「百合姫S」とはどんな雑誌だったのか。

kenkyukan2017-09-28

 ひとつ前の日記で書いた「此花亭奇譚」が連載されていた「百合姫S(コミック百合姫S)」。短期間で休刊となったこの雑誌のことを知っている人は多くないと思います。わたしは、休刊まで3年ほどの間、そのほとんどを追い掛けていたので少しそれを振り返って語ってみたいと思います。
 「百合姫S」は、一迅社より2007年に創刊された雑誌で、先行する「百合姫」の姉妹誌となっていました。「百合姫」は、百合作品を集めたコンセプトの雑誌として、当時からすでにかなり知られていました。では遅れて創刊されたこの「百合姫S」は、この本誌とも言える「百合姫」とはどんな違いを打ち出したのか?
 具体的には、「男性向けの百合作品」を集めるというコンセプトで作られていました。男性向けとはどんなものか? 端的に言えば萌え系の絵柄・作風の百合作品と言っていいかと思います。「男性向けの少女マンガ」とニュアンスとしては近いかもしれません。あの「ゆるゆり」も元々はここの連載として始まり、「此花亭奇譚」(のちの「このはな綺譚」)も当初からの看板人気作品でした。こうした作品のイメージでこの雑誌を理解してもらえればいいと思います。

 これ以外に印象的だった作品としては、まず「むげんのみなもに」(高崎ゆうき)を挙げてみたい。現在ではコミックキューンでほのぼの(?)した悪魔×メイドコメディを描いていますが、こちらはまったく印象の異なる厳しい関係性に裏打ちされたシリアス百合作品。しんどいけど面白いなと思って読んでいた記憶があります。しっとりした作画もいびつな雰囲気をよく表現していたと思います。
 「マイナスりてらしー」(宮下未紀)も個人的に好きな作品でした。彼女の描く話は暗いものも多いのですが、これは基本明るいお嬢様×従者コメディだったような気がします。コミックス1巻で終わっていますが、もうちょっとこの路線で長い話を読んでみたかったです。

 これ以外にも、今でも百合作品で知られた南方純さんや吉冨昭仁さん、玄鉄絢さん、藤枝雅源久也両氏もここで執筆しており、連載陣の充実度は決して悪くなかったと思います。芳文社4コマの方で知られた石見翔子さんや、スクエニでの活動が多い椿あすさんの姿も見られました。

 しかし、どうも売り上げは芳しくなかったのか、3年という比較的短い期間で、2010年に本誌百合姫に統合されるような形で休刊。「ゆるゆり」などごく一部の作品は百合姫に移籍することになりましたが、大半はそのまま再開されずに終わってしまいました。「此花亭奇譚」もその中のひとつで、はるかのちに他社のコミックバーズで連載再開されることになったのは、本当に幸運だったと思います。雑誌が成功しなかった理由はよく分かりませんが、あの頃はまだ男性向けというか萌え系の百合作品に注目する読者が、従来の少女マンガ的百合作品と比較して、それほど多くなかったのかもしれません。

 しかし、ここ最近は、従来は百合作品が載らなかった雑誌においても、こうした作品が載ることが増えています。電撃大王の「やがて君になる」「新米姉妹のふたりごはん」、スクエニでもJOKERで「ハッピーシュガーライフ」、バーズのウェブ版のデンシバーズでも「ふたりべや」と、いずれの作品も好評を得て連載中です。今ならば、百合姫Sのようなコンセプトの雑誌でも前よりやって行けるかもしれない。その点では早すぎた創刊だったかもしれないと思っています。