッキに対しては、どれだけ手札破壊をサイドインしても最後まで相性は改善せず、勝つのは至難の業でした。

さらに、このジェスカイ創案からの派生で環境最後の一強となったジェスカイルーカで、アグロの相性の悪さは決定的になりました。5マナ域でのフィニッシャー(ヨーリオン)が確定しており、ルーカ&工作員・エルズペス死に打ち勝つの使い回しで急速に盤面を制圧されるため、もう全体除去をケアしてクリーチャーを展開しないという選択もなくなったのです。攻撃をゆるめるとどの道5マナ以上のカードで制圧されるため、相手に全体除去があろうがなかろうがオールインするしかない状況が頻発することになりました。相棒のおかげでコントロールのフィニッシャーが確定している状況が、いかに強いかよくわかります。

 

さらなる難敵としては、環境の対抗馬であるティムール再生もあります。こちらは代わりの全体除去として嵐の怒りが入り、これがまた最大の難関として立ちはだかりました。自分のデッキでは、たまに入っている3マナの炎の一掃も刺さります。テーロスで加わった2枚の4マナの全体除去といい、WotCは無駄にラスを作りすぎですね。今は全体除去に耐性のあるクリーチャーがほとんどいなくなり(アダント・再燃のフェニックス・たかり屋・機体など)、アグロを強力にバックアップするPWもいなくなったため、アグロ相手にとりあえず全体除去を積んでおいて裏目がない。大体白赤黒のどこからでも全体除去が飛んできます。

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しかし、このティムール再生は、それでもジェスカイに比べればまだずっとましな方であり、火力しか除去がないため、自分のデッキでは誓いを立てた騎士・レギサウルスが死なないことが大きかった。また、砕骨の巨人が未採用なことが多く、焦熱の竜火(2マナ3点火力)を優先していることも有利に働きました。そして何よりテフェリーがいない! これだけでもずっと楽な相手でした。アグロの立場から見ても、再生が環境の2番手以降に甘んじている理由がよく分かります。

 

もうひとつのコントロールとして青白コントロールとの相性はどうか。やはり確定全体除去の空の粉砕&テフェリーが入ることで、火力中心のティムール再生よりは厳しい相手でした。2マナのメレティス誕生の壁生成&ライフ回復で時間を稼がれるのもしんどいです。

しかし、それでもジェスカイよりはずっとましであり、やはり砕骨の巨人&轟音のクラリオンがないだけでぜんぜん違います。創案デッキと違ってデッキのフィニッシュが遅いのも楽ですね。ラスを撃たれてもまだゲームが続く可能性があるわけです。

 

ここまでのまとめとして、この3つのデッキをアグロにとって厳しい順に並べると

ジェスカイ創案・ルーカ > 青白コントロール > ティムール再生

になると思います。この点だけを見ても最終的にジェスカイが勝ち組になったことがよく分かります。ジェスカイってアグロに対する取りこぼしも非常に少ないんですよね。

 

そんなわけでコントロール系(とりわけジェスカイ)に対して非常に苦しい対戦を強いられたのですが、アグロにはこれ以外にもさらに難敵が幾つもありました。その筆頭がサクリファイス系デッキ(ジャンドやラクドス)になります。

このデッキも、デッキ全体がアグロに対して強い構成になっており、とりわけ猫かまどのセットと初子さらい、そして波乱の悪魔の存在が厳しい。猫とかまどが揃うと地上がどうしても通らなくなり、勝つためには攻撃を通す何らかの別の手段が必要になります。地味に止まったままでライフを回復され続けるのもしんどいです。

そしてなぜかメインに4枚入っている初子さらい。これも極めて腹立たしいカードで、いくらテンポよくアグロを展開しても、わずか1マナで除去されて食物に変えられるのでは話になりません。さらに3マナ以降出てくるであろう波乱の悪魔が最悪で、生き残るとまずこちらのクリーチャーが残ることはないでしょう。今の環境では、メインでこの悪魔を除去するカードを採用しづらいことも問題です。これ以外にも、先手2ターン目に出てくるDJこと忘れられた神々の僧侶も大概やばいです。

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こうしたアグロを咎める構成のため、このサクリファイス系に対するアグロの相性は、ひょっとするとコントロール系以上に厳しいものがあったかもしれず、これもまたアグロが落ち込む大きな要因のひとつになっていたと思います。

 

それともうひとつだけ、最近はめっきり減ってしまいましたが、ティムールアドベンチャーについても触れておきましょう。このデッキもアグロにとって非常に厳しい相手になっていました。

まず恒例の砕骨の巨人。これがアグロにとってまず厳しい最初の難関ですが、このデッキではそれを複製して何回も使ってくるわけです。これだけでいきなりしんどすぎる。恋煩いの野獣ももちろんアグロにとって越えがたい壁で、しかも1マナで出るトークンでもひたすら攻撃が止まり、しかも往々にして複数一度に出てきます。厚かましい借り手も極めて腹立たしい相手で、これで複数一度にバウンスされるのが、精神的には一番しんどいかもしれません。

そして序盤にさらっと素で出てくる願いのフェイも地味にいい仕事をしてきます。1/4飛行というスタッツがアグロにとってえらく固い壁になっている。そして1マナ1/1の最強クリーチャー亭主。これを除去せざるを得なくてテンポを失うことも多いです。

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以上にように、このデッキも全体を通してナチュラルにアグロに強い構成となっており、正面から素直に攻めるアグロデッキでは非常に越えがたいものとなっています。これもまたアグロに厳しい環境の一助を担っていたと思うのです。

 

こうした数々のアグロに対して強い、メインからナチュラルにアグロを咎めるようなデッキとカードが多数を占めた結果、エルドレイン以降ここまでのスタンダードは、稀に見るほどにアグロに対して厳しい環境になっていたと思います。そしてここに来ての6/1の禁止改定。これを契機にアグロの衰退ぶりが改めて取り上げられているようですが、ではこの後の環境でアグロの復活はあるのでしょうか。

まず、創案と工作員が消えてジェスカイ創案とルーカが事実上消滅したことは、アグロにとって非常にありがたい変更であることは間違いありません。相性最悪の最大の難敵がようやく消えたことになります。

しかし、それでもなおまだ厳しいことに変わりないとわたしは予想します。現時点でいまだアグロのカードの弱さとマナベースの厳しさは変わらず、ティムール再生や青白コントロールサクリファイスに対しても、いまだ有利とは言えないでしょう。

どちらかと言えば、同じアグロでも、このイコリアで新しく登場したサイクリングや白単(白緑)オーラ、青緑変容のような、同じアグロでもちょっと軸をずらしたデッキの方が活躍出来る目は大きいような気がします。

しかし、これから先M21の発売も近くなりましたし、これを契機にそろそろオーソドックスなアグロが少しは日の目を見てもいい気もします。新しく加わるカードと、アグロ好きなプレイヤーたちの創意工夫に期待したいと思いますね。

それと、個人的にもこれまでこの環境でひたすらアグロデッキに挑戦した調整録と完成したデッキも、この記事に続いて書いてみました(https://kenkyukan.hatenablog.com/entry/2020/06/05/211708)。これも参考になると幸いです。

シュールで退廃的だけど穏やかで楽しくもある日常「シメジシミュレーション」。

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 コミックキューンで1年数カ月ほど前に連載が始まり、少し前にコミックス1巻が発売された「シメジシミュレーション」を取り上げてみたいと思います。作者はあの「少女終末旅行」のつくみずさん。「少女終末旅行」は、終末を迎えつつある滅んだ世界での日常の旅を描いた作品として、アニメも非常に評判を呼んだ名作。残念ながらコミックス6巻で「終末」を迎えましたが、その後しばらくしてコミックキューンで始まったのがこの新作。あのつくみずさんの新作ということで、「少女終末旅行」にはまったわたしとしても待望の連載でした。

 

 舞台はどことも知れない、おそらくは日本の地方の郊外。主人公のしじま(しめじ)が、2年間の押入れでの引きこもり生活から一念発起し、高校入学を起に学校へと通い始める。そんな1話冒頭から物語はスタートします。
 久しぶりに出て目の当たりにした外の世界。それは、ごくありふれた衰退しつつある地方の郊外にも見えて、しかしところどころで違和感のあるシュールな一面も見え隠れする、そんな世界でした。
 まず、主人公の頭にはいつのまにかきのこ(しめじ)が生えている。最初に友達になったまじめにはなぜか頭に目玉焼きが乗っている。学校ではなぜか「穴掘り部」という意味不明な部活が活動していたり、通学途中の空き地には時折なんだか妙なオブジェが建っていたりするし、時折変な人に遭遇したりする。

 

 こうした奇妙な世界観は、主人公が見る「夢」の世界でさらに顕在化し、巨大な集合住宅(団地)が無数に連なる世界で、部屋を訪れるごとに奇妙なオブジェが中に陳列され、建物の間の空中に長い階段がかかり、巨大な蟹が襲ってきて空を飛ぶ魚で難を逃れたりする。このようなシュールなイメージが全面に出た世界観は、不思議な構造物が至るところに見られた「少女終末旅行」とも共通するところで、またかつての不条理作品の名作から、つげ義春の漫画を思い出す人も見かけました。個人的にも、この夢に見る光景は幻想的でとても惹かれるものがあり、中でも「よしか」と名付けられた魚とカフェで対面する1話のワンカットがとても好きです。

 

 しかし、それと同時に、こうした世界でも普通の(?)日常は存在し、その中で穏やかに生活する姿もよく描かれているように思えました。毎回のエピソードの最後にその話で登場した場所のワンカットが描かれているのですが、「学校の昇降口」「教室」「校庭」「ファミレス」「住宅地」と、それらのカットを見ると意外にも現実の世界とさほど変わらず、平凡だけど穏やかな日常をそれなりに楽しく過ごしている様子が窺えます。

 

 むしろ、この作品で描かれている世界は、今現実で急速に衰退しつつある郊外の地方都市の姿をも彷彿とさせます。住宅地よりも茫漠とした空き地の方がずっと広く広がっていて、歩いている人も少なく閑散としている。そんな中に学校やコンビニやファミレスがぽつんと点在している。さらには主人公が住んでいる巨大な集合住宅(団地)には、彼女たち以外はほとんど住んでいないらしく、もはや廃墟に近い状態になっている。このままさらに人は減っていってついには完全に廃墟になりそうな、現実の日本の地方の姿をさらに押し進めたような印象を受けました。

 

 そんな世界で、唯一際立っているのが、科学者であるらしい主人公の姉の行動です。彼女は、「世界のゆがみを検出する」ために日々何事か研究しているらしく、やがて「名前のある魚生成機」なる奇妙な機械を作り上げ、しじまたちを夢とも現実ともつかない世界へと誘う。やがて来る近未来の衰退した世界において、その世界を作り変えるために何事か企んでいる科学者の姿。ひとつのSF作品としても見逃せないものがあると思います。

「近年の異世界(RPG)ライトノベル作品における指導者役の不在について」

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 先日、すでに再アニメ化が告知されていた「ダイの大冒険」関連の情報が一気に公開され、アニメの最新情報に加えていくつかのプラットフォームでのゲーム化、さらにはVジャンプでアバン先生を主人公にした新連載の開始まで告知されました。「アバン先生」は、同作品でかつての勇者として主人公たちを教え導き、さらには自分も敵と果敢に戦う名キャラクター。この「ダイの大冒険」でもとりわけ人気の高いキャラクターで、自分も1、2を争うほど好きなキャラクターだっただけに、今回の展開には思わず身を乗り出して喜んでしまいました。なんでも、かつての連載当時にアバン先生の外伝が掲載されたのもVジャンプだったらしく、ここでの再登場はかつてのファンの誰もが待ち望んだものとも言えそうです。

 

 自分がこの「アバン先生」を好きな理由は、とにかくまさに「先生」として、すなわち後進の主人公達を教え導く指導者役として優れていたこと。こうした導師(メンター)役のキャラクターは、かつての少年マンガやファンタジーではよく見られたもので、このアバン先生に匹敵する名キャラクターとして「ドラゴンボール」の亀仙人や、あるいは同じドラクエマンガとして「ロトの紋章」の賢者カダルの存在も思い出しました。

 

 ところで、こうした指導者役のキャラクターは、かつての作品ではひとつの定番としてありふれたものでしたが、ここ最近の一部作品において、とりわけこの作品とも共通するファンタジーやゲーム原作ものにおいて、なぜか不在となることが増えているように感じていました。特に、一部で「俺TUEEE」と呼ばれてよく話題にされる、ライトノベルを中心としたオンラインゲーム(MMORPG)ものや異世界転生ものにおいて顕著です。

 

 こうした作品において、主人公やメインキャラクターたちが、誰か特定の指導者についてそこで本格的な指導を受ける。そうしたシーンが見られることは多くありません。オンラインゲームならば、基本的にはひとりでゲームをやりこんで強くなる形となり、異世界転生ものにおいても、最初から強い能力を持ち合わせていたり、あるいは自分自身の機転のみで難局を切り抜けていく。そういう作品が極めて多く、ひとつの主流になっているのではないかと感じます。

 

 こうした「俺TUEEE」とも呼ばれる作品、よく揶揄や嘲笑の対象になったり、そうでなくとも「強すぎてつまらない」と不評を受けることが目立ちますが、それにはこうした「指導者役の不在」も一因となっているような気がします。指導者もいないのにひとりで勝手に強くなっている。そうした設定に対する納得感が薄いのではないか。アバン先生のような優秀な指導者の元でみっちり修業したのなら、それは強くなるのが当たり前であり、そのことに対して誰も文句は言わないでしょう。

 

 なぜこうした設定が広まるようになったのか。いろいろ理由は考えられますが、ひとつには今のオンラインゲーム(MMORPG)のあり方が、そうしたゲーム舞台作品やその延長的な設定の異世界もの作品に波及していると考えました。


 そもそも、こうしたオンラインゲームにおいて、「誰か先達の指導者にゲームのやり方を指導してもらう」というような光景は、現実でもまず考えられません。誰もがひとりでプレイを始めてひとりでやりこんで強くなっていくわけです。「ソードアートオンライン」のアニメ冒頭1話において、主人公キリトがひとりでひたすら戦闘の訓練をするシーンがありますが、それこそがまさにMMOPRGでは当たり前の光景なのです。
 これは、RPG以外のゲーム、競技志向のいわゆる「eスポーツ」に該当するゲームでもそうで、ほとんどの強豪プレイヤーたちは、ひとりひとり独学でやりこんで強くなっている。こうしたプレイヤーの活動において、仲間同士で協力してゲームをやりこむことはあっても、年長の指導者に厳しい指導を受けて強くなったという話はあまり(ほとんど)聞きません。

 

 そうしたゲームの現状を、直接的にこうした創作作品に落とし込んでいると考えれば、別に指導者不在でも何もおかしいことはない。今のゲームに慣れた読者にとっては、こうした設定こそが現実そのままで、そこに共感を覚えて支持されているのではないか。
 「ダイの大冒険」も、原案はドラクエというゲームですが、そちらはまず古典的な「異世界ファンタジー」としてのスタイルがあります。モンスターが跋扈する厳しい世界において、修羅場を潜り抜けた優秀な指導者の下で、厳しい試練を乗り越えて強くなる。そうしたバックボーンがある点で大きく異なります。これは同じドラクエマンガである「ロトの紋章」でもそうで、そのベースが伝統的なファンタジーである点が大きい。
 対して、今のライトノベルMMORPG異世界転生ものは、まず「ゲーム」や「現実の世界」の方がベースにあり、そうした世界での常識が優先される設定になっているわけです。ゆえに主人公がひとりでゲームをやりこんでひとりで強くなっていくし、ゲームの能力を継承したり現実の知識を異世界に持ち込んだ主人公が、そこでその能力を駆使して最初から活躍したりする。そこにあえて指導者の存在は必要ないことになります。

 

 ここで留意すべきは、別にこういう指導者不在の設定だからといって、決して今の作品が劣っているわけではないということです。ひとりでのたゆまない努力とこれまでの経験・知識から道を切り開いて活躍する。そうした面白さを感じて支持している人の方が、「俺TUEEE」と言って面白半分に叩いている人よりも圧倒的に多く、それがアニメ化作品も相次ぐほどのジャンルの隆盛につながっている。昔の名作には昔の名作の、今のヒット作には今のヒット作ならではの面白さがあるわけです。今回の「ダイの大冒険」というかつての名作の新展開を受けて、そのことを改めて確認したいと思いました。