エルドレインからイコリアまで。アグロプレイヤーの環境総振り返り(MTGスタンダード)。

エルドレイン以後のMTG(スタンダード)において、アグロ(ビートダウン)がまったく振るわないと聞いて久しいですが、この6/1の禁止改定を契機に、これまでのアグロデッキにとっての環境をまとめて振り返る記事を書こうと思いました。

 

わたし自身も、コンバットが楽しめるビートダウンが好きで、この半年ずっとアグロデッキをあれこれ試していましたが、やはり想像以上にとてつもなくしんどかったです。自分のデッキ調整録についてはまた別に書きたいところですが、ここはまずわたしが目の当たりにしたアグロ逆境の厳しすぎる環境の実情(恨み節とも言う)について、詳細に記述していこうと思います。

 

まずこの環境のアグロにとっての最大の難敵は、間違いなくジェスカイ創案とそこからの派生であるジェスカイルーカでした。相手の採用カードとの相性がことごとくひどすぎたのです。

まずジェスカイ創案には、ほぼ確実に砕骨の巨人が入っていました(ルーカでは赤お告げと入れ替え)。このカードの2点火力が極めて腹立たしく、アドバンテージを取られるだけでなく、その後に出る4/3ブロッカーが小さめのクリーチャーでは越えられないため、これだけでまず相性が極めて悪い。

巨人で焼かれないクリーチャーを出しても、次は3マナでテフェリーが待ち構えています。巨人で焼かれないコスト高めの中堅クリーチャーを出しても、3マナでバウンスされて時間を稼がれるだけなので、これで攻勢が止まることになります。

さらにそのテフェリーを倒すためにクリーチャーを並べると、轟音のクラリオン・空の粉砕の全体除去で一掃されることになります。そもそも3マナ全体除去のクラリオンが、アグロ戦略にとっては非常に厳しい。それでも自分のデッキには、クラリオンが効かないレギサウルスあたりがフルで入っていましたが、テーロス参入後は4マナの空の粉砕の採用がメインとなり、これでも越えられなくなりました。

つまり、砕骨の巨人・時を解すテフェリー・轟音のクラリオン(空の粉砕)の3点セットが、アグロに対してきっちり互いを補完し合う形となっており、小さいクリーチャーは巨人で焼き、巨人で焼けないファッティはテフェリーでバウンス、並べてきたら全体除去で一掃と、デッキが完璧に噛み合っています。

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こうして序盤の攻撃をさばかれると、あとは4マナで創案を置かれ、その後はもうテンポでもカードの質でも圧倒されることになります。このデッキに対しては、どれだけ手札破壊をサイドインしても最後まで相性は改善せず、勝つのは至難の業でした。

さらに、このジェスカイ創案からの派生で環境最後の一強となったジェスカイルーカで、アグロの相性の悪さは決定的になりました。5マナ域でのフィニッシャー(ヨーリオン)が確定しており、ルーカ&工作員・エルズペス死に打ち勝つの使い回しで急速に盤面を制圧されるため、もう全体除去をケアしてクリーチャーを展開しないという選択もなくなったのです。攻撃をゆるめるとどの道5マナ以上のカードで制圧されるため、相手に全体除去があろうがなかろうがオールインするしかない状況が頻発することになりました。相棒のおかげでコントロールのフィニッシャーが確定している状況が、いかに強いかよくわかります。

 

さらなる難敵としては、環境の対抗馬であるティムール再生もあります。こちらは代わりの全体除去として嵐の怒りが入り、これがまた最大の難関として立ちはだかりました。自分のデッキでは、たまに入っている3マナの炎の一掃も刺さります。テーロスで加わった2枚の4マナの全体除去といい、WotCは無駄にラスを作りすぎですね。今は全体除去に耐性のあるクリーチャーがほとんどいなくなり(アダント・再燃のフェニックス・たかり屋・機体など)、アグロを強力にバックアップするPWもいなくなったため、アグロ相手にとりあえず全体除去を積んでおいて裏目がない。大体白赤黒のどこからでも全体除去が飛んできます。

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しかし、このティムール再生は、それでもジェスカイに比べればまだずっとましな方であり、火力しか除去がないため、自分のデッキでは誓いを立てた騎士・レギサウルスが死なないことが大きかった。また、砕骨の巨人が未採用なことが多く、焦熱の竜火(2マナ3点火力)を優先していることも有利に働きました。そして何よりテフェリーがいない! これだけでもずっと楽な相手でした。アグロの立場から見ても、再生が環境の2番手以降に甘んじている理由がよく分かります。

 

もうひとつのコントロールとして青白コントロールとの相性はどうか。やはり確定全体除去の空の粉砕&テフェリーが入ることで、火力中心のティムール再生よりは厳しい相手でした。2マナのメレティス誕生の壁生成&ライフ回復で時間を稼がれるのもしんどいです。

しかし、それでもジェスカイよりはずっとましであり、やはり砕骨の巨人&轟音のクラリオンがないだけでぜんぜん違います。創案デッキと違ってデッキのフィニッシュが遅いのも楽ですね。ラスを撃たれてもまだゲームが続く可能性があるわけです。

 

ここまでのまとめとして、この3つのデッキをアグロにとって厳しい順に並べると

ジェスカイ創案・ルーカ > 青白コントロール > ティムール再生

になると思います。この点だけを見ても最終的にジェスカイが勝ち組になったことがよく分かります。ジェスカイってアグロに対する取りこぼしも非常に少ないんですよね。

 

そんなわけでコントロール系(とりわけジェスカイ)に対して非常に苦しい対戦を強いられたのですが、アグロにはこれ以外にもさらに難敵が幾つもありました。その筆頭がサクリファイス系デッキ(ジャンドやラクドス)になります。

このデッキも、デッキ全体がアグロに対して強い構成になっており、とりわけ猫かまどのセットと初子さらい、そして波乱の悪魔の存在が厳しい。猫とかまどが揃うと地上がどうしても通らなくなり、勝つためには攻撃を通す何らかの別の手段が必要になります。地味に止まったままでライフを回復され続けるのもしんどいです。

そしてなぜかメインに4枚入っている初子さらい。これも極めて腹立たしいカードで、いくらテンポよくアグロを展開しても、わずか1マナで除去されて食物に変えられるのでは話になりません。さらに3マナ以降出てくるであろう波乱の悪魔が最悪で、生き残るとまずこちらのクリーチャーが残ることはないでしょう。今の環境では、メインでこの悪魔を除去するカードを採用しづらいことも問題です。これ以外にも、先手2ターン目に出てくるDJこと忘れられた神々の僧侶も大概やばいです。

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こうしたアグロを咎める構成のため、このサクリファイス系に対するアグロの相性は、ひょっとするとコントロール系以上に厳しいものがあったかもしれず、これもまたアグロが落ち込む大きな要因のひとつになっていたと思います。

 

それともうひとつだけ、最近はめっきり減ってしまいましたが、ティムールアドベンチャーについても触れておきましょう。このデッキもアグロにとって非常に厳しい相手になっていました。

まず恒例の砕骨の巨人。これがアグロにとってまず厳しい最初の難関ですが、このデッキではそれを複製して何回も使ってくるわけです。これだけでいきなりしんどすぎる。恋煩いの野獣ももちろんアグロにとって越えがたい壁で、しかも1マナで出るトークンでもひたすら攻撃が止まり、しかも往々にして複数一度に出てきます。厚かましい借り手も極めて腹立たしい相手で、これで複数一度にバウンスされるのが、精神的には一番しんどいかもしれません。

そして序盤にさらっと素で出てくる願いのフェイも地味にいい仕事をしてきます。1/4飛行というスタッツがアグロにとってえらく固い壁になっている。そして1マナ1/1の最強クリーチャー亭主。これを除去せざるを得なくてテンポを失うことも多いです。

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以上にように、このデッキも全体を通してナチュラルにアグロに強い構成となっており、正面から素直に攻めるアグロデッキでは非常に越えがたいものとなっています。これもまたアグロに厳しい環境の一助を担っていたと思うのです。

 

こうした数々のアグロに対して強い、メインからナチュラルにアグロを咎めるようなデッキとカードが多数を占めた結果、エルドレイン以降ここまでのスタンダードは、稀に見るほどにアグロに対して厳しい環境になっていたと思います。そしてここに来ての6/1の禁止改定。これを契機にアグロの衰退ぶりが改めて取り上げられているようですが、ではこの後の環境でアグロの復活はあるのでしょうか。

まず、創案と工作員が消えてジェスカイ創案とルーカが事実上消滅したことは、アグロにとって非常にありがたい変更であることは間違いありません。相性最悪の最大の難敵がようやく消えたことになります。

しかし、それでもなおまだ厳しいことに変わりないとわたしは予想します。現時点でいまだアグロのカードの弱さとマナベースの厳しさは変わらず、ティムール再生や青白コントロールサクリファイスに対しても、いまだ有利とは言えないでしょう。

どちらかと言えば、同じアグロでも、このイコリアで新しく登場したサイクリングや白単(白緑)オーラ、青緑変容のような、同じアグロでもちょっと軸をずらしたデッキの方が活躍出来る目は大きいような気がします。

しかし、これから先M21の発売も近くなりましたし、これを契機にそろそろオーソドックスなアグロが少しは日の目を見てもいい気もします。新しく加わるカードと、アグロ好きなプレイヤーたちの創意工夫に期待したいと思いますね。

それと、個人的にもこれまでこの環境でひたすらアグロデッキに挑戦した調整録と完成したデッキも、この記事に続いて書いてみました(https://kenkyukan.hatenablog.com/entry/2020/06/05/211708)。これも参考になると幸いです。