「恋する小惑星」

kenkyukan2018-08-02

 少し前の話になりましたが、3月にコミックス1巻が発売された「恋する小惑星」(Quro)を取り上げてみたいと思います。きららキャラットの連載で、全編に渡って地学(地球科学)を取り上げているところに注目していました。
 地学とはどんな学問か? これは、地質学や鉱物学、地球物理学など地球を扱う科学の総称であり、さらに大気圏の現象を扱う気象学、宇宙を扱う天文学まで包括的に含む概念でもあります。自分が高校で選択した地学も、前半は地球物理の勉強が中心でしたが、後半になると気象、そして最後は天文・宇宙へと範囲が広がっていきました。

 作品の舞台はとある高校の地学部。主人公のみら(木ノ幡みら)は、高校で天文部に入部しようとしましたが、しかし天文部はすでになく、地質研究会と合併して「地学部」になっていたと知り大ショック。やむを得ず地学部の見学へと向かってみたみらでしたが、そこで出会ったのは、かつて幼い頃に「ふたりで新しい小惑星を見つける」と約束をした幼なじみ・あお(真中あお)の姿。思わぬ再会に驚きながらも、かつての夢に向けての活動を再開すべく、地学部での活動をスタートすることになります。

 実際に始まった活動は、かつて所属していた部活ごとに「地質班」と「天文班」に分かれてのスタートになりましたが、今までほとんどかぶらなかった両者の活動が、ひとつの部活として合同で作業することでひとつとなり、互いに新たな経験・知見を得るという展開が、この作品ならではの魅力になっています。
 すなわち、ある日には河原で石を拾って地質学の研究に没頭し、またある日には夜に望遠鏡を持ち出して天体観測を始める。あるいは、すぐ星座を見つけられる天文班の生徒に対して、なぜ分かるのかと問うとそれは「慣れ」と答えるのに対して、すぐ石の種類が分かる地質班に対して、なぜ分かるのかと問うと、やはり慣れと答える(笑)。未経験者に対して自分の知っていることを教えるという展開を通じて、包括的な学問である地学の魅力を打ち出しているところが面白いですね。

 ひとつの現象に対して、天文学と地質学の観点から分かる範囲の解説をするというくだりも面白い。同じ月を見ても、地質学の観点からは別の知見を得ることで役に立てる。ほんの小さなネタですが、地学という包括的な学問の一端をよく表していると思いました。

 「新しい小惑星を見つける」という遠大な目標に向けて、ひとつひとつ着実に前進していこうというストーリーにも惹かれます。1巻のクライマックスは、地学部の合宿で筑波の地質標本館・地図と測量の科学館・JAXA筑波宇宙センターを訪れるエピソードでしょうか。展示物に夢中になって楽しみつつも、自分の目標に向けて積極的にアプローチをかけていき、最後には思わぬ形で手かがりを掴む。最後にどういった形で夢に追いつくのか、今後の展開も楽しみです。