9年目に語る「まなびや」。

kenkyukan2017-08-31


 先日、江の島や鎌倉近辺を舞台にした作品を色々振り返る機会があったんですが、その中でひとつ「まなびや」(小島あきら)を再び振り返る機会がありました。テレビアニメなど他の有名な作品と違い、これはもう随分前にわずかの期間で連載が終わったマンガということで、知っている人は少ないかもしれません。
 「まなびや」は、2009年にガンガンJOKERの創刊号から始まった小島あきらさんの連載です。あの「まほらば」の小島あきらさんの新連載だけあって、創刊号から最大の期待作として推されていました。同時に当時創刊されたばかりのガンガンONLINEでも「わ!」という4コマの新連載が始まり、そちらと並んで当時のスクエニ新雑誌の最大の目玉だったと思います。さらには、このふたつは世界観を共有しており(舞台となる学校が同じ)、一方のキャラクターが何度も他方に登場するなど、作品同士のつながりを探すのも大きな楽しみとなっていました。

 肝心の「まなびや」の内容ですが、高校の新入生の男の子・槙嶋武(マキシマタケル)が、とあるきっかけから高校の映像写真部へと入部することになり、そこで出会う個性的な仲間たちとともに写真の活動に取り組んでいくというもの。武は、離婚して一人身になった父親のもとで、ずっと家事に勤しんできましたが、つい先日父が再婚することになり、家事の時間から大きく解放されることになりました。「これからは自由に自分のやりたいことをやっていい」と勧められましたが、しかし特にこれといった趣味もない。わずかに携帯電話で写真を撮るのが数少ない楽しみでしたが、しかしその写真撮影をきっかけにして、写真を趣味としたヒロインである白雪と出会い、さらには映像写真部への門戸を叩くことになる。そんな自由ながらちょっとした空虚感、寂しさを抱えるキャラクターの心境を丹念に描く、「まほらば」で見せた小島あきらの独特の作風がよく出ていたと思います。

 一方で、個性的過ぎる映像写真部の部員を始めとしたキャラクターたちが織り成す、ちょっと(?)毒のあるギャグやコメディ、随所に織り込まれたネタという、これまた小島さんらしい作風も健在でした。部員のキャラクターたちが、瑠璃や龍胆(りんどう)、擬宝珠(ぎぼうし)に蘇芳(すおう)、薊(あざみ)・金雀児(えにしだ)・苧環(おだまき)と、ことごとく花や植物の漢字の名前がつけられているのも特徴的で、どこか変なキャラクターというイメージを出すのに成功していたなと思います。

 加えて、前述の江の島や鎌倉の舞台を描く背景にも光るものがありました。実在する場所の風景を撮影の位置からきっちりと設定し、作中で詳細に再現する手法を取っていて、キャラクターはシンプルな作画なのに背景は思った以上に緻密でリアル。「写真部による活動」という作品のコンセプトとも合っていて、これもまた独特の魅力を生んでいたと思います。

 これら数々の小島さんらしい面白さから、期待通りの人気で当初から好評連載中だったのですが、しかしわずか5話にして作者の体調不良を理由に連載中断、変わって4コマで作画の負担が少ないとされた「わ!」をONLINEからJOKERへと移籍して継続するという形となりました。「わ!」はその後2年ほど続きますが、その終了後も結局「まなびや」が再開されることはなく、しかもその後は小島さんの活動自体完全に途絶えてしまいました。

 さらに、かねてよりの(「まほらば」の頃からの)深刻な体調不良の話から、「小島さんは本当に死亡したのでは」という話まで読者の間で流れるほどで、一時期は死亡説が有力なくらいでした。それが、2016年になって突然JOKERで原作担当の読み切りで復帰、さらには本人作画による待望の新作読み切りまで掲載され、これは多くの読者を驚かせるに十分でした。
 しかし、その数本の読み切りの掲載後は、またしばらく新しい活動は見られない状態となっており、本格復帰はまだ難しいのかもしれません。個人的には、今度こそ「まなびや」の再開を期待しているのですが、その望みはまだまだ薄いのかもしれない。しかし、いつかあの名作の続きが読めることを期待してやまないのです。