「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」

kenkyukan2018-08-29

 少年エース最新10月号において、伊瀬勝良・原作、横田卓馬・作画で「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」という読み切りが掲載されています。タイトルからピンと来る人もいるかもしれませんが、あのMTG(マジックザギャザリング)をテーマにした読み切りで、先月の告知の時からゲームプレイヤーの間で話題に登っていました。横田卓馬先生は、少し前まで少年ジャンプで「背すじをピン!と」を連載しており、そちらで知っている人も多いかと思いますが、その連載中にMTGのネタを入れたり思い入れに満ちたイラストを公開したこともありました。今回の読み切り執筆も納得といったところで、個人的にも大いに期待していたのです。

 そして、実際に読んでみると、これが期待以上に面白い! 90年代後半のMTGが最も人気のあった時代を舞台に、日々このゲームに熱中する中学生たちの姿を描いたまさに《青春グラフィティ》。90年代のゲームが題材ということで、偶然にも現在アニメ放送中の「ハイスコアガール」と重なる部分も感じられ、実際にかつてこの時代にゲームにはまっていた人なら、より楽しめる内容になっていると思います。

 なんといっても作中のゲームの描写が実に濃い。98年頃(具体的には98年5月)の「テンペスト」時代のMTGの環境をほぼ完璧に再現している。主人公の使うのが「黒」のビートダウンデッキ、対するヒロインが使うのが「白」のやはりビート系デッキですが、どちらも当時の環境では定番中の定番。使われているカードもまさにそれだと納得できるものばかり。そして特定の色に致命的な効果をもたらすかつての色対策カードの存在。MTGにおいて誰もがまず注目するのはやはり「色」の選択であり、自分の好きな色のカードやデッキを使うのは何よりの醍醐味。それをこうしたダイナミックな形で描いてくれたのは、やはり王道にして大正解だと思います。

 個人的にもこの当時はMTGに最初にはまっていた時期でもあり、自分の経験と照らし合わせても、このゲーム回りの描写はほぼ万全と言ってよい出来でした。主人公たちが赴く喫茶店で、大人たちが真剣にはまっている姿を描いてくれたのもうれしいですね。黎明期のあの頃から、子供から大人のユーザーまで幅広く惹きつける魅力がこのゲームにはありました。

 主人公やヒロインを中心とするキャラクターたちの魅力も十分で、このまま連載化しても面白いと思います。すでにかなりの反響もあるようで、これは90年代がMTGが最も流行っていた時代でいまだ当時のユーザーが多く、あるいは「ハイスコアガール」同様に、「あの頃に一番ゲームにはまっていたけど今はゲームから離れている」読者層で、こうした作品に惹きつけられる人は、想像以上に多いのかもしれません。こうしたコンセプトの作品が、今後のトレンドのひとつになるのかもしれませんね。