ガンガンの90年代前半から後半への変遷とは?

 先日、宇野常寛氏が主催して刊行されているミニコミ誌「PLANETS」のvol.1(初号)に掲載された、ガンガン系作品の系譜を辿る記事についてツイートしたところ、どういうわけかまとまった反応がありました。しかし、2005年頃という10年以上前の雑誌の記事で、さらには当時は(今でも)まだマイナーだったガンガン系のコミックについて知っている人がそこまで多いとは思えず、政治や思想絡みでの反応が多かった感は否めないところでした。
 月刊少年ガンガンの創刊は1991年。当初から「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」を代表とするドラクエやゲーム、ファンタジー関連のマンガが人気を集めました。しかし、同時にかなり激しいタイプの少年マンガが多く、さらには編集者に何かつながりがあったのか、劇画調の青年誌で活動する作家の作品まで目立つほどで、極めて濃いタイプの少年・青年マンガが多かったと記憶しています。

 最初の4〜5年ほどはこの路線が続きましたが、しかし90年代半ばから誌面の雰囲気に次第に変化が出てきます。わたし自身が、「中性的」と表現する、これまでより優しい(かわいい)絵柄とキャラクター、雰囲気を持つ作品が、変わって人気を集めるようになるのです。ストーリー面では少女マンガ的とも取れる作品、中性的なファンタジー作品やコメディ作品が、90年代後半の雑誌の中心となったのです。「まもって守護月天!」「刻の大地」「浪漫倶楽部」「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」あたりがその代表でしょうか。これは、ガンガン以外のエニックスの姉妹誌全体にも及び、この時に生まれた独特の雰囲気の作品群を称して、のちに「ガンガン系」と呼ばれるようになったのです。

 この変化によって、新しい作風を好む読者が多数出てくる一方で、初期の頃からガンガンを読んでいた読者の間で好みの違いが生まれることにもなりました。変化した後もこれまでどおり愛読する読者と、変化に抵抗を覚えて距離を置こうとする読者に分かれ、一部では軋轢を生むことにもなったのです。そして、これがのちに勃発する「エニックスお家騒動」の遠因にもなり、やがて2000年代になって出版社が分かれる形でガンガン系作品が拡散することになったのです。

 こうした90年代〜2000年代前半を通じたガンガン系作品の変遷、それを「PLANETS」の記事は非常によく捉えていました。年表で主な作品のタイトルを年代別に掲載しつつ、関連したり影響を与えた作品を繋げてそれを巧みに図示していました。90年代前半の少年マンガ中心の誌面から、90年代後半に少女マンガ的作風(ガンガン系)へと変化した流れと、読者の好みの違いまできっちりと把握していたのです。
 ここまでガンガン系を深く理解した評論は、それまでは(あるいはそれ以降も)ほとんど見られなかったもので、その意義は大きかったと思います。同時期に刊行されたマンガ評論「テヅカ・イズ・デッド」(伊藤剛)でも、同じような話が見られたので、この時期にようやくガンガン系にわずかながら評論の目が向いたのかもしれません。その点で非常にいい仕事だったと今でもこの記事を評価しています。