「少女辞典」

kenkyukan2018-11-27

 少し前の新刊になってしまいますが、先月コミックス1巻が発売されたガンガンONLINEの連載「少女辞典」(安井万里絵)を紹介したいと思います。コミックスの表紙からもレトロな雰囲気がありますが、そのイメージどおりのちょっとレトロで伝奇でホラーなコメディなファンタジーな作品になっています。
 主人公である家出少女・八千代が、一時滞在しようとした古びた寮で、ギコと名乗る「隙間男」なる幽霊と出会ったのが物語の発端。ギコは、自分が出会う少女の生態を観察・研究して解明し、「少女辞典」という書物に書き記すという目的を明かし、彼女につきまとうことになります。
 こう書くといかにも危ないストーリーのようにも見えますが、実際には出会う少女たちの心の悩みを突き止め、それをふたりで解決するというストーリーになっており、毎回ちょっと泣かせるいい話になっています。

 両親の諍いに耐えられなくなり家出をせざるを得なくなった八千代。小説家の祖父に自分の作品を認められないままで死なれてしまった四織。霊感を持つ友人に先に死なれ霊が視えるようになってしまった六花。宇宙に憧れる幼なじみの男の子に先立たれ、自分も空へ向かって飛ぶようになった小鳥。こうして見ると、誰かに先に死なれてその心残りに苦しむ少女が多いですね。そんな彼女たちを、幽霊であるギコとそのパートナーの八千代が、死者の側の視点から救っていく物語になっているのかもしれません。

 加えて、現代でありながら独特のレトロな雰囲気に満ちた世界観も特徴的です。スマートフォンが登場するあたり舞台はおそらく現代のはずですが、全体的な雰囲気はかなり古風なものも感じさせ、レトロでオカルトな伝奇もの作品のような魅力を持っています。空に憧れる少女が、階段に見立てたコマの枠を上っていくようなマンガ的な面白さに満ちた表現も見逃せません。個人的には、最上階の見開きの窓から夜空を観測するシーンが、吸い込まれるような迫力と美しさに満ちていて、最も好きな1コマになっています。

 かつてのギコのパートナーで、今は先立っていった不思議な少女・ヒトミの謎を追うストーリーの続きも気になるところ。スクエニらしい男女コメディでもあり、好調が続くガンガンONLINEのさらなる新作としても期待しています。