20年目のソウルハッカーズ。

kenkyukan2017-12-21

 今年で発売から20年を迎えたゲームとして、アトラスの「デビルサマナー ソウルハッカーズ」があります。1997年11月13日にセガサターンで発売されました。1995年に出た「真・女神転生デビルサマナー」の続編に当たるソフトですが、ゲーム的にまだこなれてなかった前作に比べて大幅に遊びやすくなり、また単体でもストーリーが楽しめるなど十分な面白さを持っていたこともあって、いまだに名作として知られたゲームとなっています。
 いわゆる「メガテン」シリーズの中でも難易度が低めでシステム的にも遊びやすいなど、初心者向けにも最適とよく評され、ゲーム的にも非常におすすめなゲームなのですが、同時に作中で描かれる世界観・設定が、今見ても非常に斬新で興味深いのも魅力で、20年経ってもその先進性に驚かされます。

 まず、発売当時に誰もが注目したのが、「パラダイムX」と呼ばれるいわゆる仮想空間都市でしょうか。ゲームの舞台となる地方自治体・天海市が住民に対して無償配布したPCによるサービスという設定で、ネット上に作られた仮想都市で住人同士が交流出来るだけでなく、買い物や銀行、娯楽施設、そして各種行政サービスまで一手に受けられるという、当時としてはひどく斬新な設定でした。のちのネットゲーム、あるいはほんの一時期流行った「セカンドライフ」を彷彿とさせるサービスで、これが97年というインターネットの黎明期だった時代に出たことは感心するばかりでした。

 ネットを通じたサービスだけでなく、リアル空間での都市の姿も、当時の現実のはるか先を行っていました。政府の「次期情報都市政策」において情報環境モデル都市に指定されたという設定で、近未来的なハイテク都市となっていて、先ほど述べた全市民へのPCの無償配布に加えて、市内各所に端末(ターミナル)の設置、高速ネットワーク回線の整備や電子マネーの導入まで行われています。これが、まだブロードバンドのかけらもない時代で、電子マネーもネット通販などごく一部でかろうじて使われ始めた頃のゲームというのが驚きです。

 そのサービスを含めて市民の生活を一手に管理するのがID(市民ID)という設定で、物語の途中で主人公たちのIDが敵の手で剥奪され、買い物も何も出来なくなって窮地に陥るシーンがあります。折りしも海外ではキャッシュレスの社会が本格的に到来し始め、スウェーデンではマイクロチップ認証による決済も始まっている昨今。ようやく現実がこのゲームに追いついてきたのかなとちょっとわくわくしてしまいました。
 キャッシュレスと同時にビットコインのような仮想通貨も本格的に流通を始めてますが、ソウルハッカーズにも作中で存在する架空物質・マグネタイトを仮想通貨として運用しようとする怪しげな組織が登場します。物語中盤で相場が高騰するものの、終盤になって信用を失って暴落するあたりが、いかにもそれらしくて笑ってしまいました。

 こうした先進的なシステムやガジェットに加えて、ネットならではの人々の行動や交流の姿、そこから導き出される精神性もよく描かれていました。ネットでの会話を通じて悪魔をトレードするやり取りなどは、今のネットでの交流とまったく変わらない。いや、これこそが今でも心に響く最も大きな成果かもしれません。主人公たちの仇敵となるパラダイムXの開発者・門倉の最後の言葉は、20年前のセリフとは思えないくらいの現代性に満ちていると思いますし、最後にこれを置いて幕としたいと思います。

 「ネットは・・・人と人のコミュニケーションを拡充する、新しい意思伝達方法ともなりえた
 しかし、現実はどうだ・・・
 デジタルは人間性の粗悪な記号化を産み虚言と虚構のみが人々の心を満たし
 事実の存在意義すら否定する精神文化の衰退を引き起こした。」