まさに今季派遣(覇権)アニメ「世話やきキツネの仙狐さん」。

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 今季の春アニメもまたきららアニメがなく、若干以上に寂しい思いをしているわけですが(毎回同じこと言ってるな)、そんな中で数少ない希望にして今季最有力の原作付きアニメがあります。「世話やきキツネの仙狐さん」です。

 

 原作はKADOKAWAのコミックNewtypeで連載されているリムコロさんの連載。「作者本人が自分のために描いた」という話にもあるとおり、社畜な日々を送っている会社員・中野の下に、ある日神使(しんし)であるという800歳の幼女狐・仙狐さんがやってくるという、まるで疲れた大人のために描かれたような作品。やや特徴的な絵柄から繰り出される圧倒的なかわいさと、文字通り疲れた心も身体も癒すかのような仙狐さんとの日々の生活を描くコメディとなっています。

 

 かつて、きらら4コマを指して「30代の大人の読者が多い」「疲れて帰ってきて甘いものを食べるように摂取する」という話がありました。また最近では、そのきらら4コマ自身である「ぼっち・ざ・ろっく!」の作中においても、「社会に疲れた大人が見るらしい」という自虐とも取れるそのものずばりなセリフもあります。


 わたしは、こうした見方には以前から懐疑的で、必ずしもそういう消費のされ方をしているわけではないと思っているのですが、しかしこの「世話やきキツネの仙狐さん」を見て、「もしかしたら本当にそういう作品もあるかもしれない」と考え方を改めそうになりました(笑)。アニメにおいては、会社で社畜として働く主人公の姿や、彼が通勤する大都会東京の街並み(豊洲有楽町線あたり?)の描写が非常にリアルで、かつ主人公がかつて田舎でおばあちゃんにかわいがられていた頃の回想もふんだんに盛り込まれ、まさに社会に疲れた大人が見て泣ける話になっています。

 

 そしてもうひとつ、この仙狐さんが、「お狐さま」を主役にした作品ということも注目したい。狐が長生きして妖怪になった存在、あるいは稲荷神社の神の使い・いわゆる「神使」として狐が登場する作品は意外なほど多く、「我が家のお稲荷様」「いなり、こんこん、恋いろは。」「ぎんぎつね」「繰繰れ!コックリさん」「このはな綺譚」など、アニメ化された作品だけでもかなりの数に上ります。神様や妖怪が登場する伝奇作品の中でも、稲荷の使いである狐は、とりわけ身近で親しみやすい存在なのかもしれない。この「仙狐さん」もまさにその中のひとつですし、現代社会の大都会の真っ只中で疲れた社会人を救うというコンセプトは、ある意味ひとつの到達点なのかもしれないと思いました。

 

 これらの作品の中でも、とりわけ「このはな綺譚」との共通性を挙げる人が多いようですが、それ以上に共通点が多いのは、なんといっても「のじゃおじ」 こと「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」でしょう。どちらも狐の(見た目)幼女で「のじゃ」言葉でしゃべり、外観での共通点が非常に多い。実は、原作のマンガは、すでに1年も前にのじゃおじとコラボしており、すでにまったく抜かりは無い状態となっています(笑)。アニメ化に際してもう一度やってほしいくらいですね。

 

 制作が安心と信頼の動画工房であるという点もすでに評価が高い。このところ「うちのメイドがウザすぎる!」「私に天使が舞い降りた!」とそういうアニメでヒットを連発しており、今回の「仙狐さん」もまさに待っていたという感じでした。オタクをダメにするアニメを制作し続ける会社として、これからも期待していきたいと思います(笑)。

「平成生まれ」で平成は終わる。

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 新しい元号も発表されて平成ももうじき終わるらしいですが、そんな平成最後に是非とも紹介しておきたいマンガがあります。「平成生まれ」(ハトポポコ)です。きららの4コママンガの中では異色とも言えるこの作品。ひょっとするとタイトルどおり「平成生まれ」を象徴する作品だったのかもしれません。

 

 「平成生まれ」は、2010年よりきららキャラットで始まった連載。作者のハトポポコ先生は、同時期に竹書房や電撃の雑誌でも連載を行っていましたが、その中でも代表作と言えるでしょう。途中2013年、2015年に一時期連載を終了し、その後しばらくして「平成生まれ2」「平成生まれ3」として連載が再開されたという経緯があります。タイトルは変わっているものの、内容は新キャラクターが加わった程度で大きな違いはありません。2016年終了の「平成生まれ3」まででひとつの作品と見てよさそうです。

 

 肝心の内容は、この時期のきららでは異色とも言えるシュールギャグ。きらら創刊初期から中期にかけては、様々な方向性の作品が掲載されていましたが、この時期はもうきらら系ならではの「かわいい」4コマの作風が確立していて、そんな中でこの作品はかなりの異色と言えました。シュールギャグという点では、大沖先生の「はるみね~しょん」やカヅホの「キルミーベイベー」あたりと近い立ち位置かもしれませんが、それらとも異なる独特の面白さを持っていました。

 

 キャラクターたちはみな女子高生で、その多くが2人のコンビでボケとツッコミの掛け合いを行う。あの手この手で繰り出されるシュールな掛け合いが最高に面白い。極めて個性的な、模式的とも言える作画のキャラクターデザインも、そのシュールさを際立たせています。このシュールな独特の感性を持つキャラクターたちが、果たして「平成生まれ」ならではの特徴なのか、そんな時代性を反映しているのかはよく分かりませんが、ただ平成も20年を過ぎたこの時代、本当に平成生まれの子供たちが高校生になるような時代に、こうしたマンガが出てきたこと自体が面白いと思いました。奇しくも平成は30年で終わることとなり、平成末期となったこの時代に、こうしたタイトルを冠する連載が行われたことに意義があると思ったのです。

 

 それともうひとつ、この「平成生まれ」、少し前にアニメ化された「少女終末旅行」(つくみず)に大きな影響を与えていることも書いておきたい。作者のつくみず先生自身、ここから影響を受けたことを明言しているくらいで、作画やキャラクターの関係性に直接の共通感が見られます。「平成生まれ」のメインキャラクターである佐藤と四村の関係が、そのまま「少女終末旅行」のユーリとチトの原点となっているようで非常に面白い。こちらも今の時代ならではの新感覚の終末もの(?)として注目を集めましたが、そんな作品へ影響を与えたこともまた「平成生まれ」ならではの功績だと思うのです。

ヨシノサツキ新連載も面白い。

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 先日「ばらかもん」の連載が終了したヨシノサツキさんの新連載「ヨシノズイカラ」が、少年ガンガンで始まっています。「ばからもん」作者の次回作ということで、開始前から編集部はかなり推しているようですが、期待に違わず面白い興味深い作品になっているようです。

 

 連載第1話は、田舎の小さな学校に通う男子中学生4人と個性的な女性教諭が織り成すコメディとなっていて、これはこれで非常に尖った個性の片鱗を見せる面白い作品だと思っていました。しかし、実はそれはある男性マンガ家が描く新作マンガのストーリーで、実は作中作だったという驚きの展開を見せます。

 

 本当の主人公は、ド田舎と言ってもいい離島の僻地に住む男性マンガ家・遠野なるひこ(32歳)。すでに10年もの間マンガ家生活を続けてきましたが、何本かやってきた連載はすべて打ち切りとなり、担当編集者から新しいジャンルにチャレンジしてみないかと提案されます。それは、これまで描いてきたファンタジーとは真逆の現実日常系でした。なるひこは、本当に自分の描きたいものとの葛藤を抱えつつ、新しい日常系マンガの連載を始めるのだが・・・という筋立てとなっています。

 

 マンガ家を題材にしたマンガは枚挙に暇が無いですが、この「ヨシノズイカラ」ならではのポイントは、主人公が本当に僻地の田舎に住んでいるということでしょう。マンガを描く道具を手に入れることすら難しいような、そんな店すらないような場所。担当編集者とは日々電話でやり取りしつつ、ずっと長い間マンガの連載を続けてきました。

 

 マンガ家を描くマンガの設定としては、やはり中央の都市やそこから比較的近い近郊に住んで活動する設定が多いような気がします。これは、作家にとってなくてはならない担当編集者とのつながりを描いたり、あるいはアシスタントや同業のマンガ家との交流を描いたりするのに都合が良かったり、あるいは現実においてそうした生活を送っている作家が多いという理由もあると思います。そんな中で、あえてこのマンガはそうした交流が薄い離島の田舎を舞台にして、そんな場所ならではのマンガ家生活を描く。このあたり、「ばらかもん」の設定と多分に共通するところもあり、まさにこのヨシノサツキらしいマンガになっていると思います。

 

 ちなみに、こんな田舎でも彼のマンガを慕ってアシスタントになった青年(とし坊)がおり、お世辞にも明るい性格とは言えないオタク気質のマンガ家と、気さくで明るい性格の好青年といえるアシスタントという、まさに対照的な陰キャ陽キャのコンビがマンガをつながりとして意外に馬が合うという、非常に面白い関係が見られます。

 

 もうひとつ、興味深いシーンとして、かつて主人公がマンガ家になるまでの道筋、子供時代からの成長の過程を追っていくエピソードがあります。元々小学生の時からマンガが好きで、自作のマンガを教室で友達に見せて喜ばれていた日々。その頃は周囲の同級生みんなマンガを読んでいましたが、いつか彼らのほとんどが「卒業」していく中、自分だけは相変わらずマンガを読み、そういう趣味に没頭し続けていた。そう、気が付けば自然と「オタク」になっていたのです。

 

 彼が住む田舎でも、同じ学校に同好のオタクたちは存在し、自然と集まってサークルを作って放課後に活動を行うようになった。テレビでアニメはろくに放送されず、雑誌やコミックスの発売は何日も遅れる。そんな場所でも、彼らは彼らなりに趣味を楽しんで過ごしていた。そんな学生時代の幸せな日々が丹念に描かれており、これは作者の実体験もあるのかなと思いました。「オタクは女の子と付きあいたいんじゃなくて女の子になりたいんだよな」というオタク仲間のセリフにも共感するところがあり、実際の今のオタクの姿をよく捉えていると思います。

 

 そんな楽しいマンガを趣味にした生活の延長として、半ば必然的にマンガ家となり、しかしうだつがあがらないまま10年が過ぎていたなるひこ。そんな彼がこれから先どんなマンガを描いていくのか。そんな現代ならではのマンガ家の姿を描く、新感覚のマンガ家マンガとして、これからの展開も非常に楽しみなところです。

「おちこぼれフルーツタルト」もアニメ化達成!

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 先日から告知・発表されていたきららキャラットの3号連続重大発表。「まちカドまぞく」「恋する小惑星」のアニメ化に続いて、もうひとつかねてよりの有力候補だった「おちこぼれフルーツタルト」(浜弓場双)のアニメ化まで発表されました。連載が始まったのは2015年。当初から随分と推されていて、連載間もないのに単独のテレビCMまで放送されるほどでしたが、連載が少し長く続いてきた昨今は、やや話題が落ち着いていた感がありました。ゆえに、もしかするとこのままアニメ化の機会を逃がすのでは・・・?と少し不安にもなっていたのですが、幸いにもこのタイミングでアニメ化達成。個人的にはほっと胸をなでおろしたところです。

 

 「おちこぼれフルーツタルト」は、「ハナヤマタ」でよく知られている浜弓場双さんの新作で、こちらは4コマでアイドルものになっています。連載開始当時は、まだ「ハナヤマタ」も連載中で、同時並行で掲載が長く続きました。「ハナヤマタ」の人気も続いていましたが、こちらはそれとはちょっと雰囲気の異なる新作ということで注目を集め、まもなくしてキャラットでも看板クラスの人気連載となりました。

 最大の特徴は、アイドルものながらどこまでも明るく楽しいギャグコメディになっていること。「ハナヤマタ」が、時にシリアスでキャラクター同士の葛藤も見られるエピソードが登場するのに対して、こちらはそのような暗いエピソードはほとんどなく、おバカで明るいギャグ全開の話になってます。

 

 主人公でアイドル志望の少女・衣乃(イノ)がやってきたのは、ラットプロダクションという芸能事務所が運営する通称「ネズミ荘」という寮。しかし、そこは売れないアイドルやモデル、元子役たちが集まる吹き溜まりのような場所でした。しかも、その寮が取り壊されることになり、それを防ぐために新しいアイドル企画「おちこぼれフルーツタルト」を始動、メンバーに任命された衣乃たち5人の「おちこぼれ」アイドルたちが奮闘することになります。

 

 アイドルといっても場末の街で知名度もまったくない三流の地方アイドル。そんな彼女達の活動は、地元のスーパーの特売のチラシ配りから始まる有様で、そんな地元密着感出ているしょぼい活動内容に、いちいち文句を言いつつも取り組むおちこぼれアイドルたちが最高に面白い。同じような地方アイドルを描く作品は他にも散見されますが、これは下積み時代の苦労とかそういった暗くしんどい話はあまりなく、完全にギャグに振り切れた楽しいコメディとなっています。ちょっとエッチなネタも入ったドタバタ感溢れる底抜けに明るいコメディ。こうしたアイドルものも新鮮で面白いと思いました。

 

 舞台となっている街が小金井というのもちょっとしたポイント。場末感ある地方都市の売れないアイドルという、いけてない感が大変よく出ていて素晴らしい設定だと思いました(笑)。アニメ作品としては、かつて放送された「人生」に次ぐまさかの小金井聖地アニメとしても期待したいと思います。

「どうびじゅ」最終回に際して。

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 先日発売のきららMAXで「どうびじゅ」こと「どうして私が美術科に!?」(相崎うたう)の連載が終了してしまいました。随分前から終了の噂は広まっていて、先月は作者自身のツイートで最終回は告知されていましたが、こうして現実に終了を目の当たりにすると、やはりやるせないものがあります。ここまで読者の間で高い人気と評価を得ているきらら最大の期待作が、まさか打ち切りで終了してしまうとは。 

 「どうして私が美術科に!?」は、タイトルどおり高校の美術科を舞台にした4コマ作品。美術学校や美術部を舞台にした4コマ作品は、他にもいくつも名作がありますが、これもまた秀逸な作品でした。特筆すべきは、主人公である桃音が、もともと美術科を目指した生徒ではなく、普通科を受験したはずが間違って美術科に入ってしまい、半ば望まぬ形での不安な学校生活を送っていることでしょう。とりわけ同じく本意に反して美術科へと入ったらしい黄奈子との間では、その共通感から独特の関係を結んでいく。こうしたネガティブな負い目、引け目とも言える要素を帯びたキャラクター同士の関係性は、多くの読者の心をつかみました。 

 そうしたネガティブな要素を抱えたキャラクター描写という点では、同じくMAXの連載である「ステラのまほう」とも共通感があり、あるいは「スロウスタート」や「こみっくがーるず」、「ぼっち・ざ・ろっく!」などのキャラクターとも一部通じるものがあります。最近のひとつの流れとも言えるかもしれませんが、その中でもこの「どうして私が美術科に!?」は、明るさと活発さをも感じる期待の新作で、かつ作者の相崎さんが連載中に現役高校生だったことがコミックス帯で宣伝されるなど、この出版社にしては珍しい強い推しまで感じられました。 

 さて前置きはここまで。それほどの確固とした人気と推薦を得た期待作であった「どうびじゅ」ですが、ここでまさかの連載終了となったわけです。これは、ほとんどの読者にとって信じられないような話で、一気に動揺が広がりました。理由として考えられるのは、やはりコミックスの売り上げが伸びなかったことが真っ先に推測されました。他の雑誌や出版社でも同様のケースがいくつも見られるからです。 

 先日は、同じ芳文社のきらら系雑誌・フォワードの「なでしこドレミソラ」が、やはりコミックス5巻の時点で終了となっています。こちらも読者の評判は非常に良く、雑誌アンケートでも上位をずっとキープしていたにもかかわらずこの結果となりました。やはり困惑の反応が多数見られたことは記憶に新しいところです。 

 また、数年前にKADOKAWAメディアファクトリーより創刊された4コマ誌「コミックキューン」。こちらは創刊初期から人気連載を多数抱えていたのですが、その多くが意外に早く終了を迎えており、それにはやはりコミックスの売り上げが背景にあるようです。今では創刊時の連載で残っているのは、アニメ化を達成した作品くらいで、雑誌の雰囲気や連載の方向性も大きく変わってしまい、初期の頃からの読者の戸惑いの反応が多数見られました。 

 確かにコミックスの売り上げ・部数というのは、マンガ出版社にとって大きすぎる指標であり、その数字は非常に大きく覆しがたいものがあるのかもしれません。しかし、それが雑誌読者の人気や評価とあまりにも乖離した場合、なんらかの軋轢を生む可能性があると思うのです。少なくとも、読者が望むような決定ではなく、しかもそれが多くの出版社や雑誌に見られるという現状には、なんらかの改善が必要ではないかと思っています。

ネガティブキャラクターこそが今共感を呼ぶ物語。

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 現在公開中の映画「アリータ」の脚本・制作のジェームス・キャメロンが、映画に対するインタビューで「世界中どの国でも通用するエンターテインメント」「誰にとっても『自分の物語』だと感じるストーリーが魅力」などと語っていました。これは、総じて世界的に見ればそのとおりかもしれませんが、しかし今の日本において、とりわけ最新のアニメやマンガに触れているユーザーに対してはどうか?とも思いました。


 わたしとしては、今の深夜アニメを見ている一部の人にとって、最も自分の物語だと感じるのは、こうしたダイナミックな活躍を見せるSFやファンタジーの主人公ではなく、かおす先生(こみっくがーるず)やみゃー姉(私に天使が舞い降りた!)のようなコミュ障ぼっちオタクではないのか?と思うわけです。ひとつ前の日記で取り上げた「ぼっち・ざ・ろっく」の主人公ぼっちちゃんも、まさにこれに該当します。

 

 以前からこうしたオタクやネガティブなキャラクターをクローズアップした作品は存在しましたが、ここ最近はこうした日常系や萌え4コマと呼ばれる作品においても、ひとつのトレンドとなりつつあるような気がします。「こみっくがーるず」の主人公のかおす先生(萌田薫子)がその代表とも言え、極端に卑屈でネガティブな一方でオタク趣味に没頭している姿は、特徴的な声も付加されたアニメを通じて、多くの視聴者に強烈な印象を残しました。「私に天使が舞い降りた!」の主人公のみゃー姉こと星野みやこも、普段は引きこもりのコミュ障でしかし日々オタク趣味を楽しんでいる女子大生という設定。あるいは、「となりの吸血鬼さん」の吸血鬼さんことソフィーも、性格自体はそれほどネガティブでもなく常識的なようですが、しかし一方で日々積極的にマンガやアニメなどオタク趣味を楽しんでいたり、あまり人付き合いを好まないなど、こうした方向性のキャラクター描写が窺えます。こうした設定のキャラクターが、ごく自然に登場する作品が、以前よりも目立つようになりました。

 

 アニメ化されていない作品からは、前述の「ぼっち・ざ・ろっく」がその典型的なタイトルですが、もうひとつきららから「のけもの少女同盟」あたりも挙げておきたい。何らかの事情でクラスで「のけもの」にされた少女たちが、保健室に集まって社会復帰のための活動を行うという、まさにこうした作品の方向性がストレートに表れた内容ではないかとだと思います。

 

 これまでは、最近こうしたキャラクターがいくつも見られるようになったのは、単なる偶然だと思っていました。しかし、改めて考えると、これは決して偶然ではなく、近年のひとつの流れになっているのではないか?と思えるようになりました。かつては(今でも)社会問題として取り上げられ、否定的な扱いをされることも多かったぼっちやコミュ障、引きこもりやオタクといった属性が、今ではそうした性格を持つ人たちを惹き付け、共感を呼んでいるのではないか。自分たちのあり方と共通する物語として見る時代になったわけです。

 

 ジェームス・キャメロンは、かつて25年前に知人(友人で映画監督のギレルモ・デル・トロ)から紹介された『銃夢』の世界観にはまり、映画化権を取得するものの実際の制作は遅れに遅れ、ついにこの2019年に公開する運びとなっています。あの『銃夢』がもう25年前のマンガだということに感慨を覚えてしまいますが(連載期間は1990年~95年)、この25年の間に日本のマンガやアニメはあらぬ方向へと進化していた(笑)。今の日本では、こうしたネガティブなキャラクターもまた、読者や視聴者の共感を呼ぶ最先端の物語となっていると思うのです。

陰キャならロックをやれ!!!!「ぼっち・ざ・ろっく!」

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 先月のきらら新刊より、ちょっと前より話題になっていた「ぼっち・ざ・ろっく!」(はまじあき)の1巻が発売されました。発売前の公式からの告知で、「陰キャならロックをやれ!!!!」という意外性あるキャッチコピーで注目を浴びたこの作品、内容的にもまさにそのとおりのマンガになっていて非常におすすめです。

 

 「陰キャ」とは、要するに性格の暗いいけてない人を指す言葉で、非リア充やオタク、ぼっちなどと言った言葉とも近い類の呼び名。タイトルにもなっているように、主人公の後藤ひとりは「ぼっち」でもあり、ネガティブなオタク的性格を満載したようなキャラクターになっています。そんな「ぼっち」ちゃんがロックをやるというタイトルからして、ダメな陰キャでぼっちでオタクなキャラクターが、無理にロックに挑戦しようとしてひどい目に遭う話なのかと思ってしまいますが、ほぼまったくそのとおりの話なので安心してください。

 

 主人公のぼっちちゃんは、かつて中学時代からネガティブな暗い性格でした。しかし、ある日お父さんがやっていたギターに興味を持ち、これで自分を変えようと毎日6時間も練習し続け、ネットの配信では一定以上の評価をもらえるまでになりました。しかし、そこまでやってもリアルでは人見知りがあだとなって、音楽活動はおろか結局友達はひとりも出来ずに中学を卒業。心機一転して音楽仲間を見つけようとした高校でも、やはり浮いた存在になってしまって友達はひとりもできずにはや1カ月。しかし、ついにそこでバンドでドラムをやっているという虹夏という女の子に声をかけられ、ついにバンド活動を始めることになるのです。

 

 当初は臨時のサポートとして入ったぼっちちゃんでしたが、やがて正式なバンドメンバーとして迎えられ、「結束バンド」と名づけられたそのバンドで、日々活動することになります。しかし、陰キャでコミュ障が過ぎるぼっちにはすべてが苦痛。資金稼ぎのために虹夏の姉が運営するライブハウスのバイトをやることになっても、ろくにドリンクを注ぐことも出来ない。普通の(?)音楽作品で、今までダメでぱっとしなかった主人公やキャラクターが、音楽に挑戦することで自分を変える、成長するという話なら、割とよくある定番のストーリーかもしれませんが、しかしこのマンガはまさにその逆。コミュ障がすぎるぼっちちゃんが、人前での活動でしんどい目に遭い続ける様が、毎回のようにひたすら描かれています。

 

 しかし、そんなぼっちちゃんでも、必死に活動を続けるうちに、ついには成長することもありました。個性的なバンドメンバーたちと共に、自分も所属する結束バンドを最高のものにする。そんな新たに出来た目標に向けて懸命に頑張る。1巻最後に見せた必死の演奏シーンには大いに惹かれるものがありました。

 

 作者のはまじあきさんは、ひとつ前に「きらりブックス迷走中!」という書店を舞台にしたマンガの連載を行っていたのですが、「前作が終わったあと突然バンドにはまった」らしく、それがこの連載のきっかけのようです。しかし、それでいきなりここまで尖った作品を出してくるとは思わなかった。このマンガの主人公のぼっちちゃんのネガティブぶりは、あのかおす先生(こみっくがーるず)に匹敵するものがありますね。最近ではこういうオタクやコミュ障や引きこもりのようなネガティブなキャラクターをよく見かけますが、またひとり最強のぼっちキャラクターが爆誕してしまった。それも音楽活動、バンド活動という、本来ならそれとは正反対のリア充的な活動を描く作品において、そういうキャラクターをぶち込んできたのが非常に衝撃的ですね(笑)。あの「けいおん!」の連載スタートからすでに10年。きらら音楽4コマはついにここまで進化した!