「紋章を継ぐ者たちへ」ついに完結。

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 ヤングガンガン創刊号から途切れることなくずっと連載を続けていたあの「ロトの紋章」の続編「ドラゴンクエスト列伝 紋章を継ぐ者達へ」が、ついに次号ヤングガンガンで完結を迎えます。物語はすでにエピローグへと入っていて、あとは最後の1話を待つのみ。ヤングガンガン創刊が2004年末でしたので、いつの間にか15年もの長期連載を続けたことになります。これは、1991年から97年前半まで、実質6年半の連載で終了した「ロトの紋章」本編の2倍をはるかに超える連載期間となりました。

 

 しかし、連載期間は本編よりずっと長かったのですが、その人気や評価については、残念ながら本編には遠く及ばないところもあったと思います。理由としては、連載序盤は人間同士の争いを描くことが中心で、残虐なシーンも多く、規模の小さい小競り合いを描くことに終始したこと。主人公アロスの性格も、かつての少年マンガらしい明るい積極的な性格だったアルスとは対照的に、内向的であまり表に感情を出さないもので、心情がわかりづらかったこと。ストーリーも全体的に暗くテンポも速くなく面白みに欠ける点が目立ったこと。などが挙げられると思います。連載開始当初こそあの「ロトの紋章」の続編ということでかつての読者を中心に注目を集めたものの、じきにその話題は下火となっていきました。今となっては、もうここまで追って読み続けた人は多くなく、「えっまだ続いてたの?」と思う人が、残念ながら大半ではなかったかと思います。

 

 しかし、ここまでずっとヤングガンガン本誌を購読し続け、曲がりなりにも最後まで追ってきた自分としては、連載が後半に入ったここ最近の「紋継ぐ」は、以前よりも面白く注目すべきところもあったと思っています。


 まず、物語が本格的に魔物との戦いに移り、かつての「ロトの紋章」本編から引き継いだエピソードやキャラクターが次々と出てきたこと。とりわけ、かつてのアリアハンで甦った獣王グノンと再戦するエピソードは、あの名エピソードをリメイクするような形となっており、かつては勇者にとってつらい経験だった戦いが、今では人間達が新しい勇者を全員でバックアップする感動のエピソードになっています。


 また、かつて勇者たちにとっての宿敵で、しかし勇者の優しい心に触れて降伏したあの竜王が、まるで恩返しをするかのように今回は勇者と人間たちをバックアップ、全力を持って勇者たちを修業させ自らも強敵と戦う姿を見せ、これも昔のロト紋を知っているなら泣けるところでしょう。

 

 さらには、物語が最終盤に入ってきたここ最近の展開で、原作ゲームである「ドラクエ」の設定を補完するかのような設定を多数打ち出してきたのも、個人的には見逃せないところでした。あの魔王ゾーマが元は善良な人間であり、勇者をサポートする立場の青年だったとか、ドラクエ2で登場する邪神教団がすでにこの時期から活動しており、あの邪神シドーまで顔見せするシーンなどは、あまりに意外な話で驚いてしまいました。これが原作ゲームにそのまま通じる公式の設定かと言われるとまだ分かりませんが、スクエニから出ている公式のコミックで原作者(堀井雄二)の監修も得ている以上、最低でも「公認」の設定ではあると思いますし、そうした話が出てくることに驚いてしまったのです。

 

 その中でも特筆すべきは、地下世界アレフガルドの「外の世界」についての設定が、納得行く形で語られたことです。ドラクエ1で舞台となったアレフガルドの外には別の大陸があり、それは続編である2の舞台になりました。しかし、さらなる続編の「3」においては、アレフガルドの外側は闇の帳(黒いカーテン)のようなもので覆われており、その外側の世界は無いようにも見えました。ここにおいて、では2の世界は一体どうなるのか、実際のところ「3」の時点ではアレフガルドの外に世界は存在しているのか、新たな疑問が出てきてしまったのです。魔王の力で閉ざされているだけで外側には別の大陸があるのか、それともこの時には外には何も存在していなかったのか。もし存在していなかったのなら2の世界はなんなのか。

 

 それが、この「紋章を継ぐ者達へ」では、かなり納得行く形で詳細に語られることになりました。それによると、やはり3の時点ではアレフガルドの外側の世界は存在していなかったようなのです。それが、精霊ルビスによって新しい大地が創造されて、星の内側(地下)に世界が一気に広がったということのようです。これは、かつてドラクエシリーズをプレイした自分にとって、長い長い間の疑問であったので、それがここに来てひとつの解答が記されたことで、ようやく腑に落ちる形となったのです。

 

 さらに最新のエピローグでは、勇者に協力した竜王が、信頼された勇者にあの「ロトの剣」を託されたり、メルキドの町を守る目的で作られたゴーレムが、誤動作で勇者を襲うようになってしまい、それを防ぐために緊急停止スイッチを設定したとか(ある波長の音を聞かせると眠ってしまう)、ドラクエ1に繋がるような設定まで出てきて、これにはにやりとさせられました。思えば、この「ロトの紋章」自体、ドラクエ3の大ヒットの余波で生まれたアフターストーリーでもありますし、それが最後に原作ゲームに帰る形でこうしたゲームを補完する設定が示されたことは、良い恩返しになったのではないかと思っています。