「熱帯魚は雪に焦がれる」

kenkyukan2018-01-03

 このところ電撃系からこれはという作品が多いのですが、今度は電撃マオウの連載から注目の新作をひとつ。昨年6月より始まった「熱帯魚は雪に焦がれる」(萩埜まこと)です。先日待望のコミックス1巻が発売されました。
 このところ、水族館が大人の娯楽スポットとして定着したからか、水族館もののマンガも増えているようですが、この作品もそのひとつでしょうか。しかし、水族館という施設を舞台にした作品ではなく、学校の部活である「水族館部」の活動を描くというコンセプトが、とても新鮮な一作になっています。

 水族館部とは何か? これは、愛媛県の高校(長浜高校)に実在する部活で、その名のとおり学校で水族館を運営しようという課外活動。その活動は思った以上に本格的で、校内の一角に多数の水槽を並べ、魚類など水中生物を150種2000匹以上を飼育、定期的に一般公開もしているそうです。このマンガも、実際に高校に取材を行ったうえで、かなり忠実に実際の「水族館部」の活動を描写しており、その活動ぶりがとても興味深い作品になっています。マンガでも愛媛県の長浜がそのまま舞台となっていて、愛媛の方言が使われたり愛媛の実在の場所が登場するところも面白いですね。

 さらには、その水族館部で活動するふたりの少女の懸命な活動と交流の姿が描かれるストーリーもいい。これまでたったひとりで水族館部で活動してきた小雪と、彼女に興味を持って部活に入ることに決めた転校生・小夏。どちらも積極的な交流は苦手な不器用な性格で、孤独を抱えていたふたりがぎこちないながらも少しずつ距離を近づけていく。その姿がとても切なくもいとおしい。最初は水族館での活動に慣れなかった小夏が、小雪に教えてもらったり自分で勉強したことを思い出しながら少しずつ成長していく様子もいいですね。

 作者の萩埜まことさんは、以前は艦これを中心に同人でも活動していて、KADOKAWAのアンソロジーで執筆していたこともあります。また、この連載の始まる約1年前に、「海洋部へようこそ!」という読み切りで電撃マオウコミック新人賞を受賞していて、これが今回の連載の直接の原点にもなっているようです。その頃から柔らかい作画とストーリーが魅力的でしたが、初連載となるこの「熱帯魚は雪に焦がれる」も、その優しい作風がセンシティブな魅力に溢れた作品になっていると思いました。これはまた電撃から要注目の作品で、次に来るマンガではないかと期待しています。