ドレッドノット

kenkyukan2017-11-08


 講談社の「good!アフタヌーン」の連載「ドレッドノット」(緋鍵龍彦)を紹介したいと思います。ウェブで無料公開されていた1話を読んで一気に引き込まれたのですが、先日待っていたコミックス1巻がついに発売されました。
 物語の冒頭は、就職活動に励む女子大生が、ひとりの男に声をかけられるところから始まります。「いいバイトがある」と誘われてタクシーに乗せられたあと、眠ってしまった彼女が目を覚ましてみると、そこは無数の恐ろしい絵が飾られた異様な部屋。部屋から出ても暗い通路に出るばかりで、そこでは恐ろしい化け物や壁に押しつぶされた肉の塊などさらなる恐怖が待ち構えていました。
 このまま閉鎖空間を舞台にしたホラーかサバイバルものが始まるかと思いきや、ようやく辿り着いた扉を開けてみると、そこはただの事務室。中では数人の男女が話し込んでいるばかり。そう、あれはすべてただの仕掛けだったのです。

 そんな形で始まる本作は、実は”屋内型特殊遊興企画業” すなわち「お化け屋敷」の制作者たちの仕事を描く物語でした。企画を練りこむプランナーの若者を中心に、大道具を組み立てる空間設計の担当者、電機関係を取り仕切るエンジニア、そして屋敷を彩る恐怖のビジュアルを一手に手掛けるアートデザイナー。彼らが役割を分担してひとつのセットを完成させる楽しさがよく出ていて、近年のお化け屋敷の盛り上がりも手伝って非常に興味深いテーマになっていると思います。

 わたし自身も、かつて高校時代の文化祭で、妙に張り切ってかなり本格的なお化け屋敷の制作に取り組んだことがあり、この題材にはひどく親しみを持てました。そのクラスは、普段はいい加減でふざけたクラスでしたが(笑)、その時は夏休みの間から数人の生徒たちと毎日制作を進め、最後の追い込みではほぼ全員で一気に教室のセットを完成させるという張り切りようでした。このマンガでも、そうした学祭でのお化け屋敷の制作の楽しさが語られる一幕があり、自分も大いに昔を懐かしみつつ共感してしまいました。

 また、「お化け屋敷といっても出来る前はただの場所。しかし始まれば最高に非現実な異空間に早変わりする」というセリフにも大いに共感できました。わたしのクラスで作ったお化け屋敷も、実際に仕上がってみるとほんとにそんな感じで、仕切りで区切られて迷路となった教室の中で、「おいおいここほんとに教室かー?」と叫んだクラスメイトの言葉が今でも印象に残っています。

 あと作者の緋鍵龍彦さんは、かつてはメディアファクトリーでよく活動していて、コミックアライブの連載「断裁分離のクライムエッジ」は、大きな人気を得てアニメ化されました。その後、コミックキューンで「放課後の先生」という、高校生の女の子と彼女たちに勉強を教える大学生の交流を描く4コママンガの連載も行っていました。この連載、個人的にはかなり気に入っていたのですが、残念ながら比較的短い期間で終了してしまいました。この「ドレッドノット」は、その「放課後の先生」の終了後すぐに始まっていて、今度は講談社の方での活動ということで少し意外に感じましたが、しかし予想以上に面白かった。今までになかった現実的なお仕事ものとしても期待したいと思います。