いぬぼくはアニメ11話こそが最大の傑作だった。

kenkyukan2017-10-05

 先日、あの藤原ここあさんの作品「妖狐×僕SS」のアニメがTOKYO MXで再放送されるという告知があり、MXを見られない自分としてはとてもうらやましいと思ってしまいました。2012年の本放送から実に6年近い時が経ち、原作も終了して久しい今となっての再放送は、かつてのファンにとっては思わぬうれしい出来事でしょう。ただ、ひとつだけ気になることとして、今回の再放送はいくつかの話を選んで放送される「セレクト再放送」であり、その中に第11話「陽炎」が入っていなかった点がありました。
 実は、わたしが以前このアニメをリアルタイムで視聴していた時、この11話がものすごく気に入ってしまい、当時利用し始めたばかりのニコニコ動画の配信で、実に7回か8回も繰り返して見たことがあるのです。この話は、原作でも序盤のクライマックスにあたる箇所で、ここだけは今回の再放送でもどうしても入れてほしかったところです。

 「妖狐×僕SS」は、妖館というマンションに集う妖怪の先祖返りたちの日常と非日常を描いた作品ですが、中でも中心となるのが主役と言える凜々蝶(りりちよ)と双熾(そうし)ふたりの物語だと思います。そしてこのアニメ11話は、その双熾の子供時代からの境遇を、ほぼ全編双熾本人の独白の回想によって語る構成になっています。

 幼少期から実家の旧来の風習によって軟禁されていた双熾ですが、巧みに周囲に取り入ることでついにはある権力者の保護を受けることに成功し、 軟禁から解放されその家で自立までの資金を稼ぐことになる。そこで文通の代筆の仕事を通じて知り合ったのが凜々蝶で、彼女の純朴な内面を知ってひどく影響され、自分のこれまでのさもしい生き方を見返すようになる。そして、凜々蝶に仕えるため妖館のSS(シークレットサービス)となり、彼女に大してどこまでも真摯に仕えるようになる。原作でもここは泣ける話なのですが、アニメでは双熾の独白が、ひとりの声優の熱演によって全編を通して語られることで、さらに心に響く1話になっていました。

 わたしは、この当時は今ほど声優には詳しくなかったのですが、この「妖狐×僕SS」の熱演によって中村悠一さんを知りました。原作ではまだコミックス2巻と序盤のエピソードなのですが、それでもこれは凜々蝶と双熾の関係を最も深く語る重要なエピソードであることは間違いない。今回のセレクト再放送でも、これは絶対にはずしてほしくなかったと思います。