エルドレインからイコリアまで。アグロデッキ調整奮闘記(MTGスタンダード)。

前回の記事(https://kenkyukan.hatenablog.com/entry/2020/06/05/210654)で、エルドレイン以降のスタンダードの、アグロデッキにとって厳しすぎる環境について詳細に書きました。ここでは、そんな環境においてなお、ひたすらアグロデッキに半年間挑戦し続けたその記録を書いてみたいと思います。

とりわけオーコが去った後一息ついてテーロスが参入したあたりから、環境のほとんどのデッキは試してみたと思います。ここからはその詳細な記録になります。

 

まずアグロをやるに際して最初の候補として試したデッキ、それは例に漏れずこの環境で唯一戦えると評判だった赤単です。土地基盤が弱いとされていたこの環境で単色である強みと、1マナ域2マナ域のクリーチャーが比較的充実し、何よりテーロスで加わったアナックスの存在とアグロに残った最後の必殺武器・エンバレスの宝剣との相性の良さ。確かに一定の強さは感じられました。

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しかし、実際に回してみると、これが思った以上に弱かったのです。単純にデッキのポテンシャルが足りなかった。まず気付くのは、1マナ域2マナ域のクリーチャーの貧弱さ。前の環境から残る遁走する蒸気族だけは(生き残れば)かなり強いですが、それ以外がことごとく弱い。1マナ域で2点クロックを確実に取れるのは焦がし吐きのみで、しかし本体は1/1と貧弱。ドミンゲスこと熱烈な勇者は、騎士の少ないこのデッキでは2体並ばないと1/1速攻でしかありません。2マナ域の義賊やリムロックも思ったより活躍しませんでした。

そしてもうひとつ、最大の欠点は除去とサイドボードの弱さでした。赤単色であるがゆえに、相手のクリーチャーによっては対抗する手段がない。サイドボードで手札破壊や有効なユーティリティが取れないのも問題で、他の色よりも確実に劣っていると思われました。実際、BO3ではサイド後に勝てない印象がとても強かったです。

 

というわけで赤単は早い時期に諦め、次に試したのはグルール(赤緑)です。エルドレインのオーコがいた時代から、トッププレイヤーのドミンゲスが一定の成果を残していたこともあり、個人的にも好きな色であったこともあって、自分も環境初期から使っていました。

1マナ域の生皮収集家からのクリーチャーの質が良く、ザルターのゴブリン・グルールの呪文砕き・探索する獣と美しい速攻クリーチャーの流れがありました。速攻が多いゆえにテフェリーにも強いです。宝剣も使えますし、きっちりぶん回った時の圧倒感は非常に強烈な印象を残します。

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しかし、このデッキにも、例に漏れず明確な弱点がありました。それは、紛れもなく低マナ、それも1マナ域の弱さ。このデッキには、1マナ域のクリーチャーが前述の生皮収集家4枚しかありません。2マナ域も多くなく、初手が悪いと3マナが初動なんてこともしばしば。もしこのデッキで毎回必ず初手で生皮収集家を展開できるなら、その人はPT優勝できると思いますが、わたしにはそのような右手の強さはありませんでした。かつてオーコ時代にグルールが強かったのは、何より「むかしむかし」での安定感があったからですね。

赤緑であるがゆえに、赤単同様の除去とサイドボードの狭さも欠点です。一応ドムリの待ち伏せというはまればかなり強い除去はありますが、一方格闘という条件があって使い勝手の悪さは否めず。緑なのでサイドでエンチャントに触れる点は大きいですが、残念ながら今の環境でこれはというエンチャント対策カード自体に乏しく、特にメリットは感じられませんでした(最新イコリアで入ったアンギラスが多分一番の候補)。

なお、同じグルールデッキの候補として、エッジウォールの亭主と出来事クリーチャーを採用した「グルール出来事」もあり、こちらでは1マナ域の弱さはかなり解消され、ひとつの有力候補でした。しかし、この形はとにかくコントロール系に非常に弱く、1/1が除去されて5/5の野獣が殴れないこともしばしば。アグロ同士の戦いでは強いのですが、今はそういう環境ではありませんでした。

 

赤単とグルールの次は、もうひとつの有力候補だったラクドス(黒赤)騎士を試しました。黒と赤の騎士が多めに入った構成で、こちらでは熱烈な勇者と漆黒軍の騎士、嵐拳の聖戦士がかなりの強さを示します。3マナでレギサウルスが使えるのも大きく、宝剣との一撃必殺が狙えるのも大きな魅力でした。

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しかし、こちらにも欠点はあり、まず上で挙げたクリーチャー以外が中途半端で弱い。とりわけ赤黒2色では、騎士デッキなのに肝心の有用な騎士が揃わないのです。そのため1マナ域のどぶ骨や2マナ域の義賊で埋める構成になりますが、どちらも相当弱かったです。

そしてもうひとつ、最大の欠点としてマナベースがあります。黒赤2色なのに全然色マナが安定しない! これはグルールにも言えてますが、こちらはさらに深刻で、赤ダブルシンボルの宝剣がどうしても出なかったり、騎士以外のカードも入ってるのに騎士土地(試合場)を中途半端な形で採用せざるをえなかったり、とにかくどうしようもなかったです。テーロス以後は赤黒占術土地(悪意の神殿)の採用で少しは改善されましたが、こちらはグルール以上にタップインを許容しづらいデッキで、タップインを増やすことはそれだけでデッキの動きに響いてしまいました。

 

というわけで、赤黒2色の騎士デッキが無理だったということで、次に試したのは、そこに白を加えたマルドゥ(黒赤白)の騎士デッキでした。こちらは、まず何よりも、白が加わったことでより有用な騎士が揃ったことが魅力でした。

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まず1マナ域で尊い騎士。これは1マナ騎士では一番弱いですが、それでも勇者・漆黒軍と合わせて10枚とか12枚の態勢を取れることが魅力で、これで初動がとても安定します(1t尊い騎士→2t勇者&漆黒軍という動きが最強)。そして2マナ域の立派な騎士。これはおそらく現行騎士の中では最強で、出た瞬間は2/2バニラで弱く感じるものの、生き残るとトークンを増産するバリューがとても高い。トークンが増えると何より宝剣が出しやすくなるメリットがあり、横並びで勝つことも多く、全体除去に弱い以外は滅法な強さがありました。同じく2マナ域の鼓舞する古参(騎士ロード)も、全体除去には弱いものの2マナ域の底上げとしては十分でしょう。

そしてもうひとつ、マナベースの問題が大幅に改善されたことが最大のメリットでした。レギサウルス以外ほぼすべてが騎士で構成されたことで、騎士土地(試合場)を4枚投入することが可能になり、逆にマナベースが改善されたのです。マナベースが安定したことで、3マナ域で黒ダブルシンボルの誓いを立てた騎士を採用することも可能となりました。これは赤と緑には非常に強く、とりわけ轟音のクラリオンや嵐の怒りといった赤系全体除去に耐性があることが大きく、白の3マナ騎士である評判高い挑戦者より優先して入ります。

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そうして作り上げたデッキの完成形がこちら。この形だと、マナベースが黒が純粋黒土地12枚+騎士土地4枚、赤が純粋赤土地12枚+騎士土地4枚、白が純粋白土地8枚+騎士土地4枚となり、16枚・16枚・12枚で理論上必要な数は確保されています。しかもすべてアンタップインでそちらも完璧。なんと今の環境では、2色のラクドス(黒赤)より3色のマルドゥ(黒赤白)の方がマナベースが安定するのです。もうわけが分かりません。

(※注 なおこれでもややきわどい枚数なので、イコリア参入後は3色トライオームを数枚採用しています)。

なおこれはあくまで基本形であり、ここから対コントロールにドリルビット(手札破壊)が数枚、対アグロに砕骨の巨人が数枚、予想されるデッキに応じて適宜入ることになります。その場合抜ける候補は1マナ域で一番弱い尊い騎士、全体除去に弱く4枚の必要性は低いロード、巨人と入れ替わりで3マナの誓いを立てた騎士から数枚あたりになると思います。

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黒を使うことでサイドボードも非常に強くなりました。なんといっても手札破壊が使えるのは大きすぎます。ジェスカイ創案系やティムール再生、青白コントロールなどのコンボ・コントロールが中心となっている今の環境で、手札破壊がサイドイン出来るメリットはあまりに大きい。

黒ならではの確定除去が使えるのも大きいです。害悪の掌握。これでウーロ含め緑系のクリーチャー全般に対処出来るようになり、かつてはよく使われたPWニッサを倒せたのも大きかったです。シミックフラッシュやティムール再生の狼(夜群れの伏兵)に対処できる環境ほぼ唯一のカードでもありました(イコリア参入後は非情な行動でもいいです)。

 

こうして最終的に使うデッキはこちらになりましたが、これ以外にも緑単や緑白、緑黒、黒単、白単、青白飛行なども試しています。しかし、どれもはっきりとデッキパワーが弱く、使うには至りませんでした。

最大の分岐点は、エンバレスの宝剣の有無です。この環境では、トランプルを持つ宝剣がないと、やはりサクリファイスにほぼ絶対勝てないのです。そうでなくとも、強引なダメージの押し込みが狙える、今のアグロ最強カードである宝剣を採用しない手はなく、これがデッキ選択の決め手となりました。

 

そんなわけで、このデッキを数ヵ月間延々と回し続けた結果ですが、まあかなり満足行く結果を残した手応えもありましたが、しかしそれ以上にしんどい、アグロにとって厳しすぎるストレスがたまる環境でもありました。このデッキについては紛れもなく自信作で、ひとつの解答だと自信を持って言えますが、それでも禁止改定後のこれから先の環境で通用するかは、今のところ未知数です。このブロック最後でまた答え合わせの記事を書いてみようと思いますね。